09小さい神様を拾った
春の陽気のような温かさを思い出させてくれる土地は馬車で進むのも楽だ。今は母方の祖父母たちの国に向かっている。彼方の国は大きく王侯貴族の質が高い。母方の国を意識していた祖国を見ての通り、繋がりを持ちたがっていた。
「エメベルマ、少しでも寝られたか」
「うん。兄様」
声をかけられて足をプラプラしていたところで、顔を上げて頷く。それを見ていたらしき父と母は穏やかな顔をして話をしていた。冷戦状態だった父と母。
その他の家族たちは少しずつではあるが、話す程度には仲が緩和した。ギスギスし続けるのも困りものだから、という理由だけど。
別に気にしてない。母と父の仲が良くなくても悪くても自分のやりたいことに影響がなければいい。父もこちらの将来に干渉する権利を失い、憂いはなくなったのだから。
勝手に婚約を結ぼうとしたりすることもない。煩われることのない立場になった父ならば、お好きに過ごしてどうぞといった感じだ。
「森を抜ける」
馬車がコトコト進むと途中で明るい森があり、慣れた車の運転手は心なし早めに進む。仄暗い立地は少し心を不安にさせるらしい。静かな時間であり、なにもない場所を進めば進むほど何かが始まりそうな気分になる。
「わ」
急に馬車が止まり、運転手が人が倒れていると伝えてくる。それを聞いて家族たちは罠かもしれないと顔を強張らせる。強盗とかの常套手段なのだろう。
まだそういうのに遭ったことがないから、詳しいことは知らないのだけど。
揺れた馬車に手をつきバランスを取ると座り直す。向こう側にいる兄を見たが険しい顔をしていて、今何かを話しかけられる雰囲気ではない。
「小さな子供です。いかがしますか」
当主の兄に指示を仰ぐため、護衛が話しかけてくる。子供なら尚更強盗の囮にされやすい。辺りを見回すが気配は感じ取れなかった。戦闘なんてやったとこともないので、気配というものを探れるわけもないから当然のこと。
護衛たちが周りを確認をして漸く敵が潜んでいるか有無を知って、兄たちは子供をどうするか聞かれている。
放っておくわけにはいかないなと家族たちは眉をひそめている。まだ母方の家に着いてもいないのに問題が起こるなんて。
子供は汚れているのかと聞き取り、兄たちが確認してから様子を見に行くと帰ってきた兄は困ったような顔で戻ってきて座り込む。なにか行けないものを見たような顔で青白い。
「兄様?」
「……あの子供は、どう見ても普通じゃない」
「どういうことだ?」
兄に訊ねるのは父だ。いつもなら無視する兄だが予想外のことにスラスラとはいかないが皆に説明し始めた。子供の見た目が綺麗過ぎるし、オーラが尋常ではないとのこと。シャキシャキ話せる上に物事を理解しているのだと言う。
「神かもしれない」
「え、神?」
「そんなことがありえるのか?神が地に誰の庇護も受けずにこんなところに?」
祖父や祖母が信じられないと話す。いやいや、ちょっと待ってほしい。なんだかこちらの感覚と温度差がある。
「精神的な存在としてじゃなくて……今本当にいる前提で話しているの?」
「ん、ああ。祖国ではいなかったがこの大陸には実際に女神や男神が実際に肉体を得ている状態で存在している。我々はその存在を特別に扱い根ざす存在として認識している」
祖父が子供に言い聞かせるように言い出す。パチパチと目を瞬く。嘘じゃないの。皆でエメベルマを担いでいるとかじゃないよね。
「生活しているの?」
「してる。見たことはないが」
全員見たことはないと言う。普通は神殿に住み、王城にいたり自然豊かな土地で生きる存在もいるらしい。しかし、どの姿も大人の姿であり、子供の姿で土などで汚れているからどこかの国の国人間に庇護されている様子はない、と兄は告げる。
「保護するの?迷子の子供」
「ああ」
「するしか、ないよな」
「孤児院に入れるわけにもいかんだろう」
神を人間の子供と同じ施設に入れるわけにもいかないと、満場一致でここへ連れてくることにした。
連れてこられた子供は確かに、見た目からして普通ではなかった。さらさらツヤツヤの金色のふわふわした長い髪。ぷっくりした肌は苦労知らず。
「お初にお目にかかる。私はこの家の当主としてかつて他国で貴族を王から授けられていたものです」
兄が震えながら我慢をしつつ、頭をそっと下げた。エメベルマも含めて皆が頭を下げる。
「いえ、お気になさらず」
素っ気なさの中に恥ずかしさを隠した態度だと看破してしまう。エメベルマはわかりやすい神だな〜と内心観察対象として認定した。目の前に人間じゃない存在がいたら、見ないなんてできない。
「エメベルマ、この方は雷神なのだそうだ」
祖父が恭しく説明してくれる。挨拶をした後はなにごともなかったかのように馬車は進む。今はまだ寝るところもないのだから、そこへ行くまで保護も何もできやしない。
エメベルマと呼ばれて向くと祖父が困ったようにこちらを見ていた。どうやら神とやらに話しかけて欲しそうにしている。家族の中で一番、話すというコミニケーションが苦手なのを忘れているのだろうか。
「雷神様、お腹は空いてませんか?」
母が話しかけるが首を振られて益々、やりづらくなる。保護しなきゃ良かったのではと過ったのはエメベルマのせいではない。家族たちもこれからだというのに。




