10一方、王家の人間たちは後悔に泣く
神というのならば一人で生きていけるんだろうし、過保護にしなくてもいいんじゃないかな。納得できない部分となぜ幼児の姿なのかという謎が気になる。
「神様、ここに来て何日くらい?」
子供姿なのでエメベルマも姿に習って馴れ馴れしくやることにした。子供なのは本当だし、話し方だけお姉さんぶれば相手も子供だからで思ってくれるなら上々。
「十日ほどだ」
「何か食べたの?」
「まだだ。食べなくても死なないからな」
大人には敬語だったのに子供には同じような口調で話す。そこを突いて自分で考えたものを口に出すことにした。それと同時にカバンに入れていたものを取り出す。
「ふーん」
と言いながらモグモグ食べ出す。そうして美味しそうにを心がけて、食べ続けていると子供姿の相手は興味を抱いたのか、耐えきれずに質問してくる。
「それなんだ」
「これは飴。作った。甘くて皆にも人気で何度も作って上手くいくようになった」
本当は祖国で売るつもりだったのだが、一歩遅れて今から行く国で売ることにした。生まれた国で売っていたらそこで大人気になっていただろうに。
王家はこの家だけではなく、金のなる木すら手放したことをいつか理解してしまうだろう。その時の悔しい顔を見てみたい。この神に頼んだら、そう言う場面を切り抜いた映像でも見せてくれないかな。
将来はそんな感じの魔法も作りたいが、今は魔法についての知識を溜め込むことに集中するために、現在は片っ端から本を読んでいる。
「飴」
あめ、あめと舌っ足らずな声が馬車の中にこだまする。ここまで小さな子供など久々の面々は頬を緩ませた。エメベルマだけは例外的に首を傾げる。見た目は子供だが中身は違うらしい。なぜ子供の見た目の神は今も精神的にまるで子供のように振舞っているのかわからない。
こちらを見たまま飴を渡して食べるのを見せるとその子も食べた。ようやく何か口にしたことに皆安堵。周りもやっとなにかしたことが、いい方向に行くことで空気もよくなる。
「!……甘い」
神なのにふくふくしてて反応も可愛い。頬をツンツンしたくなる。ふっくらしていて、ただの子供にも見えるし神聖さも感じる不思議な子だ。これがそのような存在だというのならば、確かに彼は神の一人なのだろう。可愛い子だと皆が穏やかな気持ちに満たされた。
*
「なに!?」
一方、高位貴族であり後見人として、後ろ盾で王家と繋がりの深かった貴族の一家が国を出ていった報告を国境の兵士たちから伝えられて、王家は嘆いた。
「ああ、間違えたっ」
残ると思っていた父親も共に連れて行った聞き、アプローチの仕方を間違えたと頭を抱える面々。今後、後ろ盾を使えず王家への目が厳しくなるだろう。
「あなた……」
王妃が肩を掴むが、息子の暴走にうまく対応できず。最後の最後に見放された。いや、元々初めからもう見放すことを決めていたのかもしれない。父親を餌に子供心を利用して、縁を息子と結ばせようと二心を膨らませたのが大間違いだった。
息子のせいだけではない。そのほとんどが、王家の大人たちの思い違いなのだ。息子は大人たちに利用されて、いつの間にか初恋を逃させてしまった。
手放させたものは手に入れられるものではなかったが、それでも息子には伝えなければならない。自国の貴族でもなくなったのだと。息子を呼び、ことの具体的なことを説明する。
まだ、理解できないかもしれないが辛抱強く、説明し続けるしかない。傲慢に育ってしまった責任もまた、親が責任を負う。息子がこちらに来ると例の令嬢がまた来たのか、手紙でも送られてきたのかと期待に満ちた顔をする。
顔の輝きを見てから、焦がした魚の大きさに内心ため息を吐く。あの令嬢は確実に息子よりも溌剌としていて、頭も良さそうだった。王の子は年相応だ。
特別賢いわけではない。王室の教育が行き届いている故の教育の結果なだけ。王も同じ歳には同じ歳の子よりも、よく物事を知っていた。賢さをひけらかすためではなく、人に騙されないようにだ。
王子の場合は人間に対して誰よりも偉いと理解してしまって、偉ぶっているだけ。大人と年下の男の子の受けはいいが、女の子や女性の受けはよくない。
威圧感があり、将来暴君になると思われかねないので性格を直すように指示しているのだが、王の子である自覚もありなかなか矯正されない。今回、それが仇になったのだ。
よりにもよって婚約者にしようとしている女性に対して、偉ぶってもいいことなどない。夫になる相手に初対面で命令されたり、怒鳴られていい夫になると思う人間はいないだろうから。
教育を間違えたというより、ちゃんと叱らなかった大人が悪い。親である自分たちがきっかけだ。今回のように後ろ盾になってくれていた、先代からの家を今後も支えてくれるからと甘えて傍若無人に振る舞ってしまった。
「エメベルマ嬢はもうこの国にいない」
言うことを聞いてくれると思ってしまった、慢心が起こしたこと。
「え?」
頭を下げて、椅子に腰掛けていると息子が戻って来ないとはどういうことだと泣き出す。
「ど、どういうことですか?父上?母上?」
母親もここにいたが、後ろ盾を無くしたことにショックを受けて泣いていて言葉を紡げないだけ。しくしく泣き、目は真っ赤になって目元を腫らしている。
「嘘ですよね?婚約、したって言われたから楽しみにしていたのにっ」
「お前は嫌だと言っていたのにか」
「あ、あれは……だって」
途端に拗ねた顔をする。怒鳴りつけたくなったが、怒鳴りつける前に怒られるのは自分たちになるだろうと、他の貴族たちから筆頭の王家派を他国に行かせた責任を問われるだろう。
「引退か隠居か」
どちらも意味は同じだ。王妃と目を合わせて今後の未来の暗さに、息子はまだ気づかない。王子は嫌だ嫌だとボロボロ泣いて、謝るからと言っているが王家の人間ごと嫌われてしまっていて。
子供だから許すという都合のいい夢などどこにもない。息子と娘を無理矢理婚約させたことが発端なので、王子など殊更、近づこうとしたら警戒されて二度と会わせてもらえない。
親族や身内に嫌悪されているともまだ伝えられず。こうして、親子共々、ただメソメソし続けても戻って来ない。息子は認めないと呟き、親の部屋から飛び出した。
この国に戻ってくることはないので、婚約の可能性は消えた。いずれ、他の令嬢を当てがう時に同じことをしないようにしないと繰り返す。それまでに息子から恨まれるだろう。
「親を恨ませるなど、やってはいけなかったのだな……」
「ううっ」
奇しくも、エメベルマの父親に体験させたような感情を将来向けられることになって。どれほど残酷なことをしたのかを知ったのだ。
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