08子供の戯言だろうと王家の人間の発言は重い。まあ、学べてよかったんじゃないでしょうか
勇足だ。勇足は自爆する前兆なんだけどなぁ。
「お前っ、お前があの日帰ってからおれは怒られたんだからなっ!?」
「やめなさい!」
同席させなきゃよかったのに。王子が一人で暴走し始めている。嫌な兆候だなと周りも焦り出す。
「お前のせいでっ。お前なんて大嫌いだ!出ていけ!おれの国からっ、出ていけよっ」
王子が叫んだ途端、シーンと音がなにもしない時間ができた。王家は最悪のカードを切ってしまったみたいだ。
「わかりました。では、うちはこの国を出ていきます」
「ま、待ってくれ!これは子供の戯言だ!」
王や周りの王族たちが慌てるが時すでに遅し。祖父が兄に代わって返事をする。前代当主の言葉は決まりの響きが濃厚で、王家は焦りまくっていた。
今更今の言葉は無しでなんて言うほど、王族の言葉は軽くないはずなんだけど彼らは最も簡単に戯言なんていう。
「戯言?では、今まで王家の言葉が全て戯言と受け取っても良いと?これはこれは。全ての貴族たちに教えてあげないといけませんな」
祖父が酷く強い眼力で王家の面々を見ていると王子にも当たり前に当たり、彼はぷるぷるしていた。あれってもしかしてトイレ一歩手前なんじゃないか。
下手をしたらもうダメかもしれないくらい震えている。祖父の目を見ると、無事な人なんて身内程度だ。父はどうなのだろうと見ていると、耐えている。
父だけ負荷値が段違いなようで空気が震えていた。意地で耐えているらしく、王家の面々は全滅だ。体も心もぐったりしている。
祖父に意見して怒られたらこうなるといった見本であり、見せしめ。祖父を怒らせる理由としてたっぷり積み重ねていっていき、遂に国外追放に近い交渉決裂。
王子が言ったのならばそれは王家の言葉。貴族にかけられたのなら決定事項。子供の戯言にはならない。王子は子供だろうと王室の人間。
「はは、では我らは出て行く準備があるので失礼させていただきます」
「失礼いたします」
「会うことはないでしょうからお元気で」
母も祖母も兄もさようならを皮肉を込めて言い放つ。エメベルマも何か言うべきかなと王子に向けて笑みを浮かべた。
「え」
王子の顔が赤くなった。
「あなたと婚約したくなかったのは私もなのでお互いしなくてよかったですね」
「え、あ、ちがっ」
笑顔に何か感じたのか、赤面して声をかけようとしてきたが国から出て行けと言った舌の根も乾かないうちに、何を言おうと言うのか。
知りたくもない。知る必要もない。どうせ撤回するとか今の言葉は本気じゃない、本音じゃないとかなんとか言い出しそうだ。王もその尻馬に乗って撤回する!と言いそうで。
所詮は思考が似たもの親子。
茶番にも軽い王家の者の発言に付き合ってはいられない。どうせ父へ頼んだ後ろ盾の婚約も、軽い口約束だからそっちが重く受け止めたなんて言って、父やこちらの勘違いなどにしようとしたんじゃないかな。
そんなわけないだろうとツッコミ待ちかなにか?
王家の発言を貴族の父が受け止めて実行としたのは、軽い受け取り方でもないし気持ちでもないはず。うまくいけばよし、失敗したら本気じゃなかったことにすればいいと勝ち馬を、どっちでもいいように後出ししただけだ。
狡いなんて物じゃない。貴族全てを軽んじるやり方だ。
今回のことだって、言い方を変えればこちらが深刻に受け取ったのならば今度こそ王族たちも本気で向き合うから、婚約しようと言えばいい。父がやったことは余計なお世話だったと言わんばかりに。
実際父をスケープゴートにしようとしていた気配がある。父を生贄に切り捨てられるから、こちらが父を切り捨てても拾いあげたりまた捨てたりできる、便利な存在だろう。
親に情を持つかもしれない期待もあるだろうから、利用したらこちらがまだ揺らすことができるかもしれないと思うかもしれない。
そんなことをされないためにも一切こちらに、父に未練があるなんて感情を欠片も垣間見させてはいけないのだ。
ちらっと前を向くときにこっそり父を見たが、項垂れていて顔はよく見えなかった。我が家が出て行くと聞いて、いよいよ復縁は絶望的なのだと思っているのだろうか。
「エメベルマ、先ほどの最後の声掛けは見事だったわ」
母が褒めてきた。廊下に出ると一目散に出口を目指す。王家が動く前の荷造りだ。それより前に、こうなる可能性もあったから実はほとんど作り終えている。
家族全員、屋敷をもぬけの殻にする計画を立てているのだ。父も知らず、計画は秘密裏に行われていた。せっせと荷物を馬車に入れる作業をして、あとは馬車を出すだけだ。
「ま、待ってくれ」
誰か駆け込んでくるなと見ていると父だった。はぁはぁと馬車を前に、ヨロヨロと母の乗る車を見つけて駆け寄る。
「頼む……置いて……行かないでくれ……一緒に連れて行って欲しい。雑用でもなんでもする」
「王家の方々の犬はやめましたの?」
痛烈な皮肉に兄と目を合わせ軽く肩をすくめ合う。祖父と祖母も父をいないものとして扱い、何も聞いていないフリをする。
「やめた……いや、家からお前たちがいなくなってからやめている。今回は少しでも話せたらと招待を受けただけで、王たちの側のつもりはなかった」
王たちはそんな風に思わせたかったみたいだがと、自嘲した口元に相手の思惑を乗せる。エメベルマもそれは感じていた。父はもう誰の側でもないと。
「二度と王家にも他家にも娘を差し出さないと誓えますの?」
「誓う」
「まぁ、もうあなたは籍を抜かれているのであなたの娘ではないですがね。利用は無理になりましたから、企もうと関係なくなったのよ」
「知ってる」
父は今平民だ。兄に当主を譲るときに祖父が父の籍を抜いたのだ。苛烈に怒りを熱していた祖父も祖母も異論はなく、呆気なく抜かれた。
「母様、今の父様は人畜無害ですからよろしいのでは?」
「エメベルマ、いいのか?」
兄と母がこちらに目を向け、父ものろのろと見上げてくる。
「父様に当主は荷が重かっただけでしょう。今はもうなくなったのだし気楽になって逆によかったんじゃないと、ね」
器じゃなかった、これに尽きる。祖父たちも確かにな、と頷くので役不足だったのは公然の秘密なのだ。母はこちらを見て愛おしい娘、とエメベルマの頬を撫でてから父へ乗るように促す。
父は許された同乗にヨタヨタと椅子へ座った。広いから、全員近いというわけではなく、例えるのならば小さな個室ほどある。余裕で一人一人の幅が取れるために、父が入ってきてもキツくない。
「ありがとう」
「あなたが最初に手放した愛に感謝なさい」
「ありがとう、皆」
もしかしたら皆なんとなくくるのではないか。ここに乗る可能性も視野に入れて動いていたのではないかと、父が再び集合した絵面を見て大人たちの推察眼に痺れた。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。大人達はお見通しでしたね




