06自分達が一番じゃないのが嫌だったらしい
確かに謝らせる名目か、エメベルマに接触させるためにその場に居させる可能性は大いにある。向こうがその気ならば受けて立つと、皆気合いが入る。誰もが、無意識に利用しようとした相手へ、思うところがわんさかあるのだから。
「ドレスを決めなきゃね。勝負に必要よ」
母が勝気に笑う。母は父が絡まなければ祖母によく似て気が強い。父が腑抜けたので気落ちしていただけだ。いつもの調子になっているので、彼らへ一刺しししてやりたいと息巻いている。
「私もデザインをしたい」
エメベルマが手を上げる。とびきり良いデザインを思いついたのだ。それを着ていきたい。もしかしたら、父と会うのは最後になるかもしれないのだから。可愛い姿で覚えさせておけばいい。
父もさぞ嬉しがって、なにをしてしまったのかも思い出すかもしれない。無理矢理結婚させようとする、という残酷な真似を。自分が同じ目にあったら反抗するだろうに。想像できない男だっただけなのか否か。
王太子候補の男の子があんなに言ったのにうまくいくなどとよもや本気で思ったのなら、父はもう考えることを放棄しているのだろう。
父が本来守るべきは王家などではなくて、うちの家族たちだ。それを放棄したものを誰も許しはしない。血族を守らず恩もない相手を優先する行為。
仮になにかあって戻って来れても、当主はすでに兄に渡っている。父に何かの権限はもうないのだ。娘も息子も好きに扱うことは実質不可能ということ。
なのになんの話し合いなのかと思う。壊したものは戻らないというのに。
「どうするの?」
「どうする?」
「どうしましょうか」
「あちらの思惑に一応乗るとして。どんな出方をするのか、見てみようではないか」
兄がため息を吐きながら当主として決めていく。ちんくしゃな小手先に囚われる家では無い。向こうが利用するというのならあえて、何をするのかを知りたくもあった。
「向こうの用意した仲直りの場とやらを見せてもらいに行こう」
兄の言葉を合図に家族たちは準備を始めた。一人一人に目を合わせて頷き合う。エメベルマはそれを見つめてこの家に生まれてよかったと深く感謝をした。
デザイナーの人に母と共にドレスをデザインしてもらい、早くできるように頼み、戦闘服のように顔を隠す扇子を選ぶ。どれも豪華で品がある。
「お母様、これは?」
「ブルーホワイトという宝石よ」
「付けていくの?」
「お父様にもらったものよ。油断を誘うにはいい品なの」
「それが」
夫から貰った物を付けていけば、仲直りの意思があると相手側に勘違いさせられる。母はやはり甘いだけではない厳しさも持ち合わせているらしい。
「お母様いいの?引導を渡すことになるのかもしれないけど」
「構わない。最後まで王家に利用されると言うのなら、もうあの人は私の夫ではないということなのよ」
「お母様……」
「私がフラフラすると子供を不安にさせてしまうのはわかっていたのだけれど、踏ん切りが付かなくて……申し訳なかったわね」
「ううん。お母様がそれだけあの人のことを好きなのはわかってるから」
別に父がアレソレになっても、無理矢理こちらへ来させて二度と政務に関わらせないことなど簡単なのだ。今後一切の干渉を許さずに、別邸に押し込むことなどたわいも無い。
「私は構わないよ。またお父様と暮らしても。王家贔屓が嫌なだけでそれ以外は普通だしね」
「そこだけが短所なのよね。目を覚ましているといいのだけれど」
手を頬に当てて、困ったように笑う美女。そんなところも可愛いので大丈夫だ。王太子たちはきっとその時にどさくさに紛れてこちらに謝罪と称した関係修復を提案してくる。と、思う。
「何がしたいのか今もよくわかってない。後ろ盾欲しさに離反させたら世話ないでしょ?」
言葉を集めて取り出しても何度も考えようと、向こうのやりたかったビジョンが浮かばない。うちの怒りを無駄に買い付けるだけだ。
王家はたった今も全員の反感を得た。見事なくらい。我々の逆鱗を毎度毎度、遠慮なく素手で触る人たち。
そんなのでよく王族として生きてきたな。絶対にうちにおんぶだっこで生き延びてきただろう、と歴史で何となく察している。だからこそ、今度こそうちより上に立ちたかったのかな。プライド的に。
長い歴史の中で我々の立場が入れ替わっていた時期もある可能性があった。少し違和感がある時系列や、顔の造形がこちらの顔と似ている人たちもいて、お互い血が交わっていることもあるのだろう。
それが王家にとって嫌だったのかもしれない。初期の王家にとっては喜ばしくても何代も先の王たちにとっては、忌々しかったのかもしれない。
今の王家は嫌だった王たちの思考を伝承していたりしたら、王家はうちを追い出そうとしたり壊そうとするのかも。殆ど妄想、いや、ほぼ妄想だ。
しかし、他に王家がこちらを攻撃してくるメリットがあまり思いつかない。好きだけど壊してしまうこともありえるのかも。
本人たちに聞かないと真相なんて闇の中。聞いても嘘だらけの本心を語るかもしれないなと詮無いことを考える。
「行きましょう」
ドレスに身を包み馬車に乗り込む。今から家族たちと総本山へ赴く。母の声で兄が最後に乗り込む。一番初めに降りられるようにだ。当主としての役目である。




