02家族は満場一致で父を捨てることにした
断らなかったことを詰め寄られて、冷や汗をかいていた。責められて、待ってくれ待ってくれと二人の猛攻を止めるが二人は、説明されたって納得できないと言い切る。
王太子と婚約させられた自分も嫌で嫌でたまらないのに、そうだそうだと二人の背中を押すように頷く。
父の味方はしない。最初王に強気だったのに途中からなにか考えに変化したような気がする。
「お父様は私を生贄にするの?」
生贄と言葉が出てきて首を傾げた。そんな父は違う!と否定してくる。否定されても、現に婚約はまだ続いているし。生贄なんてとんでもないと手を振る父。
段々三人の視線がじろりと疑いの色に変化しており、信頼さえも今日でかすみのようにかき消えそうだ。それを肌で感じ取ったIQの高いはずの父。
「き、聞いてくれ」
「ええ、ええ。私たちは聞いておりますわ?」
「ええ、父上。私も聞いています。では、はい。どうぞ」
さぞかし、皆が納得する内容なのでしょうね?という二人の目が相手を射抜く。
「それは」
「「それは?」」
ごくりと父の喉が動く。そんなに言いにくいのかな。
せめて割を食う自分には知らせるべきじゃないかな?
「それは……派閥の問題で」
「え?そんなことで?」
子供だから理解できないから、そんな理由で否定されるには程度が低く感じる。なにが派閥なのか?という疑問を抱かせた。そんなことで自分はあんな子供と婚約させられたの?
派閥ってなんだろう?の説明を父はし始める。自分にもわかりやすいように噛み砕いてもらう。
まあ、簡単に言うと王子の母親。この国の王妃の生家の爵位は低くて、後ろ盾が弱いんだそう。
「あの、父上、それは王が王妃と出会って婚約する前からわかってたことですよね?」
爵位が低くて派閥で苦労することなんて、ずっと前、親世代より前から予期できたことだと思う。そう兄は指摘する。
「そうですわ?うちの娘を政略結婚させるにしても、捨て鉢と結婚させるなんて、あり得ません!」
母が否定する。母もきっすいの令嬢なので結婚、婚姻について嫌と言うほど理解しているのだ。
自分とて理解しているが、貴族のきの字も学んでないあの子と過ごすなんて嫌だ。
「それに」
兄が父を追い詰めようとしている。
「なんだ?」
「話を聞いていると、王太子は産みの母親の爵位が低くて継承権が考えているよりも微弱なことを自覚してませんよね?」
父は重いものを動かすように肯定する。
「ああ、そうだな。全く自覚がなかった。いや、むしろ、王よりも上だと思っている節がある」
確かに思い出したら王の言葉を無視したりして軽視していたなと。
兄は呆れた顔を浮かべてそんな子供と妹が結婚するなんて、結婚させるなんてと父の思考がわからなくなっていた。
父はこちらから手を離して唸り出す。家族に挟まれて四面楚歌らしい。今にも外に飛び出しそうだ。家族達の会議結果は婚約をなかったことにしろ、というわけである。
婚約者にしたのに、よりにもよって王家の尻拭いということになる。
「え、お父様?私は最低な王子と婚約しながらその父親の面倒まで見なくちゃならないんですか?」
深淵の瞳を父に向ける。真理を告げられ父はガクッと体を下ろして娘の肩を掴む。
「そんなわけがない!少しの間だけだ。すぐに白紙にする」
「私の肩書きは自由にできるようなものではなかった気がしますけど?」
「そうですわ?旦那様?」
母が圧のある瞳を父に鋭く刺す。
一つにだって可能性がない。よいところもない。そもそも後ろ盾が強い娘を娶ればよかったのだ。なぜ、子供時代を巻き返そうとしているのだろう。
「それに、あなたは私に娘は婚約者を選ぶ立場にすることを約束して婚姻を申し込みましたわよね?」
「……あ」
反応は完全に忘れていたものだ。父は母に求婚した際、母は子供が生まれたら自由に婚姻を許すことを条件にした。
自分たちが自由に婚姻しておいて、子供たちには政略を押し付ける真似はしないでと。
それを破ったのだ。父はさらに汗を流して体もガクガクと震わせている。それを見た兄が白けた視線を浴びせ。
「母上、父上は破ったので離縁し私たちとだけ暮らしましょう。父上、ここまで育ててくださったことだけは感謝しております。妹を不幸にする婚姻をさせようとするあなたには、心底ガッカリしました」
冷笑を浴びさせて辛口な毒舌を告げる兄と「そうね」と口にして立ち上がる母。父はハッとなり母のところへ行こうとしたが「来ないで」との言葉に足は止まる。
母は足元にいる虫よりも低い価値を示すように底冷えした空気を纏っているのに気付いたのだろう。父は焦りなにか言おうとしているが何も言えなくなっている。
その間にも部屋に行き、出ていく準備をする。父はワタワタするがテキパキと準備を終えていく。婚約を断るのかと思いきやそのまま流れに身を任せているような責任のなさに彼らは辟易したのだ。
父が母に否定されてうかうか見ている間に皆は外へ出て馬車に乗り込む。それをしょぼくれた顔で見送る父を見ながら、そんなに嫌ならば、婚約なんてしなかったらよかったのにと他人事に思った。




