ー第4項 露店が立ち並ぶグルメタウンへの変貌、苦しみさえも肴に変える新しい死生観の誕生と定着
第4項 露店が立ち並ぶグルメタウンへの変貌、苦しみさえも肴に変える新しい死生観の誕生と定着
それからの変化は劇的だった。
「魔物は美味い」という事実は、領民たちの恐怖心を根底から覆した。
今や監視塔の鐘が鳴ると、人々は武器ではなく、包丁と皿を持って飛び出してくるようになった。
広場には常設の屋台が立ち並ぶようになった。
『ゴブリンの肝のアヒージョ』『コカトリスの唐揚げ』『クラーケンの足の踊り食い』。
バッカス流の醸造酒に合う、濃厚で刺激的なメニューが次々と開発されていく。
近隣の領地からも、噂を聞きつけた冒険者や商人たちが忍んでやってくるほどだ。彼らは教会の目を盗み、背徳的な味に舌鼓を打つ。
そして、食文化の変化は、精神の変化をもたらした。
ある夜、酒場で老人たちが飲んでいる席でのことだ。
一人の老人が、腰をさすりながら顔をしかめた。
「いてて……腰が痛くてたまらんわい。もう還る時期かのぉ」
以前なら、周囲は「天国に行けますように」と祈っていただろう。
だが、今の彼らは違った。
「馬鹿言え。腰が痛いのは、生きてる証拠だろ」
「痛みを忘れるために飲む酒が、一番美味いんじゃねえか」
「違いない! 死んだら痛くもねえが、酒の味もしねえからな!」
「ガハハハハ!」
『生老病死』。
人が避けることのできない四つの苦しみ。
老いる悲しみ、病む苦しみ、死ぬ恐怖。
それらすべてを、彼らは「酒を美味くするためのスパイス」として笑い飛ばし始めたのだ。
「最近目が見えなくなってきたが、その分、酒の香りがよく分かるようになったわ」
「俺なんか肝臓が悲鳴を上げてるが、そいつをなだめて飲む一杯がたまらねえんだ」
悲壮感はない。あるのは、刹那的でありながらも強靭な、生への執着と肯定だ。
苦しいから死にたい、ではない。
苦しいからこそ、今この瞬間を味わい尽くす。
それは教会が説く「来世での救済」とは真逆の、「現世での全肯定」だった。




