↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/25

ー第3項 広場で行われる解体ショーと聖女の悲鳴、そして完成した魔物料理がもたらす背徳的で圧倒的な満足感

第3項 広場で行われる解体ショーと聖女の悲鳴、そして完成した魔物料理がもたらす背徳的で圧倒的な満足感


 一時間後。

 領地の広場は、巨大な野外キッチンと化していた。

 仕留められた数頭のアーマード・ボアが吊るされ、手際よく解体されていく。血抜き、皮剥ぎ、部位ごとの選別。

 俺の前世の知識である「適切な血抜きと熟成」の技術指導により、彼らの手際はプロの肉屋顔負けだった。


「レバーは鮮度が命だ! すぐに冷水で洗え!」

「バラ肉は角煮にするぞ! 酒! 酒を持ってこい! 煮込み用だ、飲むなよ!」


 あちこちで焚き火が起こされ、大鍋が煮えたぎる。

 香ばしい肉の焼ける匂いと、甘辛い煮込みの香りが領地全体を包み込んでいた。


「し、信じられません……魔物を食べるなんて……」


 エリスは広場の隅で、青ざめた顔で口元を押さえていた。

 教会では、魔物は「穢れた存在」とされ、その肉を口にすることは禁忌に近い扱いを受けている。


「穢れ? 煮沸消毒とアルコール消毒ですべて解決だ」


 俺は焼き上がったばかりの猪肉の串焼きを手に、エリスの隣に座った。

 表面はカリッと焦げ目がつき、中はジューシーなピンク色。滴る脂が炭に落ちてジュッと音を立てる。

 俺は特製のスパイス(岩塩と香草、そして乾燥させた『おつまみ』の脱皮した皮を粉末にしたもの)を振りかけた。


「ほら、食ってみろ。これは『命』だぞ」

「い、要りません! そんな野蛮な……」

「そうか? 彼らは生きるために襲ってきた。俺たちは生きるために食う。これほど対等で、清々しい関係はないと思うがな」


 俺は串にかぶりついた。

 口の中に溢れる濃厚な旨味。野生の荒々しさと、丁寧な下処理による繊細さが同居している。そこに冷えたハイボールを流し込む。

 ……優勝だ。

 俺の表情がだらしなく緩むのを見て、エリスの喉がゴクリと鳴った。

 彼女の生理的欲求は、教義による理性を凌駕しつつあった。なにせ、この貧しい領地に来てから、彼女もまともな食事をしていなかったのだから。


「……ひ、一口だけ……味見だけですからね……!」


 震える手で串を受け取るエリス。

 恐る恐る口に運び、小さな一口をかじった瞬間。

 彼女の碧眼が大きく見開かれた。


「んんっ……!?」


 『おつまみ』がすかさず彼女の肩に止まり、「美味しい」という感情を増幅させるフェロモンを送り込む。

 次の瞬間、聖女は猛烈な勢いで串焼きを食べ進めていた。


「な、なんですかこれ! 美味しい! 悔しいけど美味しいです!」


 涙目で肉を貪る聖女。

 その姿を見て、俺は確信した。

 この領地は、もう誰にも止められない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。