ー第3項 広場で行われる解体ショーと聖女の悲鳴、そして完成した魔物料理がもたらす背徳的で圧倒的な満足感
第3項 広場で行われる解体ショーと聖女の悲鳴、そして完成した魔物料理がもたらす背徳的で圧倒的な満足感
一時間後。
領地の広場は、巨大な野外キッチンと化していた。
仕留められた数頭のアーマード・ボアが吊るされ、手際よく解体されていく。血抜き、皮剥ぎ、部位ごとの選別。
俺の前世の知識である「適切な血抜きと熟成」の技術指導により、彼らの手際はプロの肉屋顔負けだった。
「レバーは鮮度が命だ! すぐに冷水で洗え!」
「バラ肉は角煮にするぞ! 酒! 酒を持ってこい! 煮込み用だ、飲むなよ!」
あちこちで焚き火が起こされ、大鍋が煮えたぎる。
香ばしい肉の焼ける匂いと、甘辛い煮込みの香りが領地全体を包み込んでいた。
「し、信じられません……魔物を食べるなんて……」
エリスは広場の隅で、青ざめた顔で口元を押さえていた。
教会では、魔物は「穢れた存在」とされ、その肉を口にすることは禁忌に近い扱いを受けている。
「穢れ? 煮沸消毒とアルコール消毒ですべて解決だ」
俺は焼き上がったばかりの猪肉の串焼きを手に、エリスの隣に座った。
表面はカリッと焦げ目がつき、中はジューシーなピンク色。滴る脂が炭に落ちてジュッと音を立てる。
俺は特製のスパイス(岩塩と香草、そして乾燥させた『おつまみ』の脱皮した皮を粉末にしたもの)を振りかけた。
「ほら、食ってみろ。これは『命』だぞ」
「い、要りません! そんな野蛮な……」
「そうか? 彼らは生きるために襲ってきた。俺たちは生きるために食う。これほど対等で、清々しい関係はないと思うがな」
俺は串にかぶりついた。
口の中に溢れる濃厚な旨味。野生の荒々しさと、丁寧な下処理による繊細さが同居している。そこに冷えたハイボールを流し込む。
……優勝だ。
俺の表情がだらしなく緩むのを見て、エリスの喉がゴクリと鳴った。
彼女の生理的欲求は、教義による理性を凌駕しつつあった。なにせ、この貧しい領地に来てから、彼女もまともな食事をしていなかったのだから。
「……ひ、一口だけ……味見だけですからね……!」
震える手で串を受け取るエリス。
恐る恐る口に運び、小さな一口をかじった瞬間。
彼女の碧眼が大きく見開かれた。
「んんっ……!?」
『おつまみ』がすかさず彼女の肩に止まり、「美味しい」という感情を増幅させるフェロモンを送り込む。
次の瞬間、聖女は猛烈な勢いで串焼きを食べ進めていた。
「な、なんですかこれ! 美味しい! 悔しいけど美味しいです!」
涙目で肉を貪る聖女。
その姿を見て、俺は確信した。
この領地は、もう誰にも止められない。




