ー第5項 聖女の困惑とバッカスの宣言、これはただの領地改革ではなく幸福をめぐる宗教戦争の始まりである
第5項 聖女の困惑とバッカスの宣言、これはただの領地改革ではなく幸福をめぐる宗教戦争の始まりである
聖女エリスは、震える指で窓の外を指さし続けた。
彼女の理解の範疇を超えた光景がそこにはあった。本来なら祈りと静寂に包まれるべき朝に、男たちの野太い掛け声と、鍬が土を打つ音がリズムよく響き渡っているのだから。
「こ、これは間違っています! 人は神の試練を受け入れ、慎ましく生きるべきです! こんな……こんな獣のような欲望を剥き出しにして……!」
彼女の顔は真っ赤だった。怒りなのか、恥じらいなのか、それとも未知の価値観への恐怖なのか。
俺は机の上に置いてあった昨夜の残りの酒瓶を手に取り、軽く揺すった。
「獣で結構。慎ましく死を待つ聖人より、欲望にまみれて生きる獣の方が、少なくともこいつ(酒)を美味くしてくれる」
「貴方は……悪魔ですか?」
「いいや、元化学屋だ」
俺はニッと笑い、瓶の栓を開けた。プシュッという炭酸の音が、静寂な執務室に不敬に響く。
その匂いに反応して、俺の肩の『おつまみ』がフワリと浮き上がり、エリスの方へと飛んでいった。
「きゃっ!? な、何ですかこの毛玉は!」
「そいつは『おつまみ』。俺の相棒だ。どうやらお前のその『堅苦しい説教』も、こいつにとっては美味い餌になるらしい」
『おつまみ』はエリスの周りをくるくると回り、彼女が発する「義務感」や「焦燥」といったストレスフルな感情を吸い取ろうとしているようだった。
エリスが必死に手で払いのけようとするが、毛玉は柳のようにかわす。
「や、やめなさい! ……あ、あれ? なんだか……肩が軽くなったような……」
一瞬、エリスの表情から険が取れた。
だがすぐにハッとして、彼女は自分の頬をパンと叩く。
「いけません! 惑わされては! 領主様、私は認めませんよ。こんな不浄な活気、すぐに元の敬虔な領民たちに戻してください!」
「戻す? 彼らが望んで畑に出ているのにか? 無理だな。一度知ってしまった快楽は、そう簡単には忘れられないもんだ」
俺は断言した。脳内麻薬とアルコールのカクテル。その味を知った人間を止めることなど、神様でも難しいだろう。
エリスは唇を噛み締め、涙目で俺を睨みつけた。
「……教会本部に報告します。貴方のやっていることは、教義への冒涜です!」
「好きにしろ。だが、報告書を書く前の一杯くらい、付き合ってもいいんだぞ?」
「飲みませんッ!」
エリスはバタンと扉を閉めて出ていった。
やれやれ、前途多難だな。
だが、窓の外から聞こえる「酒だー!」「芋だー!」という歓声を聞けば、不思議と不安はなかった。
俺は手元の酒を一口あおる。
美味い。昨日よりも、少しだけ美味く感じる。
「さて、次は麦だな。ビールがなきゃ始まらない」
俺は『おつまみ』を呼び戻し、次の醸造計画――もとい、救済計画の青写真を頭の中で描き始めた。
この世界を酔わせ、




