↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/25

ー第3項 強制的な宴の開催と領民たちの劇的な変化、生きる目的の書き換えと恐怖のモチベーションアップ

第3項 強制的な宴の開催と領民たちの劇的な変化、生きる目的の書き換えと恐怖のモチベーションアップ


 男が一口飲んだ瞬間、彼の目がカッと見開かれた。

 炭酸の刺激に驚き、咳き込む。しかし、その直後に訪れる酒精の熱が、冷え切った彼の体を芯から温めた。


「な、なんだこれは……!? 喉が、腹が、熱い!」


 男の顔に、数年ぶりに赤みが差した。

 俺の肩に乗っていた『おつまみ』が、激しく反応する。

 男から立ち上る「驚き」と、酒の香りを吸い込み、『おつまみ』は強く脈動した。

 ブワァン……。

 目に見えない波動が広場全体に広がる。

 『おつまみ』が放出したのは、強力な「まあいいか」フェロモンだ。


「なんだか……わからんが、美味いぞ! これ!」

「俺にもよこせ!」

「私にも!」


 最初は躊躇していた領民たちが、次々と樽に群がった。

 彼らは飢えていたのだ。食料にではない。脳を揺さぶる刺激と、一時の安らぎに。


 酒が回るにつれ、広場の様相は一変した。

 先ほどまで「死にたい」と呟いていた老婆が、ジョッキ片手に高笑いしている。

 明日を憂えていた若者が、肩を組んで歌い出した。

 『おつまみ』は空中を飛び回り、彼らが吐き出すネガティブな「鬱憤」を片っ端から食らい尽くし、それをポジティブな「酩酊」へと変換して撒き散らす。


 化学反応だ。

 絶望というマイナスの感情エネルギーが、アルコールと『おつまみ』という触媒を経て、爆発的な「労働意欲」へと置換されていく。


「領主様ァ! これ最高だァ!」

「もっとねえのか! もっと飲みてえ!」


 酔っ払った男が俺に詰め寄る。俺はニヤリと笑って答えた。


「残念ながら、今日の分はこれでおしまいだ」

「な、なんだってー!?」

「だが、材料の芋ならまだある。もっと飲みたければ……わかるな?」


 俺の言葉に、領民たちの目の色が変わった。

 それはもう、獲物を狙う肉食獣のような、ギラギラとした輝きだった。


「畑だ! 畑を耕せェ!」

「芋を作れ! もっと良い芋を作れば、もっと美味い酒になるんだろ!?」

「死んでる場合じゃねえ! 天国なんか行ってられるか! 天国にこの酒はあるのか!?」

「ないなら用はねえ! 現世(ここ)で飲むぞ!」


 もはや狂乱に近い。

 教会の教えである「来世への希望」が、一瞬にして「現世での泥酔」への渇望に上書きされた瞬間だった。

 彼らにとっての救いは、神ではなくアルコールになったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。