ー第3項 強制的な宴の開催と領民たちの劇的な変化、生きる目的の書き換えと恐怖のモチベーションアップ
第3項 強制的な宴の開催と領民たちの劇的な変化、生きる目的の書き換えと恐怖のモチベーションアップ
男が一口飲んだ瞬間、彼の目がカッと見開かれた。
炭酸の刺激に驚き、咳き込む。しかし、その直後に訪れる酒精の熱が、冷え切った彼の体を芯から温めた。
「な、なんだこれは……!? 喉が、腹が、熱い!」
男の顔に、数年ぶりに赤みが差した。
俺の肩に乗っていた『おつまみ』が、激しく反応する。
男から立ち上る「驚き」と、酒の香りを吸い込み、『おつまみ』は強く脈動した。
ブワァン……。
目に見えない波動が広場全体に広がる。
『おつまみ』が放出したのは、強力な「まあいいか」フェロモンだ。
「なんだか……わからんが、美味いぞ! これ!」
「俺にもよこせ!」
「私にも!」
最初は躊躇していた領民たちが、次々と樽に群がった。
彼らは飢えていたのだ。食料にではない。脳を揺さぶる刺激と、一時の安らぎに。
酒が回るにつれ、広場の様相は一変した。
先ほどまで「死にたい」と呟いていた老婆が、ジョッキ片手に高笑いしている。
明日を憂えていた若者が、肩を組んで歌い出した。
『おつまみ』は空中を飛び回り、彼らが吐き出すネガティブな「鬱憤」を片っ端から食らい尽くし、それをポジティブな「酩酊」へと変換して撒き散らす。
化学反応だ。
絶望というマイナスの感情エネルギーが、アルコールと『おつまみ』という触媒を経て、爆発的な「労働意欲」へと置換されていく。
「領主様ァ! これ最高だァ!」
「もっとねえのか! もっと飲みてえ!」
酔っ払った男が俺に詰め寄る。俺はニヤリと笑って答えた。
「残念ながら、今日の分はこれでおしまいだ」
「な、なんだってー!?」
「だが、材料の芋ならまだある。もっと飲みたければ……わかるな?」
俺の言葉に、領民たちの目の色が変わった。
それはもう、獲物を狙う肉食獣のような、ギラギラとした輝きだった。
「畑だ! 畑を耕せェ!」
「芋を作れ! もっと良い芋を作れば、もっと美味い酒になるんだろ!?」
「死んでる場合じゃねえ! 天国なんか行ってられるか! 天国にこの酒はあるのか!?」
「ないなら用はねえ! 現世で飲むぞ!」
もはや狂乱に近い。
教会の教えである「来世への希望」が、一瞬にして「現世での泥酔」への渇望に上書きされた瞬間だった。
彼らにとっての救いは、神ではなくアルコールになったのだ。




