ー第2項 街のシンボルとなった巨大毛玉、人々のストレスをエネルギーに変える究極のエコシステムと神体化
第2項 街のシンボルとなった巨大毛玉、人々のストレスをエネルギーに変える究極のエコシステムと神体化
街の中央広場には、異様な物体が鎮座していた。
かつて野球ボールサイズだった俺の相棒、『おつまみ』である。
数年にわたり、数万人規模の「鬱憤」「悩み」「ストレス」を吸い続け、それを「多幸感」に変換し続けた結果、こいつはとんでもないサイズに成長していた。
今の『おつまみ』は、見上げるような小山ほどの大きさになり、フワフワとした白い毛並みは、まるで巨大な雲が地上に降りてきたようだ。
もはやマスコットではない。ご神体だ。
住民たちは親しみを込めて「おつまみ様」「毛玉神」と呼んでいる。
「あー、今日仕事で失敗しちゃったよ……」
「彼女に振られた……死にたい……」
そんな悩みを持った住民が、『おつまみ』の毛並みに顔を埋める。
すると、ズゾゾゾ……という音と共に、彼らの体から黒いモヤ(負の感情)が吸い出されていく。
代わりに『おつまみ』から放出されるのは、甘い香りのするピンク色の胞子。
それを吸い込んだ住民は、憑き物が落ちたような顔になる。
「……ま、いっか! なんとかなるだろ!」
「次のいい女を探せばいい話だ! 酒飲もう!」
完全なる感情のリサイクル・システム。
負のエネルギーを浄化し、正のエネルギーとして還元する。
これこそが、この街が常に笑い声に包まれている理由だ。教会の説く「耐え忍ぶ修行」など必要ない。悩みがあれば毛玉に食わせればいいのだから。
俺は執務室(という名の専用バーカウンター)から、その様子を眺めていた。
グラスの中で揺れる琥珀色の液体。
最高だ。不幸な顔をしている奴が一人もいない。
これなら、どんな安酒でも最高級のヴィンテージに変わる。
「……領主様、またニヤニヤしてお酒飲んでるんですか?」
「失敬な。これは視察だ。街の幸福度指数を、舌で確認しているんだよ」
エリスが呆れた顔で入ってきた。
手には大量の書類――ではなく、新メニューの試作リストを持っている。
「魔王軍から来たオークの料理人が、新しい燻製を開発したそうです。『ドラゴン・テールの黒胡椒焼き』だとか」
「ほう、そいつは楽しみだ。合わせる酒は重めの赤ワインか、それともパンチの効いたスタウトか……」
「両方用意させてあります。あと、教会本部からまた抗議文が来てましたけど、コースター代わりに使っていいですか?」
「構わん。どうせ『羨ましい』と書いてあるだけだろ」
俺たちは笑い合った。
かつて敵対していた組織も、今では遠吠えを上げるだけの存在だ。彼らも本音では、この街の自由を羨望しているに違いない。




