ー第5項 世界に広がる泥酔の波紋、新しい平和の形とバッカスの次なる野望
第5項 世界に広がる泥酔の波紋、新しい平和の形とバッカスの次なる野望
宴は三日三晩続いた。
騎士たちは帰る頃には、すっかり毒気を抜かれていた。
彼らは口々に「また来るよ」「次はツマミ持参で」と言い残し、千鳥足で王都へ帰っていった。
報告書にはどう書くのだろうか。「敵の強力な精神汚染により、戦闘継続不可能」とでも書くのだろうか。まあ、嘘ではない。
俺は領主館のテラスから、その後ろ姿を見送った。
隣には、すっかり「看板娘」が板についたエリスがいる。
「……戦争、なくなっちゃいましたね」
「ああ。誰も殺さず、誰も死なず。ただ二日酔いだけが残った」
「最高ですね」
エリスが微笑む。
聖女としての彼女は「平和」を祈っていた。だが、その平和がこんな形で、こんなにふざけた方法で実現するとは夢にも思わなかっただろう。
しかし、結果として人々は救われた。
死後の救済ではなく、今この瞬間の幸福によって。
「さて、次は魔王軍の方にも挨拶に行くか」
「えっ? まさか、魔王城にも出張サービスですか?」
「当たり前だろ。魔王だって、きっと疲れてるはずだ。美味い酒と、お前の笑顔があればイチコロさ」
「もう、調子いいんですから」
俺とエリス、そして『おつまみ』は顔を見合わせて笑った。
世界はまだ荒廃している。
だが、ここには酒がある。肴がある。そして笑いがある。
不幸な顔をしている奴がいる限り、俺の酒造りは終わらない。
世界征服ならぬ、世界泥酔計画。
それはまだ、始まったばかりだ。
空は高く晴れ渡り、風には微かにホップの香りが混じっていた。
俺はグラスを掲げ、見えない誰かに乾杯した。
さあ、飲み明かそう。この理不尽で、どうしようもなく素晴らしい世界で。




