ー第4項 瓦解する指揮系統と宴会への合流、団長の陥落と戦争という概念の自然消滅
第4項 瓦解する指揮系統と宴会への合流、団長の陥落と戦争という概念の自然消滅
もはや軍隊ではなかった。
それはただの、巨大な飲み会の集団だった。
鎧を脱ぎ捨て、芝生に座り込み、肩を組んで歌う騎士たち。彼らをもてなす領民たち。
敵味方の区別などない。「飲む側」と「注ぐ側」があるだけだ。
「団長……」
一人取り残された団長の元へ、俺は歩み寄った。
手には二つのグラス。
「あんたの部下たち、随分と楽しそうじゃないか」
「……おのれ、バッカス。貴様は国を滅ぼす気か」
「国? 俺はただ、皆に『本当に大切なもの』を思い出させてやっただけだ。国のために死ぬより、美味い酒のために生きる方が、よっぽど生産的だろ?」
団長は悔しそうに唇を噛んだ。
だが、その目には涙が浮かんでいた。彼とて、部下を死なせたくはないのだ。ただ、その方法を知らなかっただけ。
「……責任は、私が取る。全軍、撤退……いや、解散だ」
「固いこと言うなよ。責任なんて言葉は、このグラスの底に沈めて飲み干しちまえ」
俺はグラスを押し付けた。
団長は震える手でそれを受け取り、しばらく見つめていたが、やがて意を決したように煽った。
強い酒精が彼の喉を焼く。
「……くっ、美味い。……不覚にも、美味い」
「だろ? さあ、あっちで部下が待ってるぞ。今日は無礼講だ」
団長はよろりと歩き出し、部下たちの輪の中に吸い込まれていった。
「団長! こっちです!」「一緒に飲みましょう!」という歓声が上がる。
こうして、王国最強の騎士団は、一夜にして「王国最強の酔っ払い集団」へと生まれ変わった。
武器は放置され、戦意は消失し、ただ笑い声だけが戦場(だった場所)に響き渡る。
物理的な武装解除ではない。心理的な武装解除。
「なんで俺たち戦ってるんだっけ?」という疑問が、アルコールと共に脳を支配した結果だった。




