ー第3項 おつまみフェロモンの爆発と騎士たちの戦意喪失、厳格な軍律が溶解し本能的な欲求が顔を出す
第3項 おつまみフェロモンの爆発と騎士たちの戦意喪失、厳格な軍律が溶解し本能的な欲求が顔を出す
パァァァァン!
光の粒子と共に降り注いだのは、超高濃度の「まあいいか」フェロモンだ。
それは物理的な霧となって騎士団を包み込んだ。
同時に、扇風機から送られていた極上のバーベキューの香りと、熟成酒のアロマが鼻腔を直撃する。
「……あれ?」
最前列にいた騎士が、剣を下ろした。
彼の顔から、鬼のような形相が消え、ポカンとした表情になる。
「総員、突撃……突撃……えーと、なんで突撃するんだっけ?」
「団長、なんかすごくいい匂いがします……」
「腹減ったなぁ……そういえば、朝から乾パンしか食ってない……」
連鎖反応が起きた。
ガシャリ、ガシャリと、武器が地面に落ちる音が響く。
彼らは極限状態にあった。死と隣り合わせの行軍、上官からのプレッシャー、終わりの見えない戦争への不安。
それら全てが『おつまみ』によって吸い取られ、空っぽになった心に、俺たちの用意した「快楽」が流れ込んだのだ。
「おいおい、そんな重い鎧着てちゃ肩が凝るだろ? 脱いじまえよ」
俺がメガホンで囁く。悪魔の囁きだ。
「こっちは冷えたビールがあるぞ! 王都じゃ飲めない、キンキンに冷えたやつだ!」
「こっちは厚切りステーキだ! レアで焼いてあるぞ!」
「あーあ、こんな美味いもん、戦って死んだら食えないのになぁ」
領民たちも口々に煽る。
騎士たちの喉がゴクリと鳴った。
団長が必死に声を張り上げる。
「ま、惑わされるな! これは敵の罠だ! 精神攻撃だ!」
「罠でもいいじゃないですか、団長ぉ」
副団長が、いつの間にか兜を脱いでいた。
「俺、もう疲れましたよ。実家の畑継ぎたいって思ってたんです。ここで死ぬより、一杯飲んで帰りたいです」
「き、貴様……!」
「あ、すいません。そこのお姉さん、ビール一つ!」
「はいよー! 一杯目はサービスだ!」
副団長が列を離れ、屋台に駆け寄った。
黄金色の液体が注がれたジョッキを受け取り、一気に喉に流し込む。
「ぷはぁあああッ! 生きててよかったァ!」
その叫びは、団長の命令よりも雄弁だった。
堰を切ったように、騎士たちが雪崩を打って領地になだれ込んできた。
「俺もだ!」
「私も!」
「戦争なんかやってられっか! 俺は肉が食いたいんだ!」




