ー第2項 進軍してくる近衛騎士団の威容、エリスの神聖魔法による舞台演出とバッカスによる史上最大の宴会準備
第2項 進軍してくる近衛騎士団の威容、エリスの神聖魔法による舞台演出とバッカスによる史上最大の宴会準備
数日後。
地平線の彼方から、土煙と共に銀色の波が押し寄せてきた。
王国近衛騎士団だ。
整然とした隊列、磨き上げられた鎧、一糸乱れぬ行軍。彼らは「正義」と「規律」の塊であり、反逆者を討つという使命感に燃えている。
普通なら絶望的な光景だ。
だが、俺たちの領地には緊張感の欠片もなかった。
「準備はいいか野郎ども!」
「おうよ! 最高の樽を開けたぜ!」
「肉も焼けてる! 煙をどんどん送れ!」
領地の境界線沿いに、無数の屋台とテーブルが並べられた。
巨大な扇風機(風魔法で駆動)が設置され、そこから猛烈な勢いで「焼き肉の匂い」と「芳醇な酒の香り」が戦場(予定地)へと送り出されていく。
「エリス、頼んだぞ」
「はいはい、もう……聖女の力、こんなことに使っていいのかしら……」
エリスは文句を言いながらも杖を掲げた。
彼女が放ったのは、広範囲に及ぶ『精神結界』の一種だが、効果を少し改変してある。
名付けて『ハッピーアワー・フィールド』。
結界内に入った者の「警戒心」を低下させ、「開放感」を増幅させる環境魔法だ。
「全軍、停止ッ!」
騎士団長の号令が響き、軍勢が領地の目の前で止まった。
団長は馬上で剣を抜き、俺を指さした。
「反逆者バッカス! 神妙にお縄につけ! さもなくば、この地を灰にする!」
殺気立った数千の視線が俺に集中する。
俺は片手にメガホン(拡声魔法具)、もう片手に最高級のヴィンテージ・ブランデーを持って、彼らの前に進み出た。
「ようこそ、遠路はるばるご苦労さん! 戦う前に、ウェルカムドリンクでもどうだ?」
「ふざけるな! 貴様ら、総攻撃だ! 一気に……」
団長が剣を振り下ろそうとした、その時だった。
俺の肩から『おつまみ』が飛び立った。
今までとは比にならない速度と輝きで、騎士団の上空を乱舞する。
そして、騎士団全体から立ち上る、張り詰めた「緊張感」「使命感」「恐怖心」を一気に吸い込み始めた。
シュゴオオオオオオッ!
あまりの吸引力に、空間が歪んで見えるほどだ。
数千人分の強烈なストレスを吸い込んだ『おつまみ』は、太陽のようにまばゆく発光し、そして――弾けた。




