第4章 第1項 国からの非情な勅命と徴兵の危機、バッカスの断固たる拒否と領民たちの平和ボケした反応
第4章 戦場は宴会場
第1項 国からの非情な勅命と徴兵の危機、バッカスの断固たる拒否と領民たちの平和ボケした反応
領地の改革は順調に進んでいた。
魔物は美味な食材となり、教会は事実上の敗北(という名の懐柔)を認め、聖女エリスは昼からスイーツとカクテルを嗜む看板娘へと変貌した。
だが、この世界の根幹を揺るがす最大の脅威は、まだ終わっていなかった。
戦争である。
ある日、王都から早馬がやってきた。
携えていたのは、王家の紋章が入った羊皮紙。内容は簡潔にして冷酷な『徴兵命令』だった。
「……領主バッカスおよび、領内の成人男性全員を、対魔王軍最前線へ召集する。拒否すれば反逆罪とみなし、直ちに処罰する」
使者の騎士が朗々と読み上げる。
広場に集められた領民たちは、ポカンとした顔でそれを聞いていた。恐怖ではない。「ポカン」だ。
彼らの手には農具ではなく、ジョッキや串焼きが握られている。昼休みの一杯を楽しんでいたところを邪魔されたのだ。
「えー? 戦争? めんどくせえなぁ」
「今、麦の収穫が忙しいんだよ。ビールの仕込み時期だぞ?」
「死にに行く暇があったら、新しいつまみの開発したいんだけど」
領民たちの口から出る言葉は、愛国心のかけらもない。
騎士は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「貴様ら! 国の一大事だぞ! 魔王軍が迫っているのだ! 名誉ある死を恐れるな!」
そこで俺が割って入った。
「名誉ある死? そんなものは一番まずい酒の肴だ」
俺は使者の目の前で、羊皮紙をビリビリに破り捨てた。
騎士が絶句する中、破片を空中に放り投げる。紙吹雪のように舞う王命。
俺の肩には『おつまみ』が鎮座し、騎士から発せられる「忠義」と「焦り」の波動を物欲しそうに見つめていた。
「俺たちは行かない。死ぬために戦うなんて馬鹿げている。ここで美味い酒を作って飲んで寝る。それが俺たちの戦いだ」
「き、貴様……正気か!? これは王への反逆だぞ! 近衛騎士団が黙っていない!」
「来るなら来ればいい。ただし、手土産の一つも持参するのがマナーだと伝えておけ」
俺は騎士を追い返した。
彼は「覚えていろ!」という三流悪役のような捨て台詞を残して去っていった。
隣にいたエリスが、心配そうに俺の袖を引く。
「……領主様、本当に大丈夫ですか? 近衛騎士団といえば、王国の精鋭です。数千の軍勢で押し寄せられたら、さすがに……」
「大丈夫だ。あいつらは『真面目』だからな」
「はい?」
「真面目すぎて、ストレスが溜まってるはずだ。一番の客だよ」
俺はニヤリと笑った。
剣で戦うつもりはない。俺たちの武器は、アルコールとフェロモン、そして圧倒的な「まあいいか」の精神だ。




