ー第5項 宴の終わりと新たな仲間、堕落した聖女が選んだ道は聖職の放棄ではなく欲望との共存だった
第5項 宴の終わりと新たな仲間、堕落した聖女が選んだ道は聖職の放棄ではなく欲望との共存だった
翌朝。
領主館の客室で目覚めたエリスは、激しい頭痛と共に記憶を取り戻し、枕に顔を埋めて絶叫した。
「あああああ! 私、なんてことをぉおおお!」
昨夜の失態。司祭への暴言。そして何より、あんなに楽しそうに飲み食いしてしまった自分。
もう聖女失格だ。破門だ。地獄行きだ。
彼女が絶望に打ちひしがれていると、俺がコーヒー(二日酔い特効薬入り)を持って部屋に入った。
「よう、目覚めはどうだ? 昨日のあばれっぷり、見事だったぞ」
「……殺してください。いっそ殺して……」
「死にたい奴はここにはいない。いるのは『二日酔いを治してまた飲みたい奴』だけだ」
俺はコーヒーを彼女に渡した。
エリスは震える手でそれを受け取り、一口飲む。
……美味しい。
その事実が、また彼女を苦しめる。いや、もう苦しんではいないのかもしれない。
「……司祭様は?」
「昨日の夜、酔っ払った勢いで『ワシも若い頃はヤンチャしててな』と武勇伝を語り明かした挙句、満足して帰っていったよ。報告書には『この領地は更生不可能だが、民は幸せそうなので経過観察とする』と書いておくそうだ」
エリスはぽかんと口を開けた。
そして、ふっと力が抜けたように笑った。
「……経過観察、ですか。ふふっ、いい加減ですね」
「人間、そんなもんだ。で、お前はどうする? 本部に戻るか?」
エリスはカップの中の黒い液体を見つめ、少し考えてから顔を上げた。
その瞳には、昨日のような悲壮感も、狂乱もない。あるのは、憑き物が落ちたような清々しさだった。
「いいえ。私はここに残ります」
「ほう? 堕落の道を選ぶか?」
「違います。私は聖女として、この『欲望まみれの人々』が、度を越して道を外さないように……そう、見守る必要があるのです。決して、美味しいお酒とご飯が目当てではありません。あくまで監視です!」
顔を赤くして言い訳をする彼女の頭に、『おつまみ』がポンと乗った。
彼女はもう毛玉を振り払おうとはしない。むしろ、愛おしそうに撫でている。
「素直じゃないな。まあいい、歓迎するよ。人手が足りなくて困ってたんだ。今日からお前は、教会の説教係兼、酒場の看板娘だ」
「なっ……! 聖女を看板娘にするなんて!」
「嫌なら帰るか?」
「……やり、ます。やらせてください。ただし、まかないは三食デザート付きで!」
こうして、俺の領地改革に、最強にして最悪の仲間が加わった。
欲望を解放(解脱)し、開き直った聖女エリス。
彼女の加護魔法と、俺の醸造技術、そして『おつまみ』の精神干渉。
このトライアングルがあれば、魔王軍だろうが教会だろうが、すべて肴にして飲み干せる気がした。
俺は窓を開け、輝く朝日と、二日酔いで呻きながらも畑に向かう領民たちを見下ろした。
今日も、酒が美味くなりそうだ。




