第3章 第1項 教会の威信をかけた査察団の到着と、幸福な領民を堕落と断じる高圧的な司祭との一触即発の対面
第3章 聖女の堕落と飲み比べ
第1項 教会の威信をかけた査察団の到着と、幸福な領民を堕落と断じる高圧的な司祭との一触即発の対面
領地が「魔物グルメ」と「密造酒」の楽園と化してから数週間。
俺たちの評判(悪評ともいう)は、とうとう中央の教会本部にまで届いてしまったらしい。
ある晴れた日の午後、領主館の前に豪奢な馬車が止まった。降りてきたのは、真っ白な法衣に身を包んだ、見るからに堅苦しそうな一団だ。
「……なんと嘆かわしい! ここは魔窟か!」
先頭に立つ初老の司祭が、広場を見て声を荒らげた。
無理もない。昼間から赤ら顔の男たちが、串焼きのゴブリン肉を片手に笑い合い、そこら中で酒盛りが始まっているのだから。
その司祭の後ろには、申し訳なさそうに俯く聖女エリスの姿があった。どうやら今回の査察は、彼女の報告(という名の愚痴)が引き金になったらしい。
「ようこそ、我が領地へ。歓迎するよ、神父様方」
俺は片手にジョッキを持ったまま出迎えた。肩には相棒の『おつまみ』が乗っている。こいつは司祭から立ち上る「憤怒」のオーラを見て、ご馳走だとばかりにプルプルと震えていた。
「貴様が領主バッカスか! 神聖なる人の世を、これほどまでに堕落させるとは!」
司祭の怒鳴り声が響く。唾が飛びそうだ。
「堕落? 心外だな。見てみろ、彼らの顔を。以前は死にたがっていた連中が、今は『明日の酒のために生きる』と言っている。これは立派な更生だろう?」
「詭弁を弄するな! 現世の苦しみは、魂を磨くための試練なのだ! それをアルコールなどで麻痺させ、快楽に溺れさせるとは……これは悪魔の所業だ!」
司祭は杖を振り回し、俺を指弾した。
エリスが小さく口を開く。
「あの、司祭様……彼らは確かに以前より生き生きとしてはいるのです……ただ、その方向性が少し……」
「黙りなさい、エリス! 貴女も貴女だ、なぜもっと厳しく断罪しなかったのです!」
怒鳴られたエリスが肩をすくめる。
やれやれ、この爺さん、頭が固すぎて話にならん。
俺はため息をつき、ジョッキの中身を一口あおった。
俺の理論はシンプルだ。「不幸な顔をしている奴がいると酒がまずい」。だから、目の前でガミガミ怒鳴っているこの爺さんも、俺にとっては「酒を不味くする害悪」でしかない。
「おい、爺さん。そんなに怒ってると血圧が上がるぞ。一杯どうだ? うちの特製『聖水割り』だ」
「ふざけるな! そのような汚らわしい液体、神に仕える者が口にするはずなかろう!」
交渉決裂か。
だが、ここで引くわけにはいかない。俺の快適な飲酒ライフがかかっているのだ。




