【初公開】白き双翼の工房に大潜入!!
20:59
『21:00より開始します』
『しばらくお待ちください』
21:00
待機画面が切り替わった瞬間、モニターいっぱいにエルの顔が映し出された。
真顔のまま画面を覗き込み、気だるげな手つきで前髪を調整している。
けれども、エルの視線が画面端の『LIVE』マークに止まると様子が一変する。
「やば――」
唐突にエルの口角が上がる。
「みんなお待たせ! 今日は予告通り、エルの工房を初公開しちゃうよぉ」
たった今までの素の表情が無かったかのように、あざとく甘い声が響く。
『エルちゃん今日もかあいい』
『結婚してください』
『今の笑顔で世界救われたわ(赤スパ)』
エルが視聴者に声をかけただけで、目で追えないほどのコメントが流れていた。
笑顔を振りまいたまま後ろへ下がるエル。
そして、カメラが全身を捉える位置でぴょんと跳ねた。フリルを重ねたスカートがふわりと浮かびあがる。
そんなエルの横に、アルと白衣の男が立っていた。
白衣の男は妙に緊張した面持ち。対してアルはほんのりと機嫌が悪そうに腕を組んでいた。
そんなテンション低めな二人に頬を膨らませたエルが、白衣の男を遮りながらアルに詰め寄る。
「何?」
「えぇぇ!? 反応薄っ!! 特別な配信なんだからもっとやる気だそうよぉ」
アルと話している間も、視聴者に向けて一挙手一投足、わざとらしい可愛いポーズを取り続けるエル。
だがそのあざとい動きに合わせて、後ろに立つ無表情な白衣の男がチラチラと見え隠れする。
おかげでモニターには、エルよりも背後の男のほうが気になって仕方ない謎の映像が流れ続けていた。
『男邪魔! エルたんより目立つな!』
『普通、気を遣って自分からいなくなるだろ!!』
『アル様、エルたそたすけてやって〜( ; ; )』
状況に気づいたアルが、観念したかのように息をつき、カメラに目線を向ける。
すると、息を呑むほど麗しい微笑みを浮かべて、視聴者に向けて話しだした。
「――すまない。史上初の地下45階層探索で疲れを見せてしまったようだ」
「もうアルったら―。てへぺろー☆」
頭に拳を当て、片足を曲げるエル。
「……」
「……」
あざとすぎるぶりっ子ポーズに、アルと白衣の男は、再び対応を見失ってしまい、無言のままエルを見守る謎の数秒間が続く。
エルの足元が小刻みに震えていたが、それでも2人は何の言葉も発しない。
『オレたちの愛を受け取ってくれ!!!』
『クールなアルたんの笑顔が世界を救う……』
『ちょっと待って! もしかして俺のためにポーズ維持してくれてる?(赤スパ)』
双子のやり取りとは対照的に、流れるコメントのボルテージは確実に上がっており、煌びやかな投げ銭の履歴が画面を埋めていた。
エルが視線だけ動かし、カメラの向こう側に備え付けられたモニターから配信状況を確認すると、すぐに両足を床につけて、大手を振って視聴者にアピールをする。
「みんなありがとう――声援にこたえて、さっそく今日の成果を確認していくよぉ♡」
アルが冷ややかな目つきでエルを睨みつけると、エルは急いで画面の隅へとフェードアウトしていった。
画面内に残されたアルと白衣の男。
その後ろでは、広々としたフロアの奥で、女学生や他の白衣の技術者たちが行き交い、銀色の実験机や分子構造を映す巨大なモニター、さらには電子顕微鏡などの分析装置に混じって、未知の光を発する武器らしきものが映り込んでいた。
「受け取ってー」
唐突な画面外のエルの声と共に、白衣の男に向かって石のような物体が投げつけられる。
男は目を丸くしながらも、どうにか両腕を伸ばしてキャッチする。
直径十センチほどのそれが予想以上に重かったためか、がくんと膝を沈め落としそうになるが、なんとか自身の腹部を使って受け止めた。
「ぐ――っ!」とうめき声を上げる男。
「もう一個っ!」
痛みに悶える男のことなど気にせずに、エルがさらに投げつける。
ドスン、という重く沈み込むような音を立てながらも、男は黒い物体を二つ、なんとか両腕の中に収めた。
悪びれる様子もなく、エルはトタトタと小走りで画面内に戻る。
定位置のように画面の中央近くで止まると、示し合わせたかのようなタイミングでアルが口を開いた。
「これが僕たちが地下45階層で入手した素材『黒獣石』さ」
「ヴォルガドゥグの希少種からしか取れないんだよぉ」
『レア素材きたぁぁぁぁぁ!!』
『強くてかわいいとか神だろ』
『大変な冒険の後に配信とか尊すぎ!!!!』
「どうだい博士。これだけあれば、新時代の先駆けになる武器だって、作れるんじゃないかな?」
博士と呼ばれた白衣の男が、カメラから目線を逸らさずに淡々と語る。
「はい、これだけの素材と私たち白き双翼研究チームの総力を結集すれば最強の武器が、作れると思います」
博士の抑揚のない平坦な声。
「――ヘタクソ。演技だとバレるだろ」
アルはカメラを向き、笑顔のまま、博士が聞こえるぎりぎりの声で呟いた。
「視聴数が減っていたら、博士と若い彼女さんの密会動画でも流そうか」
ただでさえ強張っていた博士の顔から一切の生気が消え失せ、ピクリとも動かなくなった。
◇◇◇
アルとエルの配信が終盤に差し掛かる。
「――と、いう訳で僕たちのチームは、黒獣石を使って、誰も見たことない最強の武器を作ることにしたんだ」
「どこかの底辺冒険者に渡してもお金に変えるだけで何の面白味もなかったけど、私たちのチームなら、ちゃんと次の探索に活かすことができるんだね」
『ナイス判断! 底辺に渡しても何の価値もないのわかってる!』
『頼むぅ! もういい! かわいい2人が見れたら十分!』
『お金を捨てて俺たちの為に新武器作るとか天使!!!!』
『いつも底辺冒険者に機会を与えるとかまじ女神! 少ないけど足しにして!』
さらに赤色の高額通知が画面を埋め尽くしていく。
互いに視線を合わせたアルとエルが、息ぴったりに笑みを深めた。
「そうだね。僕たちの目的はお金じゃない。みんなと未知への挑戦や興奮を共有したい。そしてその先にある絆を築き上げたい。恥ずかしいけど、それが僕たちの本当の願い」
「うんうん。アルいいこというなぁ☆」
「だから、明日もまた地下45階層に、更に奥の方を探索しようと思っている」
さらに熱狂する赤スパとコメント。
――しかし、状況に水を差すように博士が叫ぶ。
「待ってください! 武器を作る期限は!?」
綺麗な瞳の奥に澱んだ狂気を宿しながら、双子が愛らしく笑顔を向ける。
「あと十時間。普通の工房なら不可能だけど、僕たちのチームならギリギリ間に合う時間だね」
「うん! 期待しているね!」
アルとエルの容赦ない要求に、博士の顔が引きつる。
「もう三日連続ですよ!」
『がんばれ博士! 二人の願い叶えてあげて!(赤スパ)』
『今日だけでも大変だったのに、続けて探索に行くなんて……(赤スパ)』
『死ぬな! 生きろ! 俺はお前たちを応援し続けるからな(赤スパ)』
「――どうやら博士のやる気がすごいことになっているようだ」
言葉とは裏腹に、アルが酷薄な視線を博士へ向けた。
「他のメンバーや私にだって家族が――」
「家族……ね」
アルの博士を見つめる目が細くなる。
直後、博士は先ほどの脅しを思い出したように口をつぐみ、すぐに何事もなかったかのようにアルから視線を逸らした。
「家族を説得してまで、エルたちに尽くしてくれるなんて嬉しい!!」
可愛らしく博士に近寄ったエルが、感動したように抱き着いた。だが、画面の端――足元では、容赦なく博士のつま先を踏みにじっていた。
博士の顔が激痛で激しく歪む。
『は!? どんなご褒美!? ×ねよ!!』
『三日頑張るだけで抱きしめてもらえるとか、コスパ最高すぎだろ』
『博士、顔イってねwww』
『調子乗ったら×す』
「やめなよエル。これ以上視聴者さんを刺激すると、博士が本当に家に帰れなくなっちゃうよ」
「ごめーん☆ 博士のやる気が嬉しくて、つい」
舌をだしながら博士から離れるエル。
「それじゃあ僕たちはもう寝ようか。明日も早いし」
「そうだね。これ以上の夜更かしはお肌にも悪いし」
二人は息ぴったりにカメラを向き、とびきり可愛らしい笑顔で小さく手を振った。
「それじゃあ、明日の応援もよろしく頼むよ」
「みんなの声援が私たちの力の源だよ~」
配信コメントと投げ銭が最高潮に達する。
そこで配信は終わった。




