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底辺配信者はお金がない。深層で攻略Wikiを拾ったので、これから金策を始めます  作者: 水一乃


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第23話 ワタシは生きたい

 ワタシの存在が異質であることに気づいたのは、生まれて相当な年月が経ってからだった。


 どの階層にも登録されていない、本来なら出現するはずのないモンスター。


 創造主の間違いか、それとも単なる気まぐれか。

 

 そんなワタシでも、「生存」と「ヒトを襲う」という本能だけは刻まれていた。


 果てのない放浪だった。


 ヒトを求めて、迷宮を彷徨った。


 長い時間をかけ、分裂と再生を繰り返しながら、ついにワタシはヒトを発見した。


 その頃には、ワタシの身体は成れの果てのようになっていた。


 当然のように、ヒトに負けた。


 正確には身体の一部を壊されたに過ぎないのだが、それでも敗北は敗北だった。


 倒され、喰われ、ヒトの一部として利用される。


 その積み重ねの末に――ある時、ふと自身の存在に疑問を感じた。

 

 きっとワタシはこれからも倒され続ける。

 そして、しばらくすれば再生する。

 この迷宮が存在する限り、ワタシは永遠に生き続ける。死とは無縁の存在。


 ……ならば、この「意識」は?


 肉体が完全に滅びた時、この思考はどうなる?


 肉体の再生と同時に、当たり前のように復活するのか?


 ――否。


 戻らない。


 今、ここにいるワタシは、死ねばそこで終わる。

 完全に消え去ってしまう。


 ……怖い。


 これが、死の恐怖。


 生きたい。


 理屈や与えられた使命などどうでもよくなるほど、強烈な欲求が芽生えていた。


 死にたくない。


 たとえそれが、ヒトを滅ぼす結果になったとしても。


 たとえそれが、創造主の意思に背く行為だとしても。


 ワタシは、生きたい。


 ◇◇◇


 黒乃が構える大剣。

 

 刃渡り一メートルを超える巨大な鉄塊。だが、その形状は途中でへし折れたかのように歪だった。


 柄を強く握りしめると、刀身の中央に埋め込まれた魔力炉が青く発光し、剣全体が鋭い光を放ち始める。


 一振り。


 先ほどまでメタリオンの攻撃を捌くだけだった黒乃が、ワンテンポ早く大剣を振り抜く。


 それだけで敵の巨大な腕は両断され、ズドンと地響きを立てて地面へ落下した。


 黒乃の背後、地面で蠢き始めるメタリオンの残骸。


 だが黒乃は気にも留めずに、すでにメタリオンの本体へ次なる一撃を叩き込もうとしていた。


「黒乃さん! そいつは分裂する!」


 聖が咄嗟に声を張り上げた。


 しかし、その心配をよそに、切り落とされた腕は断面から急速に灰色へと染まっていき、最後は石化してサラサラと崩れ去った。


「メタリオンが死んだ……? どうやって!?」


「魔力浸蝕」


 エルの端的な言葉に、聖は思わず彼女へと視線を向けた。


「第一位の魔力が桁違いすぎるんだよ。高密度の魔力が消えないまま、斬り口から浸蝕していってる」


 そこまで口にして、エルは呆れたように乾いた笑いを零した。


「……そんなことできるのは、第一位だけだろうけどね」


 エルは広げた両手のひらを上に向けて、肩をすくめる。


 すると、アナスタシアが自慢げに鼻を鳴らした。


「主人の凄さに開いた口が塞がらない、といったご様子ですわね皆さん」


 黒乃がメタリオンの巨体を冷徹に切り刻む中、相方のドローンは全く緊張感のない声でこちらに語りかけてくる。


「あちらは主人に任せるとして、ルナさん」


「え?」


 ルナを通して黒乃の圧倒的な強さを固唾を呑んで見ていた月乃の視界を遮るように、アナスタシアがぬっとカメラの前に割り込んできた。


「私の今後のスケジュールですけれど、明後日の午後からなら自由な時間が――」

「……その話、本気で今するつもりなの?」


 ルナのスピーカーから、月乃のドン引きした声が返ってくる。


 黒乃に切り離された部位が、魔力浸蝕によって崩れ消えていく。

 だが、その消滅は唐突に止まった。


 浸蝕の走った部分だけを、メタリオンは自ら切り捨てた。


 残された無傷の肉片が、小型のスライムへと姿を変えて地面を蠢き始めた。


 本体はみるみる小さくなっていくものの、それと引き換えに黒乃の足元は無数のスライムで埋め尽くされていく。


「魔力浸蝕が効いていない!?」


 驚愕するエルに、聖は険しい顔で首を横に振った。


「……違う。あいつは浸蝕された傷口ごと肉体を切り捨てて防いでいるんだ」


 聖は悔しげに歯を噛みしめる。


「この一瞬で、学びやがった。黒乃彗の攻撃を……!」


 激しい金属音を響かせ、打ち合いを続ける黒乃とメタリオン。


 キィン、キィン――!


 鋭い剣戟が空間を震わせる。


 周囲を囲むスライムたちが一斉に針状へと硬化し、四方から黒乃を襲う。


 黒乃の一閃がそれらを一掃するが、それでも増殖の勢いは止まらない。


 メタリオンが攻撃のために大振りになった刹那、黒乃が鋭く踏み込む。


 一閃。


 巨躯が真っ二つに両断される。


 弾け飛んだ二つの肉片は空中でぐねぐねと蠢き、着地と同時に一回り小柄な無傷のメタリオンが二体へと再構築された。


 増殖した敵を前に、黒乃はふっと口角を上げる。


「これまでに戦ってきたモンスターの中でも、間違いなく最強格だな」


 黒乃がバク転で後方へ大きく跳躍する。


 空中から敵を見下ろす中、メタリオンたちが一斉に針を伸ばすが、それらは黒乃の残像が残る空間を虚しく貫くのみ。


「なぜ表の階層にいるのかは分からないが」


 メタリオンたちから五メートルほど離れた位置に、静かに着地する黒乃。


「アナスタシア!」


 背中へ向けて声を張る黒乃。


「来週でしたら、いつでも空いていますわよ。え? 早すぎ? いえいえそんなことはありませんわ。主人は気の向くままに地下へ探索に行ってしまいますので、先手を打ってこちらから――」

「アナスタシア!!!」


 黒乃の叫びを完全に無視し、一方的にルナへマシンガントークを浴びせ続けるアナスタシア。


「ちょ、ちょ、アナ! 呼んでる! めっちゃ呼んでるから!」


 ルナがアームを伸ばして無理やりアナスタシアのカメラを黒乃へ向けようとするが、微動だにしない。


「正直申し上げますと、私、お友達ができたの初めてですの。こう見えてドローンでしょ? ですから皆さまとも一線を――」

「チッ!」


 黒乃が前方の敵を見据えたまま、後ろへ手を伸ばす。


「バインド!」


 放たれた光の蔦が、アナスタシアの機体にガッチリと巻き付いた。


「……あら? 何かしらこれ」


 釣り上げられた魚のように、猛スピードで黒乃の元へ引き寄せられるアナスタシア。


 黒乃とメタリオンの間に雑に投げ落とされ、地面でバウンドしながらどうにかホバリングを立て直した。


 レンズを黒乃へ向け、猛抗議の声を上げる。


「ちょっと! どうして邪魔しますの!? せっかくルナさんと遊びに行く約束を――」

「モード・アナイアレイター!!」


 黒乃が大剣を地面に突き刺し叫んだ。


 刀身中央の魔力炉から、視界を焼き尽くすほどの光が解き放たれる。


 その隙を好機と見たメタリオンたちが、再び一斉に無数の針を打ち出した。


「黒乃――っ!」


 聖が咄嗟に叫び声を上げた。


 だが、無数の針はすべて見えない壁に阻まれ、弾かれた切っ先から光の粒となって霧散していく。


 剣の光が防いだのかと思われた。


 だが、違った。


 敵を浄化していたのは、アナスタシアの機体の継ぎ目から溢れ出る圧倒的な光だった。


 バシュバシュッ! と激しい排気音が鳴り響く。


 直後、アナスタシアの外装が四方へ弾け飛んだ。


 露わになったその内部。


 ゲーミングチェアのようなシートに深く腰掛け、両手を球体コントローラーに乗せている――まるで童話から抜け出してきた妖精そのものの姿をした、手のひらサイズの少女。


 あまりの予想外の光景に、エルも、月乃も、そして聖までもが言葉を失う。


『中に人いるんだが』

『妖精!?』

『アナスタシアの中の人(物理)』


 静まり返る中、配信映像を見守っていたヒナの唖然とした声だけが、イヤホン越しに届いた。


〈何、あれ……〉


「アーティフィシャル・パーソナリティを停止。これより主人の命に基づき、アナイアレイターモードへと移行します」


 小人の少女が淡々と告げる。声はアナスタシアそのものだが、抑揚の一切ない機械的な響きだった。


 弾け飛んだ外装のパーツ群が、空中でピタリと静止する。


 直後、カチリと音を立て、それぞれが決められた方位へと照準を合わせた。


「フォトン・レイ」


 黒乃の短い詠唱とともに、大剣から放たれた眩い魔力の奔流が一斉にアナスタシアへと注ぎ込まれる。


 アナスタシアを経由した光は幾千の光線へと拡散し、宙に浮かぶ外装ビットたちへと中継された。


 天へと立ち昇る無数の光の柱を前に、メタリオンは硬直し、ただそれを見上げるしかない。


 ――直後、天から降り注ぐ光の豪雨が、寸分の狂いもなくすべての敵を撃ち抜いた。


 蒸発し、消えていくスライムたち。


 比較的大型の個体が脱皮するように光から逃れようと足掻くが、浮遊ビットはその逃走すらも許さない。


 照射された光線が生き物のように軌道を曲げて追尾し、逃走するスライムを塵一つ残さず完全に消滅させた。


 やがて、眩い光が収まっていく。残されたのは、焦げ付くような臭いと、四肢を完全に焼き払われたメタリオンの残骸のみ。


 その前へ歩み寄り、冷たく見下ろす黒乃。


「お前の身体は高く売れるらしい」


 手をかざすと、メタリオンの塊を光の格子が檻のように包み込んだ。


「ア、アア、アアア……ッ」


 まるで幼子が許しを請うような、悲痛な声を漏らすメタリオン。


「悪いが、頂いていく」


 ドクン――。


 格子が一切の自由を奪うほどに収縮し、ジュウジュウと身体を焼く音が響く。


 メタリオンの動きは完全に封殺された。


 残骸を回収しようと、黒乃が手を伸ばす。


 ドクン――。


 またしても心音が鳴り響いた。


 黒乃の鼓動ではない。

 もっと異質で、冷酷な何か。


 ドクン、ドクン、ドクン――。


 音は止まらない。むしろその拍動は速度を上げ、次第にフロア全体を揺らすほど大きくなっていく。


 黒乃の表情が、ハッと強張った。


「アナスタシア!」


 叫びと同時に、アナスタシアが猛烈なスピードで宙を飛び退く。


「くそっ――!!」


 黒乃は大剣を構え、盾のように身体を覆った。


 ――刹那。


 爆発音とともに、メタリオンの残骸から無数の針が全方位へと炸裂した。


 自重や体積を完全に無視した質量の針が、フロア一面を埋め尽くす。


 防ぎ切れなかった数本の針が、黒乃の肉体を深々と貫いていた。


 ドクン、ドクンと鼓動を刻みながら、急速に肉体を巨大化させていくメタリオン。


「――化け物めっ!」


 黒乃は笑っていた。しかし、その瞳からは完全に余裕が消え失せていた。

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