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底辺配信者はお金がない。深層で攻略Wikiを拾ったので、これから金策を始めます  作者: 水一乃


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第19話 『人命救助だからセーフ』

〈あと少し! 右の広間です!〉


 耳元のヒナのナビを聞きながら、聖は叫ぶ。


「了解! その前に……っ!」


 カマキリ型の巨大モンスターが、巨大な鎌を振り下ろす。

 その懐へ潜り込んだ聖は、構えた魔導砲のトリガーを引いた。


 ドゴォォォン――ッ!


 鼓膜を震わせる爆音と共に、モンスターは木っ端みじんに破裂した。


〈聖さん! 今ので爆裂魔法弾、残り一ですよ!〉


 聖が魔導砲を手離すと、アームレットが光り、魔導砲は空間に溶け込むように消えた。


 モンスターを倒した余韻もなく、聖は広間へと走る。


「わかってるよ!」


 指定されたポイントは目の前。

 しかし、それまでの間に、予想以上の弾数と魔力を使ってしまっていた。


 地下45階層の暗い通路。

 その先に、青白い光が見えた。


〈3……2……1! 覚悟はいいですか!?〉


 ヒナの問いに応えずに、聖は光の中へと飛び込んだ。


 眩しさに視界が真っ白に染まる。

 聖は無意識に、アームレットで可変魔導武器の柄を呼び出し、力強く握りしめる。


 徐々に視界が開け、青白い世界が浮かび上がっていく。


 直径五十メートルはあろうかという円形の広間。天井は見えないほど高く、その全体を光が満たしていた。

 ヒナが教えてくれた神樹の雫が眠っていた部屋と似た印象。


「――っ!」


 聖は息を呑んだ。

 

 あの時は、まだ見ぬ神秘に胸を高鳴らせていた。しかし、今回は違った。


 広間の床一面が、虹色に輝いていた。


 いや――光っているのではない。

 うごめいている。


 床を埋め尽くしていたのは、無数の虹色のスライム。『スライム=メタリオン』だった。


 そして、その中心――二十メートル先に佇む人型の生命体。


〈いました! メタリオンです!〉


 ルナが、敵の姿をレンズに収めた。

 イヤホンの向こうから、冒険者たちのざわめきが漏れ聞こえる。


 人型を模したメタリオンの、頭部にあたる透明な体液の中。

 

 黒い球体が、ぬるりと動いた。

 表面に浮かぶ虹彩のような模様が、まっすぐ聖を向く。


〈聖さん! あれ!〉

「わかってるって!」


 メタリオンの腕の中に、アルの頭部が埋まっていた。


 首から下の身体が、力なく垂れ下がっている。


〈落ち着きましょう!〉


 すぐにでも、メタリオンへと飛びかかろうとする聖の気持ちを読んだのか、ヒナが制止した。


 奥歯を噛みしめ、踏み出しかけた足をその場に縫い止める。


 聖は逸る気持ちを押し殺し、新たに強化アンプルを出現させる。

 

 前に打ってからちょうど、五分。

 急速な倦怠感。

 全能力を一時的に引き上げる『ブースト』の効果が切れた。


 肩に打ち込みながら、広間を見渡す。


 無数のスライムが放つ虹色の地面の向こう側。


 メタリオンを通り越し、更に三十メートル先の壁に、もたれかかるように座り込むエルの姿を確認した。


 両足をスライムたちに喰われながらも、エルの方は、まだ意識があるように見えた。


 本日十九本目のアンプルの空瓶を捨て、ヒナに声をかける聖。


「状況は理解できた。いくぞ!」


 摂取したアンプルによる発光が、体内に吸収された瞬間、聖はメタリオンに向かって駆け出した。


〈わ――ちょ、聖さん! 早すぎですよ!〉


 聖の足音に反応するように、地面を這っていたスライムたちが、一斉に己の身体を針状へと伸張させる。

 伸びきった無数の針が、波となって聖へ襲い掛かった。


 聖が歯を食いしばると、背中に担いだ『自動魔法障壁発生装置《ランドセル》』のモーターが回転しだし、全身を包むように、光る魔法障壁が現れた。


 キィンキィンキィン――と甲高い音が上がった。

 針が迫るたび、その軌道上に光の障壁が次々と自動展開する。


「こいっ!」


 聖が叫ぶと、その手にハンドガンが現れた。

 走ったまま照準を合わせ、立て続けにトリガーを引く。


 パンパンパン――!


 弾丸が虹色の身体を穿った。


 着弾した箇所がはじけ飛ぶ。

 だが、周囲の液体が流れ込み、瞬く間に元の形に戻った。

 

 メタリオンの虹彩が閃光を吐き出した。


 その光に一瞬目をくらます聖。それでも足を止めることはなかったが、次の瞬間、巨大な光芒が魔法障壁に襲い掛かる。


 光芒が障壁へ直撃する寸前、聖は地面を蹴った。


 ドゴォォォン!!


 爆発が広間を呑みこむ。


「うぉぉぉぉ!!」


 メタリオンが頭上を向く。


 爆発の瞬間、強化した脚力で飛び上がった聖が、両手で上段に光の剣を構えながらメタリオンへ急降下してきた。


「――っ?!」


 聖の奇襲に気づいたメタリオンは、振り下ろされる剣先の動きを読んで、片足を軸に、くるりと体を回転させる。


 そして、そのままアルを掴んでいない方の腕を針状に変化させ聖へ向けて伸ばした。


 光の障壁が針の軌道を逸らす。

 だが、止めきれない。

 逸れた針先が、聖の右わき腹を切り裂いた。


 それでも、聖は怯まない。


 そのまま剣を力強く振り下ろし、アルを抱えていた右腕を切り飛ばした。

 

 切り離された腕が、宙で光の粒となってほどける。


 激しい衝撃の直後、ポンッと障壁発生装置から、焦げた匂いのバッテリーが弾き出された。


 宙に浮いた、アル。


 投げ出されたその身体を、聖は左腕で抱き止める。


 メタリオンは咄嗟の出来事に、まだ反応しきれていない。


 聖が柄へ魔力を叩き込む。

 光の刃がほどけ――一瞬で巨大な槌へと組み変わった。


「飛んでけ!!!」


 光の槌が、メタリオンの胴体を真横から捉えた。


 メタリオンが虹色の飛沫をまき散らしながら、吹き飛ぶ。


 ドォン――ッ!


 エルとは反対側の壁へと激突し、崩れ落ちる。


 主人を追うように、地面のスライムたちがメタリオンの方へと一斉に動きだした。 


 その隙に聖は、エルの元へと向かう。


 エルのすぐ目の前で、アルの身体をやさしく地面へと降ろす。すると、ぼんやりと地面を見つめていたエルがハッとして顔を上げた。


「な――なんで」


 動揺するエルには目もくれず、聖はすぐさまアルの状態を確認する。

 ところどころに、虹色の粘性のある液体がへばりついていた。


 聖はそのままアルの首元に指を当て、脈を測る。


 何も感じない。


 止まっている。


「くそっ!」


 聖は舌打ちすると、アームレットの力で、手の中に収まる三センチほどの薄く硬化した膜につつまれた物体を出現させる。

 中には、淡く金色に光る透明な液体。


「それは――」


 力のない目をしていたエルが、その物体を見て目を見開く。


「使わせてもらうぜ、大門さん!」


 躊躇なく聖はそれを口に含み、かみ砕く。

 そして、そのままアルの頭の下に手を回し込み、頭部を後ろに反らせて顎を持ち上げた。

 

 唇を重ね、そのまま口に含んだ神樹の雫を流し込む。


『また使ったぁ!!』

『二つ目!? どれだけ持ってんのこの底辺冒険者!!』

『人命救助だからセーフ』

『セーフか??』


 すると、アルの身体がびくんと大きく跳ねた。


 瞬間、口の端から虹色の粘液が這い出してくる。


「――っ!」


 聖は反射的にそれを歯で咥え、思いきり顔を引いた。

 

 ずるり――。


 アルの喉奥から、信じられないほど大量の虹色のスライムを引きずり出す。


 地面に落ちると、一目散に、エルの足にへばりついていたスライムと共に、メタリオンの元へと向かって逃げ出した。


 聖はすぐに自動小銃を出現させ、逃げるスライムへと銃口を向けた。


 躊躇なくトリガーを引いた。

 

 ドドドドと銃弾が地面を伝って追うように、スライムへ当たる。

 当たった瞬間、火炎魔法弾が弾けてスライムを炎に包み、その体を蒸発させていく。


 そのまま聖は、壁にめりこむように崩れ落ちているメタリオンと、それに集まるスライムたちへ向けて銃弾をお見舞いする。


「うおぉぉぉぉぉ――っ!!!!」


 雄叫びと共に放たれた銃弾が、メタリオンとスライムたちを、容赦なく焼き尽くす。


 それでも、聖は攻撃をやめない。

 放たれ続ける銃弾で、メタリオンたちの周囲の地面や壁が抉られていき、砂埃が奴らをつつんでいく。


 完全に目標が見えなくなっても、それでも指は止まらない。


 カチッ。


 軽い衝撃だけが返ってきた。

 聖は、もう一度トリガーを引く。


 カチッ。


〈聖さん、弾倉が空です!〉


 ヒナの声に、ハッとなりトリガーから指を離す。

 その意志に呼応して、アームレットが光り、自動小銃がその場から消えた。


 振り返った聖は、すぐに地面に寝ているアルの口元へ手を当てた。


 息の感触。


 聖は心の底からほっとした。


「神樹の雫……まだあったんだ」


 細かい息をしながらエルが呟いた。その声に気づいた聖は、今度はエルの元へと移動する。


「悪いな。あれは一個しか持ってきていない」


 聖が回復アンプルを取り出す。

 それを手にして、針先をエルへと向ける。


「強力な奴だ。我慢しろよ」


 しゃがんだ拍子に、わき腹が引きつるように痛んだ。構わず、エルの反応を待つ間もなく、その肩へと思いきり針を突き刺した。


 アンプル内の液体が彼女の筋肉へと流れ込んでいく。


 最初は無表情だったエルだが、液体が無くなるころには、目に生気を取り戻し、身体のふしぶしが微動していく。


「――痛っっっっったぁぁぁぁぁ!!!!!」


 エルの叫びが広間にこだました。


 キッと聖を睨みつける。


「殺す気か、こらぁっ!!」


 威勢の戻った声を聴き、聖はにやりと笑った。


「元気になって何よりだ」


 聖が手を差し伸べる。


 エルはその手を見て、一瞬握り返そうとしたが、すぐに顔を背け、両手に力をいれて自力で立ち上がろうとした。


 しかし、立ち上がれない。


「くそっ――なんで!」


「無理しなくていい。急な回復に身体が追いついていないんだ」


 冷静な一言に、エルは歯を食いしばった。


「なんでお前がここにいるのさ!」


 睨みつける彼女の怒気を正面から受ける聖だが、気にした様子もなく答えた。


「助けにきたんだよ」


 その嫌味のない声色に、エルの強張った表情がみるみるうちに溶けていく。


「底辺が……私を?」


「お前とアルをな」


 エルは何か言い返そうと唇を開く。


 だが、結局何も言わなかった。


 しばらくして、張りつめていた表情がふっと緩む。


 エルは一度、目を閉じた。


 数秒の沈黙。

 

 再び開いた瞳は、わずかに潤んでいた。


「ありがと」


 その一言に、にっと笑う聖。

 しかし、すぐにエルの表情がふたたび強張る。


 それを見た聖は、はっと背後を振り返る。


 チカッ――。


「――っ!」


 ドォォン!!


 メタリオンから放たれた光芒が、聖の身体を呑みこんだ。


「底辺――!」


 シュウゥゥゥン――。


 聖とエルを包むように展開された円形の魔法障壁が、敵の攻撃をすんでのところで弾き返していた。


 ポンッ。


 聖が背負う自動魔法障壁発生装置から、焼き切れたバッテリーが空中へ排出される。


 けたたましい駆動音とともに、内部で次の一本が自動装填された。


 その一部始終を見て、エルが口をへの字にする。


「あのクソドクター、人の試作品を勝手に……」


「何か言ったか?」


 聖が振り返ると、エルはハッとして顔を赤らめながらそっぽを向いた。


「何でもない!」


 チカッ――。


 メタリオンの攻撃。二発目だった。


 しかし、魔法障壁に阻まれ、聖たちにダメージはない。


 飛び出したバッテリーが熱で焦げた臭いと熱気を放ち、シュウシュウと音を立ててエルの足元へ転がった。


「どうするのよ」


 エルの一言に、聖が首を傾げる。


「バッテリーだって無限じゃない。このまま攻撃を受け続けたら、持たないよ」


 三発目。

 バッテリーがさらに宙を舞う。


 その軌道を視界の隅にやりながら、聖はエルに応えた。


「ああ、そうだな」


 自信ありげな表情に、エルの表情が焦りから困惑へと変わる。


 そんな彼女を見て、聖は口元を自慢げにつり上げる。


「心配するな。救出プランはAからJまで十通り用意している!」


「十って……今、何番目よ?」


 アームレットが光りだした。


「このクエストは、メタリオンの撃退じゃない」


 アームレットに呼応して、横たわったまま目を覚まさないアルの傍らの空間が光りだした。


 エルの目が見開かれる。


「達成条件はお前たちの救出だ。だから――っ」


 光が弾け飛んだ。


 そこに現れたのは――。


 体育座りでスマホを眺めている、みちるだった。


「……あれ? 私が映ってる?」


 ハッと顔を上げたみちるが、頭上を飛ぶルナに気づく。


「げ――」


 その反応に、聖がにぃっと笑った。


「これがプランH。八番目だ」


 そして、声を張り上げる。


「今から、ここを脱出する!」

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