↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺配信者はお金がない。深層で攻略Wikiを拾ったので、これから金策を始めます  作者: 水一乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/28

第10話 壁に尻をこすりつけたら、同接が落ちた

 足音を響かせながら、長い階段を降りていく。


 地下2階層から漏れ出る光が大きくなるにつれ、乾いた石と古い埃の匂いが強くなってきた。


「今更地下2階層に行ってどうする気なのよ」


 ルナの質問に、ヒナが視線を向ける。


「どうしてそう思うんです?」


「だって、2階層よ? 初心者でも素通りするようなところに何かがあるなんて……やっぱり、信じづらいっていうか」


「まあまあ、落ち着けって。45階層の時みたいに隠し部屋があるんだろう?」


 聖が落ち着かせようとするが、ルナはそれでも納得いっていない様子だった。


「昨日みたいな未開の階層ならわかるけど、2階層はさすがに……」


「さあ、着きましたよ」


 唐突に、ヒナが足を止めた。


「――ん?」


 ヒナの動きに反応し、聖の足音とルナの駆動音も同時に止まる。


 視線を下に向けても、地下2階層の光はまだ遠い。


「こちらが、隠されし秘宝が眠る秘密の場所です」


 ヒナは手のひらを差し向け、壁へと視線を促した。


 何の変哲もない、階段の石壁。

 特に変わったところは見えない。

 秘密の場所どころか、DRAにより電灯や転倒防止の手すりすらついている、開発されつくした場所。


 聖が首を捻る。


「いや、さすがにここは……」


 壁の周囲を調べても、地下45階層のときのような不自然なものは見当たらない。


『騙されたwww』

『詐欺師ヒナちゃんかわいすぎる』

『何かあっても、さすがにDRAが見つけてるっしょ』


 視聴者のコメントも、聖とルナが思っていることと同じだった。


 それでもヒナは自信を崩さない。

 こちらの戸惑いなどまったく気にした様子もなく、得意げな笑みを浮かべている。


「ちっちっち……甘いですねお二人とも。このわたしを何だと思っていたのですか?」


「詐欺師」


「そう、わたしこそが銀河一の詐欺師――って違いますよ! なんでそんなこと言うんですか!?」


 聖がルナを小突いた。


「わかってる。……わかってるけど、何故かこの子を見ていると足をひっぱりたくなるっていうか」


 両頬を大きく膨らませて抗議するヒナを、聖が落ち着かせる。


「俺はお前を信じているから。だから、早く話を進めよう」

「……聖さんっ! 何だか言葉にやっつけ感がありましたがわたしを信じてくれていることは伝わりました」

「うん。だから早く秘密の部屋への入り方教えて」

「かしこまり!」


 敬礼をしたヒナが、壁に背中をもたれかける。


「おーい、道を開けてくれ」


 後ろから声をかけられた。


「あ、すみませーん」


 降りてくる冒険者パーティに道を譲るため、聖とルナも、ヒナのいる壁際へと身を寄せる。


「この子たち、何してるのかしら」

「怖くなったんだろ。勢いで降りてみたものの」


 こちらを小馬鹿にした視線と、くすくすという笑い声が通り過ぎていく。


 冒険者パーティがそれなりに離れたのを確認して、聖とルナが壁際から離れる。


「早くしてよね。こんなとこで突っ立ってるからバカにされちゃったじゃない」


 必死な形相で正面を向いていたヒナが、ルナの声かけに顔を向ける。


「ずっと、やってますよぉ。でもこれ、結構難しくて」


 聖とルナが顔を見合わせる。


「やってるって何を……」


「こうなったら手当たり次第ですね」


「よっ」という掛け声とともに、ヒナがお尻だけを壁にくっつけて両手足を前にだした。


 聖とルナがそのポーズに、何も口出しせずに見ている。


「行きますよぉ」


 そう言って、ヒナが壁にお尻をこすりだした。


 あまりの突拍子のなさに、聖もルナも未だ何も口にできない。


「ちょっと、何あれ……」

「こら! 目を合わすな」


 降りてきた別の冒険者たちが、引いた目を向けながら、むしろ向こう側がこちらに気を遣って避けるようにして通りすぎていった。


 そんな冒険者たちを目で追う聖とルナ。

 すると通り過ぎた冒険者たちが、二人の視線に気づき、「ひぃ」と急ぎ足で地下2階層に降りて行った。


 その反応で二人が正気に戻る。


「何やってんだヒナ!」

「やめなさいよ! 配信中なのよ!」


『みんなが嘘つき呼ばわりするから壊れちまっただろ』

『いいぞもっとやれ!』

『壁が羨ましい……』


 コメントが荒れだしていたが、同接数は上がっていた。


「……まあ、ヒナがいいならいいか」


 月乃のトーンが下がった。


「よくない!」


 聖が慌ててヒナを止めにかかる。


「乙女がそんな恥ずかしい姿、配信しちゃいけません!」

「でも、隠し部屋に入るためにはこれしか」


 制止にも構わずに、高速で壁をこすり続けるヒナ。


「あーっ! もう!」


 見ていられなくなった聖が、ヒナの奇行を強制的に止めようと手を伸ばした。


「わかったから! 後は俺がやるから、ヒナはもう止めてくれ!」


 ヒナの両肩を押さえようとした瞬間。


 ――スッ、と。

 

 壁に吸い込まれるように、ヒナの姿が消えた。


「え?」


 ヒナを掴むつもりの手が空を切り、感触がないことに戸惑う聖。


 恐る恐る振り向き、ルナに聞く。


「……何が起きたんだ」


「わかんない……けど、壁の中に消えたのだけは間違いないみたい」


 ルナがアームを伸ばして壁を触る。


「壁に異常はないみたいね」


「おいおい、じゃあなんでヒナは消えたんだ」


「録画見直したけど、どこかに転送ってよりは、やっぱり単純に壁の中に入っていったって感じね」


 ルナが振り向き、カメラの焦点を聖の顔に定める。


 聖は、そろりとカメラから目をそらし、腕を組んで「うーん」と悩むそぶりを見せる。


「お兄ちゃん」


 びくりと肩を揺らす聖。


「……何?」


「何? じゃなくて、『チェーンソー』の時と一緒でしょ、これ」


「チェーンソーってお前……ハハッ」


 乾いた笑いの後、恐る恐る聖がルナのカメラへ目を向ける。


「階段で踊るのはちょっと」


「お兄ちゃん!!!」


「わかってるよ! 俺も壁にケツを擦り付けろって言ってるんだろ!」


「わかってるじゃない。じゃあ、はい。どうぞ」


 ルナが移動すると、聖の視線上にヒナが消えた壁が映る。


 ごくりと唾を飲み込む。


 階段の上を見ると、人が降りてきているのが見えた。


「他の冒険者の邪魔にならないかな……」


 ちらりとルナを見るが、無言で聖をカメラで捉えたまま、何も答えてくれなかった。


「くそっ! やればいいんだろ!」


 聖がヒナと同じように壁へ尻をくっつけて、手足を前に出した。


「何も起こらないじゃないか!」

「往生際が悪いなぁ、早く擦り付けなさいよ。あんまり引っ張るとよけいに滑稽に見えるよ」


「誰か、こうなる前に冒険者になるのを止めさせられなかったのだろうか」

「バカ。声が大きい。そっとしておこう。俺たちもああならないように気を引き締めようぜ」


 聖の目の前を、さらに他の冒険者たちが鼻先で笑いながら通り過ぎていった。

 

 瞬間。聖の中で何かが切れた。


「くそっ! やってやらぁ!! 俺の最高の尻こすり、見せてやる!!!」


 全力で聖が壁に向かって尻をこすり始めた。


「うぉぉぉぉ!! どうだ!! ここか! ここがいいのか!!?」


「――す、すごいよお兄ちゃんっ!」


「どうした! 何かわかったのか!?」


「すごい勢いで同接数が落ちてるよ!!」


「くっそぉっ――!!!!」


 ◇◇◇


 ガンッ! と背中に鈍い衝撃が走った。


「痛っ――何なんだよ、もう」


 目を開くと、無機質な天井が広がっていた。


 明らかに地下へ向かう階段のそれではない。


 すぐに起き上がり周囲を見渡す。


 暗く、両側を壁に挟まれた細くて狭い通路。

 しかし、突き当りにあるドアから漏れる光のおかげで、視界は保たれていた。


 少しだけ開いているドア。

 何か音が聞こえる。


 というか、その隙間から向こう側を覗き込む少女がいた。


「ヒナ!」


 聖の声に驚いて、ヒナが急いでこちらに振り向き、口に人差し指を当てる。


 しーっとするポーズに、聖は口をつぐむ。


「ん? 誰かいるの?」


 ドアの向こうから声が聞こえた。


 ヒナの顔が真っ青になる。

 聖もその様子に釣られて口に手を当てる。


 ドス! ドス! と、足音がこちらに向かってきた。


 ヒナは両耳に手を当て、思い切り目を閉じて縮こまっていた。


 息を殺す聖の耳に、自身の心音が妙に大きく聞こえていた。

 外にまで聞こえてしまうのではないかと、嫌な汗がにじむ。


 ドアの隙間の光に、謎の人物の影が重なる。


 ――見つかる。


 そう思った瞬間。


「気のせいか。そんなわけないよね」


 足音が遠ざかっていった。


 ほっと胸を撫で下ろす聖とヒナ。


 聖は細心の注意を払いヒナに近づく。


「何の状況だよ、これ」

「あれを見てください」


 ヒナに促され、隙間から奥を覗く聖。


「こ、これは――っ!」


 視線の向こう。

 目の前に広がる光景に、聖は自身の目を疑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。