41. お披露目
12月も第2週目に入った週明けの月曜日。
――ボスボス! ――ボスボス!
いつものようにお菊が僕を起こしてくれる。
「うぅ~ん、……もう朝か。お菊ありがとね」
僕が起きたことを見届けると、満足したのかお菊はリビングの方へ戻っていく。
僕は枕もとにあるスマホを手に取り画面をタップ。
時刻は5時58分。
大体いつもどおりかな。窓の外はまだ真っ暗なんだけどね。
でも不思議でしょ。時計も読めないお菊がいかにして時間を把握しているのか?
その答えはテレビにあるんだ。
お菊のやつ今韓流ドラマにハマっててさ、僕が居ない間はそれを見たりして時間を潰しているんだ。
うん、まあ僕もお菊が可愛いからテレビの視聴予約をせっせとしてあげているんだけどね。
だからさっきはBSでやってる朝の韓流ドラマが終わって、テレビショッピングが始まったタイミングで僕を起こしに来てるというわけ。
『ああ、終わったわ。そろそろあの子を起こしてあげないと』
そんな感じだろうか。
まったくもっておかんのような犬である。まあ、さすがに朝ご飯までは用意してくれないけどね。
そうこうしてるうちにも佐々木さんからLINEが入る。
『おはよー♡』と、ただ一言なんだけど、ほんの少し胸の奥が温かくなる。
間髪容れずに僕も『おはよう。きのうは楽しかったね』と返しておいた。
顔を洗ってリビングの片付けが終われば朝の散歩だ。
今日はパンチとジョンも一緒なのでダンジョンへ向かうことにした。
準備を整え、鏡の前でジャングルブーツを履いていると、三匹が交互にすり寄ってきて早く連れていけとせがんでくる。
「はははははっ、くすぐったいよ。わかった、わかったからもう少し待ってて」
散歩用のデイパックを背負い、ヘルムのバックルをカチリとはめたらダンジョンへGO!
僕らは13階層に突入した。
この13階層もオーク主体の階層になるんだけど、ここではやつらもパーティーを組んで襲ってくるのだ。
オークやオークコマンドが前衛を務め、オークアーチャーやオークメイジが後衛に控えるといった構成だ。
中でもオークジェネラルが指揮を執るパーティーが厄介で、伏兵を置いていたり、他のパーティーと共同戦線を敷いたりといろいろやってくる。
まあ、それでも僕たちの今の布陣なら一分と掛からず殲滅してしまえるんだけどね。
そんなもんなんだってほら、これって散歩でしょ。
30~40分ダンジョンをうろついたらリビングに戻ってくる。
三匹にお水を飲ませ朝食を与えた。
僕はシャワーを浴び制服に着替えたら、朝食のトーストをかじりながらスマホをチェック。
またもや佐々木さんからLINEが入っている。
『ミネストローネうまし!』。そして、『家出たよー』。
ミネストローネかぁ。
トマトベースの野菜スープだったよな。冬の朝は身体が温まって良さそうだ。
行動の一つひとつをLINEで送ってくるところは、なんか子供みたいで可愛い。
『こちらも家出た』とだけ打って僕は玄関の鍵を閉めた。
職員室にてエアコンのスイッチを入れ教室に戻ってくると、
「あ、おはよー林。朝のエアコン入れご苦労!」
佐々木さんがにっこり笑顔で僕を迎えてくれた。
「おはよう佐々木さん。教室が温まるまでもう少し時間が……」
――むぎゅ!
「それまで林が温めてくれたらよくね?」
抱きついたまま耳元で囁いてくる佐々木さん。
1、2、3、4、5、よし充電完了!
僕は佐々木さんをやさしく引きはがした。
これ以上やると歯止めが効かなくなりそうで……。
絶対誰かが来るまで続けちゃうでしょ。
すると佐々木さんは「ム――っ!」と不満そうに唸ったかと思ったら、
「猫だまし!」
パン! といきなり僕の目の前で柏手を打つ。
驚いた僕は目を閉じてしまう。
その一瞬に、
――ちゅ~~~う♡
「林もまだまだじゃね? プロなら顔面にパンチ喰らっても目を閉じちゃダメでしょ!」
してやったりとニコニコ笑っている佐々木さん。
「でも僕、次やられたとしても、きっと目を閉じてしまうと思う」
「ダメじゃん!」
顔を赤くしたまま笑いあう二人。心の中は春の陽が差したようにポカポカだった。
「なあなあ吉十」
「なんだよもなか」
二時限目の授業が終わったタイミングでもなかが後ろを向き僕に話しかけてきた。
「チケットはもう買ってしまったか?」
「いいや、まだこれからだけど、何かあるの?」
「それがさ、今回アーリーを二日とも逃がしてさ、正直手が足りねーんだわ」
ここで言うアーリーとはコミケの先行入場券のことであり、事前の申し込みが必要な上に抽選販売となっていた。
「そっか、それは残念だったな。……じゃあ、今回は僕も朝から行くことにするよ」
「マジか!?」
「ああ。だから二日目なら手伝えると思うけど」
「お、おおおおお。ヤーリー! さすが吉十、頼りになるわー。お品書きはバッチリ作っとくから」
「おう!」
喜色満面のもなか。
僕にサムズアップした後は前に向き直り、分厚いコミケカタログに目を通しはじめた。
おいおい、そんなもん教室に持ってくるなよな。
もなかのやつ今回も気合十分みたいだ。
僕も後でサークルチェックさせてもらおっと。
そして放課後。
僕は佐々木さんに誘われるまま駅前のマックに来ているんだけど。
テーブルには『ポテナゲ特大』がなんと2セット!?
なぜに? そう思っていると、
「おーす! 優里」
「はぁーい優里!」
「ひっさしぶりじゃね、最近何してたん?」
「優里ちゃん来たばい」
「マスタードソースよろ」
「ちーす!」
「どした、どした?」
そんな感じで次々に集まってくる佐々木さんのギャル友。
違う制服の子もちらほらいるし、佐々木さんの交友関係の広さがうかがえた。
目の前のテーブルにあちらこちらから手が伸びてきてポテトやナゲットをつかんでいく。
女の子って揚げ物すきだよね。
もしゃもしゃ食べながらぺちゃくちゃおしゃべりしてる。みんなとっても楽しそう。
「でぇ、前に座ってる男が優里の彼ぴっつーことでオーケー?」
「うん。そだよ!」
「そっかー、優里がねー。やい、そこの彼ぴ優里を大事にしろし!」
「……はい」
「浮気すんなし!」
「……はい」
「しっかり貢げし!」
「……はい」
「男紹介しろし!」
「……はい?」
キャハハハハハハ…………
遊ばれてる……。
「じゃあ、またねー!」と、40分ほどで会は解散。
どうやら彼氏のお披露目会だったようだ。
『これ私の彼氏だから手を出さないで!』てことだろうか?
いやその実、
『もし彼が遊んでるところを見かけたらすぐ教えてよね』てことなんじゃ……。
普通にありそうだよな。これからは気をつけたほうがいいかもしんない。
いたるところに張り巡らされてる、ギャル・ネットワークの恐ろしさよ。
「あーそうそう林。あーしから一つ提案があんだけどぉ」
マンション近くのスーパーで買い物を終え、エコバッグを両手に抱えて表に出たところで佐々木さんが話しかけてきた。
さっきおねだりされたチュッパキャンディーを口に含み棒をくるくる回している。
「うん。どんなこと?」
軽く答え、先を促す。
「明日なんだけどぉ、あーしジムに行くのね。そんでよかったら林も来ない?」
「え、それって前に言ってたキックボクシング・ジムのことだよね」
「そうそう。ここからなら割と近いし、一緒に行けたら楽しくない?」
「う、うん、一緒に通えたら楽しいだろうけど……。なんでいきなり?」
すると佐々木さんは少し考えたあと、
「今のままじゃ林がケガすると思ったのー」
お読み頂きましてありがとうございます。
次回をお楽しみに!




