39. もふもふ大渋滞
――吉十のマンション――
相州さん、アウター脱いで肩出しニットでうろちょろするのやめてくれ~。
佐々木さんも、モコモコジャケットに生足は目の毒だから。
ギャルは冬でも生足で勝負なの? ねえ?
時刻は夕方の5時。
ダンジョンから帰った佐々木さんと相州さんの二人は、今こうして僕のマンションで寛いでいらっしゃるわけですが。
ご飯はどうすんのよ?
流石にみんなお腹すいてるよね?
なんて思っていると、
「わふ! わふわふ!」
「わんわん!」
!!!
鳴き声がした方へ目を向けると、
五郎おじさんのところにいる二匹のゴールデンレトリバー、パンチとジョンが鏡を通して僕のマンションにやってきたのだ。
ブブッ ブブッ。
その直後にLINEが入る。
〈LINE〉家族
――ごめーん、犬たちの散歩お願いできる? ミサト、
――どうかしたんですか? 吉十、
――うん、ちょっと体調すぐれなくて ミサト、
――それって大丈夫なんですか? 吉十、
――うん、少し寝てれば戻るから ミサト、
――そうですか。無理しないでくださいね 吉十、
――犬たちは今夜こちらで預かりますので 吉十、
――ありがとう ミサト、
「アハハハハハ! 林見て見て、ゴールデンちゃんが三匹もいるー。もふもふ天国だー!」
「あー、はいはい。心ゆくまで堪能しちゃってください」
「ねえオタク。これな~に?」
相州さんが手にしているのは、僕が今作っている『パラコードブレス』の網掛けのやつだ。
パラコードとはパラシュートコードの略で、軽くて丈夫で水に強いのが特徴。
アウトドアにおいては、タープやテントの張り綱として使ったり荷物の固定に使ったりと用途は様々。
「それはパラコードブレスだよ。まだ作りかけだけど」
「なんでこんなもの作ってんの?」
「ダンジョン探索のときにはめていこうと思って。これなら咄嗟のときにほどいて使えば、傷口の上をしばって止血したり、腕を骨折したときに吊ったり、崖を下る際は命綱の代わりにもなるからね。ほら、ダンジョンってドロップ品以外のものは何も落ちてないでしょ」
「なーる。でもこれミサンガみたいで可愛い。うちにも一つ作って欲しいんですけどー」
「うん、もちろんいいよ。ミサンガと違ってちょっとやそっとじゃ切れないけどね」
ピーンポーン!
今度は何だ?
日曜日のこんな時間にいったい誰が来たんだ?
………………
燈子おばあちゃんでしたー。
「こんばんは吉十くん。今日もお世話になるわね」
「あ、えっと、はい……」
なんだ、なんだ、何をお世話すればいいんだ?
聞いてないよー。
「あー、おばあちゃんやっと来たー。もうお腹ペコペコだし」
「え、はあ? 燈子さんなの??? マジ誰かと思ったじゃん!」
「あら、美桜ちゃんも居たのね。ふふふ、みんな口を揃えて同じこと言うのよ」
「だって別人じゃん。美容整形とかそんなんじゃないのよね。こないだ会ったばっかだし」
「それについてはまた後でね。とりあえず移動しましょう。ビーチサンダル用意してきたからみんな使ってちょうだい」
あ、そういうことね。海辺でお食事ですか。
犬たちも散歩できるし、それ良いかもです。
ダンジョン・ゲートの鏡がブルーに発光し始めると、
4匹のわんこたちが、我先にと鏡の前で渋滞を起こしている。
ハハハッ、もふもふ大行進だな。
「かわいい!」
隣にいる佐々木さんも目じりが下がりっぱなしだ。
そんな慌てなくても、ちゃんとみんな連れていくから大丈夫だぞー。
僕たちが移動すると、浜のや(海の家)前の砂浜にはバーベキューグリルがすでに用意してあった。
従業員である黒猫が肉や野菜がのったトレーを手に持ちせわしなく動き回っている。
グリル内の炭もこうこうと赤く燃えており、バーベキューはいつでも始められそうだ。
「へえ、本格的なバーベキューだね。こんなの言われてすぐに用意できるものなの?」
「にゃ? にゃに言ってるにゃ。今日の規模なら準備に二日はかかるにゃ!」
「え、そうなの。でも、直接お店で予約するのも大変だよね?」
「だから、にゃに言ってるにゃ。電話したらいいのにゃ」
「え、電話があるの?」
「今の世の中、電話のない店があるわけないにゃ。そんな店があるならお目にかかりたいにゃん」
「…………」
でもここってダンジョンの中だよね。
そんな僕を見ていた黒猫さんは肉がのったトレーをテーブルに置くと、エプロンの前ポケットから名刺を取り出し僕に渡してきた。
なになに、
『浜のや』東京ダンジョン店、店長:ガブリエラ、予約総合受付0120-○○○-○○○。
おおお、本当だ。しかもフリーダイヤル。
黒猫さんの名前はガブリエラなんだ。女性の方だったんだね。
「総合受付ということは『浜のや』ってチェーン店なの?」
「そうにゃ。全国チェーンにゃ。海外でも何店舗かフランチャイズしてるにゃん」
海外進出までしているんだ。すごいじゃん浜のや!
「林! ジャ―――ン!」
何事かと、声のした方に僕が目を向けると、
!!!
眩いばかり、ショッキング・イエローのビキニを身に付けた佐々木さんの姿がそこに。
『どうよ!』って感じなのかな。両手を軽く突き上げ、上体を少しのけぞらせている。
海の家から飛び出してきた佐々木さんの姿に僕の目はしばらく釘付けになった。
たわわなお胸もさることながら、引き締まったおへそ周りの腹筋も素晴らしい。
「にひひ、なんか言えし」
「美しい。綺麗だ!」
高校一年生の僕にこれ以上の語彙力を求めてはいけない。
「もう優里、先に行くなし。はい、Tシャツ」
「うん、ありがとう美桜」
あとから出てきた相州さんはハイビスカス柄の赤いワンピースを着ている。
たしかムームーとかいうやつだよね。
アップヘアの黒髪にもマッチしていて、こちらもすごく綺麗だ。
「あ~、美桜の水着が見れないからって林がガッカリしてるー」
「してないよ!」
「本当かなー? さっ、バーベキューやろ! 先に始めてなさいっておばあちゃんも言ってたし」
只今燈子おばあちゃんは4匹の犬たちを連れ、砂浜を箒に乗って散歩中だ。
「お肉焼けたよー。トウモロコシはもう少しかな」
トング片手にバーベキューを仕切っている佐々木さん。
テキパキと動く姿はいつもの佐々木さんなんだけど……、
頼むから、下にも何か穿いてくれー!
お尻ぷりぷり目の前で動かれると、全く肉に集中できねー!
………………
犬たちも一緒に楽しめるバーベキューっていいよね。
犬用のゆで肉やゆで野菜まで用意してあるとは、『浜のや』もなかなかやる。
燈子おばあちゃんとも仲良くなれたので、お酌しながら魔法の箒を見せてもらった。
光沢のあるミッドナイトブルーの柄に、きれいに束ねられた柔らかい尾。
柄の上部には『Z-S30改』と白文字で表示されている。
ん……、これって悪魔のZじゃね?
まあ、燈子おばあちゃんがこれに乗って湾岸方面を飛ぶことはないだろうが、
くれぐれもスピードの出し過ぎには注意するよう言っておいた。
そして今、
――ブクブクブクブクブクブクブクブク!!
海の家の横に、なにか丸いプールが出来ていると思ったら、
大きなジャグジーバスでしたー。
人もわんこも入り乱れてのジャグジー最高!
「美桜、その赤いビキニやばくね?」
「いや、マジくっそ恥ずかしいんですけどぉ」
相州さんの付けているビキニ、確かにヤバいかも。
マイクロビキニ程ではないにせよ、ブクブク泡にゆすられて今にも胸がこぼれ落ちそう。
誰ですか、こんな素晴らしい水着を用意したのは!
「コラー! くそザコ見んなー!」
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