38. アダルト君
「救難信号を受け駆けつけたものです。大丈夫でしたか?」
僕はルームの奥にいた三人の女性探索者に声をかけた。
「へ? は? ほ? もしかして私たち助かったの?」
短槍を両手で持った女性が呆けたように口をひらく。
「はい、どうやら助かったみたいですね~」
こちらの女性は構えていたショートソードを下ろすとヘルムのバイザーを片手で開いた。
「…………」
そして大型のアクリルシールドを持った女性はホイッスルをくわえたまま一言もしゃべらない。
「うわーん! 良かったね。ほんと死ぬかと思ったよぉ」
短槍を持った女性がへにゃへにゃとその場に座り込む。
「うんうん、よかったよかった。みんな怪我はな~い?」
「うん、私は大丈夫だけど。寧々はどう?」
「あ、かすり傷だけ」
「えっ、どこどこ見せて……。あー、ミミズ腫れになってるじゃん!」
「そのくらいなら大事ないです~。それよりも……。あたしたちを助けてくれたボク君にお礼を言わないといけませんね~」
ふわふわおっとりタイプのお姉さんがやさしい顔でみんなに促す。
「ボク君ってだーれ?」
「…………」
女性三人の目が僕に集中する。
「あ、あの……間に合ったみたいで、その……よかったです」
注目されることに慣れていない僕は若干テレながらも何とか声を絞り出した。
「あぁ――――――っ、アダルト君じゃん!」
「アダルト君…………」
「気がつきましたか~? 彼はあの時のボク君ですよ~。ほらワンちゃんも入口のところにいますし~」
???
『ボク君』やら『アダルト君』やら、何なのそれ?
困惑顔をしている僕にお姉さんは、
「フフフ、今日は助けてくれてありがとう。『豊かの海』というパーティー名に聞き覚えはありませんか~? あなたもお菊ちゃんもお元気そうで良かったです~」
『豊かの海』?
僕は初対面だよな……。でもお菊を知ってるってことは……。
!!!
ああ思い出したよ!
五郎おじさんが言ってたじゃないか。
「よしぼう(吉十)を保護してくれたのは池袋ギルド所属の『豊かの海』という女性三人のパーティーだった」って。
マジかよ。
あれは忘れもしない夏休みの最終日。
ダンジョンで気を失っていた僕を保護し、そのままギルドまで運んでくれた大恩人。
それが目の前にいるこのお三方だったのだ。
僕は佐々木さんたちに事情を説明し、少し時間をもらうことにした。
ていうか、僕たちはこのルームで休憩を取り、みんなでお茶を飲むことにしたのだ。
まあ、僕とお菊がいれば安全は確保できるからね。
そしてまず、どうしてこんな事になったのかを聞いてみた。
「すごい数のゴブリンでしたね。今回のは罠ですか? それとも何かのギミックが作動したとかですか?」
「お姉ちゃんたち今回はじめてトレインを押し付けられちゃいました~」
「押し付けですか? それはひどい目にあいましたね。ギルドでもたまに聞きますよね。まあゲームと違ってトレイン作ったからといって自爆できませんし……。それでもせめて一緒に戦ってほしいですよね」
「いやいや、そんな生易しい状況じゃなかったぞ。あいつら通路でトレイン作った上に、このルームの前を通るときに誘い水を投げていきやがったんだぞ。信じられねえだろう」
「え、マジ。誘い水って、モンスターが好む草を自分たちで煎じて作るみたいな」
「あら、優里ちゃんよく知ってるわね~。いい子!」
「えへへ、先日教官が話してたし」
「それって鬼畜じゃね。探索者の中にもいろいろ居るんだねー」
「そうだよ美桜。これが現実。ダンジョンの中だけに闇が深いのさ」
「わあ、お菊ちゃんひさしぶり!」
短槍を持っていたこの女性はミサエさん21歳。
パーティー内では俊敏アタッカーだそうだ。お胸は……微乳。
「お~、ネネさんの腹筋すごーい! めちゃかっこいいんですけど。良かったら今度お茶しません」
「いいよ。単車乗ってるからどこへでも行くよ」
大型のアクリルシールドを持っていた女性がネネさん21歳。身長なんと180センチ。
パーティー内では高身長を活かしたタンク職。お胸は巨乳で、推定Fカップ。
「私たちもまだまだですね~。本当はボク君にお姉さんのすごいところを見せてあげたかったんですけど~」
ボク「お姉さんには負けないのである」
「なんですか~それは? フフフフフッ」
あいかわらずのふわふわ感を醸し出しているこちらのお姉さんこそ、『豊かの海』のリーダーであるナナコさん21歳。お胸は爆乳! 推定Gカップ。
三人は高校が一緒で、今はそれぞれ違う大学に通っているそうだ。
「でもナナコさんの時ってぇ、ライセンス18からじゃね? それでもう4階層って凄くない?」
「フフ、ありがとう。そういう美桜ちゃんはいつからなの?」
「うちら今日初めてダンジョンに入ったんですけどー。えへへ」
「ええっ、今日初めてなの? それでこんなところまで来たの!?」
ナナコお姉さんの目つきが鋭いものになる。
あっちゃー(汗)
「ボクくん?」
「は、はい!」
「めっ! いくらボク君が強くてもこれはいけないわ。レベルが低いとゴブリンの一撃で死んじゃうことだってあるのよ」
「はい、ごめんなさい!」
僕は『めっ!』されたおでこをさすりながら、ひたすらナナコお姉さんに謝るのだった。
「ほんとに送っていかなくて大丈夫か?」
ネネさんが僕たちを見下ろすように言ってくる。
「はい時間もありませんし、帰りはここから帰還スクロールを使いますから」
(帰還スクロール:パーティーメンバー全員がダンジョン広場まで帰還できる)
「じゃあ気をつけて帰るんだよ、アダルト君!」
「もう、その呼び方はやめてくださいよー」
「カカカ、ダメよ。あんな凶悪なもの寧々にこすりつけといて、今更なに言ってんのよ!」
「帰りずっと腰にコリコリ当たってた!」
「もーうネネさんまで。勘弁してくださいよー」
「「「「あはははははははは!」」」」
みんな笑ってるけど、これってホント困っちゃうよね。
だって居眠りしただけで勃っちゃうんだよ。バスとか電車でもお構いなしでさ。
授業中に居眠りしてて指名されたときなんか……勃ってるから立てないんだよ。
思春期の男子って皆大変なんだからね!
「今日のお礼はまた近いうちに改めてやりますからね~。それまで楽しみにしていてくださいね~」
「おう、今日はありがとな! あたいらに何か手伝えることがあったらいつでも言いな。力になるぜ!」
「あいつら絶対許さない。今から追っかけていってとっつかまえてやる!」
「こちらこそ気軽に声をかけてくださいね。ナナコさんもネネさんもお気をつけて。ミサエもがんばれ!」
「なんで私だけ呼び捨てなのよ!?」
「ん~、ただ何となくかな」
「~~~~~」
「へー、オタクにしてはいいところに住んでんじゃん」
「そりゃどうも」
話が違うくない?
『今日の打ち上げにどこかご飯でも食べに行こう!』
そういうことだったので帰らないで待っていたのに、
なんで家に来ちゃうかなぁ?
佐々木さんはリビングでお菊と共に寛いでるし、相州さんは黒まろ連れて部屋を見て回っている。
「お茶淹れたよ!」
「サンキュー! なかなか気が利くじゃんオタク」
はいはい、一応お客さんですから。
ダージリンティーもあるし、クッキーも前のが残っていたからね。
そして、今日も頑張ってくれたお菊には桃のいろはすを。
勝手に来ている黒まろにも炭酸水を出してあげましょうかね。
これ飲んでいっぱいゲップしてろ!(笑)
お読み頂きましてありがとうございます。
次回をお楽しみに!




