37. 引率者
――江東ギルド大ホール――
「まずは身につけてる装備と持っていく所持品の確認をするよ」
「はー、このオタク何言ってんの? 見せるわけないんですけど。女の子のバッグの中を覗こうとするなんて変態じゃね」
「はーい、じゃあ佐々木さんのから確認していきまーす!」
「ほーい、お水とおにぎり、あと言われたものはだいたい入れてきたし」
「おいオタク! シカトすんなし!」
「まあまあ、美桜もバッグを下ろしてここに並べて。中身はあーしが確認してあげるから」
「……うん」
「まったくこの子は素直じゃないんだから。昨日の晩はあれだけはしゃいでたくせに」
「優里! 余計なこと言うなし」
装備の点検が終わってみんなが立ち上がったところで、
「ちーす! 優里ちゃん美桜ちゃん。いつも可愛いね」
「うっす! 今日は初ダンジョンでの魔石取りよろしく! 俺らがしっかりと守ってあげるから安心してついてきてよ」
声をかけてきたのは、いかにも遊んでそうな金髪フワフワ男と、目の細い茶髪ロン毛男の二人。
いわゆるチャラ男だな。
フットワークも軽くて女性慣れしてそう。
金髪フワフワ男の方を見てみれば、
耳と口にはピアス。首には金のネックレス。指輪も一体いくつ嵌めてるんだよ?
服装にしてもTシャツの上に柄物のシャツを重ねてるだけ。
ヘルムもなければ手袋すらしていない。
所持品に至ってはジーンズに差している短剣と、手にさげてるコンビニ袋のみ。
ダンジョンを舐めきってるとしか思えない格好である。
「はぁ――――っ? ふつうに嫌なんですけどぉ。うちらのパーティーはもう決まってるっつーの。フンッ!」
相州さんの綺麗な黒髪が揺れる。
「そんなこと言わないでさ、こっちの引率者は5級のベテランだぜ。そこの犬使いなんかより全然頼りになるし、万一の時でも俺たちが体張って守ってあげるよ」
茶髪ロン毛男が何とかしようと食い下がってくる。
「林もお菊ちゃんもそろそろ行こっか?」
「……うん」
「わふ!」
佐々木さんに促され、男たちを無視してみんなが歩き出したところ、
「ねえ、ねえってば。ちょっと待ってよ!」
金髪フワフワ男が佐々木さんの腕を引っ張った。
物事に対しその場のノリで行動してしまうチャラ男。
この程度のボディタッチはそんなチャラ男たちによく見られる行動ではあったが。
「――おおい!」
自分でも驚くほど低い声が出た。
その声にピクリと反応した金髪フワフワ男は、佐々木さんから手を放すとその場で動かなくなってしまった。
そしてプルプル震えだしたかと思えば、
ジョジョジョジョジョ――――――。
床に広がる黄色いシミ。
周りに立ち込めるアンモニア臭。
「くっせ、こいつ小便もらしてるぞ!」
近くにいる誰かが言った。
しばらくすると、金髪フワフワ男はギルド職員に両脇を抱えられどこかへ連れていかれてしまった。
「ねえ林。あんた今何かやった?」
「ううん。ただ後ろから睨んだだけだよ」
「そう……」
「オタク……」
そして僕たちは予定どおりダンジョンへ入った。
最初こそワーワーキャーキャー騒いでいた彼女たちだったが、
一時間もすると、
「なあオタク。何とかならないの?」
「何とかと言うと?」
「飽きた」
でたよ。
さすがはギャル。
熱しやすく冷めやすいのはギャル本来の特性なのかもしれないけど。
「飽きたといってもこのマッピングは大事だよ。マッピングや位置確認をおろそかにしていると、そのうち迷子になって泣くはめになるよ」
「それは分かってるんだけどさ~。うちらせっかくダンジョンまで来てんじゃん。そしたらほらあるでしょう。血沸き肉躍る戦いというやつ?」
「えー、そんなこと言われても……」
グリーンのツナギを着ている相州さん。
どういう訳かダンジョンに入ってからは気軽に話しかけてもらえるようになっていた。
まあ、オタク呼びはそのままなんだけどね。
「ねえねえ、オタクも結構戦えるんじゃね? びしばしとゴブリンやっつけてさ、うちらにカッコイイところ見せてみろし」
「う~ん……」
僕は佐々木さんの方に目をやった。
「別にいいんじゃね? あーしら同じパーティーなんだし、それぞれ個人の能力は把握しておくべきじゃね」
うん、まあそうなんだけどね。
パーティー内で隠し事をしてもトラブルの元かな。
僕はお菊を近くに呼び、少しだけ打ち合わせをした。
「え~と、残り二時間あるんだけど、これから4階層へ行きたいと思います。4階層はゴブリンも多く大変危険なので勝手な行動は控えて落ち着いて行動してください。それとこれから起こることはくれぐれも内密にお願いします」
「「はーい!」」
「それじゃお菊頼むな」
「わふ!」
お菊がダンジョンの岩壁にゲートを開く。
行き先はもちろん僕んちのリビング。
出てくる前に電気は消してきたので部屋の中は薄暗い。
「えっ、ここってどこよ? 誰かの部屋?」
「フフフッやっぱり。これでダンジョン探索してても温かいカフェラテが飲めるわね」
「はーい、またすぐ行きますよ。遅れないようについてきてー」
程なく僕たちは4階層に降り立った。
なぜここにしたのかは理由があって、4階層は極端に人が少ないからだ。
下から歩くと往復で三時間は掛かるし、出てくるのも普通のゴブリンだから単に割に合わないのだ。
脚立を担いだ鉱石取りもたまに見かけるけど、
ここってゴブリンが多いから、
作業をしていると、岩砕の音を聞きつけたゴブリンがわらわらと集まって来るわけ。
結果、道具を置いたまま逃げ出すはめになるのだ。
「はーい私語は慎んで。モンスターが来ても決して前に出ないようにね。上にも注意が必要だよ。スライムが落ちてきたりするからね」
「なんかオタクってぇ、先生みたいじゃね?」
「はーい先生、わかりましたー!」
「「キャハハハハハハ!」」
緊張感が足りないような気はするけど、はじめから萎縮されるよりはいいのかな。
戦いを見せれば自然と引き締まると思うし。
………………
それから数回ゴブリンとの戦闘を見せた。
今は誰もしゃべらない。
僕も瞬殺するのはやめて、ゴブリンが苦しむ姿をあえて彼女たちに見せている。
これでいいんだ。
ダンジョンは遊び場ではない。
お互い命をかけた戦いの場なのだ。
4階層へ来て一時間が経った。
モンスターとの戦いも十分に見せることができたので、そろそろ戻ろうかと考えていると、
前を軽快に進んでいたお菊の足が突然止まった。
「お菊どうした?」
後ろを歩いていた僕がお菊に尋ねる。
『――――――』
「そっか。じゃあ急がないとな」
「林、何かあったの?」
「あ、うん。救難信号だって。すぐ近くみたいだからとりあえず向かってみよう。ちょっと走るけどお菊のあとを追いかけて」
「「了!」」
お菊は一分ほど走るとすぐに足を止めた。
通路の左側にあるホール(部屋)の前だ。
追いついた僕が中を覗くと……、
いるわいるわゴブリンが、狭いホールの中でひしめき合っている。
おそらく20匹以上はいるんじゃないか。
なんでこんなことになってるのだろう?
まあ、とりあえず先に助けますか。
「佐々木さんと相州さんはここで待っててね。絶対お菊の側を離れちゃダメだよ」
二人がうなずくのを見て、僕は言った。
「お菊挑発だ。この数だけどいけるか?」
「わふ!」
お菊は挑発を使った。
すべてのゴブリンの目がこちらに向けられる。
――アクセル!
間延びした時間の中、僕はピッケルのスピッツェ(石突)でゴブリンの喉を正確に突いていった。
2クール(14秒)後、すべてのゴブリンは雪崩を打つように倒れ伏し次々に魔石へと変わっていく。
そしてホールの最奥には、
今まで必死で抵抗を続けていた三人の女性探索者の姿があった。
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頑張ります。φ(ΦωΦ )
次回をお楽しみに!




