34. 有事の金
ピザやらその他の注文を終え、佐々木さんと燈子おばあちゃんは再び僕と向き合った。
いつの間に来たのか、黒まろが佐々木さんの膝の上を陣取っている。
「…………」
お前がそこに居たらせっかくのVゾーンが見えなくなるだろうが!
射殺さんばかりに睨みつけている僕のことなど歯牙にもかけない黒まろは、
佐々木さんに背中をなでてもらいながら大きなあくびをしている。
「それで吉十くん。ピザが届く前に少しお話をしたいのだけど、いいかしら?」
「あ、はい。なんでしょうか?」
すると燈子おばあちゃんは手さげバッグから風呂敷包みを取り出すと、それをリビングテーブルの上に置いた。
風呂敷包みを開けると、中から出てきたのは両手に乗るぐらいの黒いプラスチックケース。
上のフタには「PCGS」と金文字でロゴが入っている。
初めて目にするものに僕が目を丸くしていると、
「これはスラブケースの収納ボックスなの」
「スラブケース……ですか?」
さらに困惑を極める僕。
「ええ、どういう物かは見た方が早いわね」
そう言いながら燈子おばあちゃんは黒い収納ボックスのフタを開け、
綺麗に並んだスラブケースを一枚抜き取り僕に渡してきた。
「うわぁ、これって金貨なんですか? 僕初めて見ました」
透明なプラスチックケースの中には金貨が一枚封入されており、
上部には説明書きだろうか、数字や英文字、バーコードといったものが印字されている。
「そう、これはアメリカが出している1オンスのイーグル金貨(22金)ね。表面には自由の女神、裏面には白頭鷲が描かれているわ」
へぇ~、アメリカの金貨なんだ。
ずっしりと重くてキラキラで、なんか凄いや。
これ見てると金に魅了されてしまう人がいるというのもわかるような気がするな。
実際に、だんだんと欲しくなっていく自分がいる。
金貨、ヤバいんじゃね。
「ねえねえおばあちゃん、あーしにも見せて!」
「いいわよ。でも落とさないように気をつけるのよ」
「はーい!」
「あ、こちらはお返しいたします。大変貴重なものをありがとうございました」
スラブケースに入った金貨を両手をそえてお返しする。
「おばあちゃん、これっていくらぐらいすんの?」
「今のレートでいくとそれ一枚で70万円以上するわね」
「へっ、70万!?」
佐々木さんの目がまんまる大きく見開かれた。
そしてスラブケースをそそくさとおばあちゃんに戻している。
フフ、慌てている佐々木さんもなんか可愛いな。
「さて、本題に入らせてもらうわね。今見せた金貨と同じ物がここに14枚あるの。これを吉十くんに受け取ってほしいのだけど」
「…………」
な、なんですと―――――っ!
「まあ、びっくりするのもわかるけど私の話を聞いてちょうだい」
「あ、はい」
「この金貨はね、亡くなったおじいさんが私の老後のお小遣いとして毎年一枚ずつ買っていたものなの。おじいさんはこの辺ではわりと有名な資産家でね、この金貨にしてもほんのお遊びみたいなものだったのでしょうね。だって毎年一枚ずつ家族全員に買っていたんですもの」
佐々木さんも、えっ? ていうような顔をして隣にいるおばあちゃんを見ている。
「そうよ、優里ちゃんの分もゆっくんの分もちゃんとあるわ。でも、しっかりお母さんのいうことを聞かないともらえなくなっちゃうかもね」
「あ、あの~、今回のことについて僕は見返りをもらおうとは思っていません」
「私を秘密裏に助けてくれたことを思えば、吉十くんの言いたいこともわかるわ。でもね大人の世界ではそれはできないの。ましてや今回の金貨は見返りやお礼ではないもの。なんて言えばいいのかしらね……必要経費? そう、これは必要経費だわ。だから躊躇することも気兼ねすることもないのよ。誰も損していないのだから」
僕は自分の頭では整理がつかなくなり五郎おじさんに電話した。
そうするとすぐに燈子おばあちゃんに代わってくれとのことで……。
………………
…………
……
『話はついた。今回は頂いておけ。保管する場所については明日にでも話せばいいだろう』
『うん、わかった。五郎おじさんありがとう! うん、また明日』
電話を終え僕がスマホをテーブルの上に置くと、
ピーンポーン!
「あ、ピザが来たみたいね」
「あ-しが対応してくるから、林はおばあちゃんと話をしてろし」
「そうね、じゃあこのケースのことも話しておこうかしら」
燈子おばあちゃんの話によれば、
この金貨が収まっているPCGS社のスラブケースは特殊な作りで、中の金貨を簡単には取り出せなくなっているらしい。そしてスラブケースの上に表示されている数字や英文字はその金貨自体のグレードや製造国などの詳細が書かれているということだ。
しかしグレードといっても、今回持ってきている金貨はどれも完全未使用なものであるため、
グレーディング(等級付け)されたとしても評価は当然最高評価ということになる。
つまり今回の場合、評価うんぬんよりも『この金貨は本物である』という証として用いられているのだとか。
なるほど、それなら真偽の判断がつかない素人でも取り扱いが楽になるよね。
「いま世界中でダンジョンが出現しているでしょう。『有事の金』と言われているぐらいだから金はまだまだ上がるわ。来年楽しみにしておくといいわよ」
え、それって上がるとわかっている金を手放したということだよね?
「あの……」
「おお―――い林! ヘルプお願い!」
「はーい。いま行くよー!」
燈子おばあちゃんが持ってきた金貨の話も終わり、我家ではピザパーティーが始まった。
飲み物が各自に配られたところで、
「じゃあ乾杯しましょうか。音頭は吉十くんにお願いするわね」
燈子おばあちゃんからのご指名である。
「ぼ、僕ですか?」
なんで陰キャの僕に振るんだよ!
乾杯だろう? おんどってなんだっけ?
みんなの視線が僕に集まる。
「……………………」(汗)
「なにも出てこないなら、とりまカンパイだけ言っとけばいんじゃね」
「うん、じゃあカンパイ!」
「「カンパーイ!」」
リビングテーブルの上、ところ狭しと置かれたピザにみんなの手が一斉に伸びる。
「う~ん、アツアツでおいしい!」
「そうね美味しいわね。またこんな美味しいものが食べられるなんて、吉十くんとお菊ちゃんには本当に感謝しかないわ」
そうなんだ、今回お菊もよく頑張ってくれているのだ。
あの後、お菊は五郎おじさんに呼ばれて『光学迷彩』のスキルを取得。
そのあいだに僕の方は佐々木さんに教えてもらった病院まで走って移動。
病院前の暗がりにて五郎おじさんに借りた変身サングラスを掛けると、佐々木さんの気を探り病室へと転移した。
(変身サングラス:自身に光学迷彩を施すことができるダンジョン産の便利アイテム)
ベッドサイドで両手を枕に眠っている佐々木さんを起こさないよう僕はそっとおばあちゃんに近づき状況を確認、すぐさまお菊を召喚した。
そこから先は五郎おじさんに教わったとおりの手順で進めていく。
まずはお菊にヒールを二回掛けてもらい病状を安定させる。
真っ白だったおばあちゃんの顔に赤みがさしてくる。
次にクリーンを掛けさせ、カラカラのくちびるを開く状態にした。
そしてハイポーションの蓋をあけ口に流し込む。
ポーション類は飲み込む必要はない。口に含ませるだけで吸収されていくのだ。
おばあちゃんの身体が光に包まれるように発光する。
浅かった呼吸が安定。
危篤状態を脱したことを確認して僕とお菊は病室を後にした。
えっ、ピザが食べられないお菊はどうしているのかって?
大丈夫、お菊は僕が広げたシートの上で大好きなBIGガム(骨型)を夢中でカジカジしているから。
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次回をお楽しみに!




