31. 魔力感知
「ふ~ん、なるほど。そういうことだったんだー」
「うん、たまたまハイポーションが手元にあって、たまたま救える命が僕の手の届くところにあった。ただそれだけのことなんだよ」
「そのハイポーションって、売ったら大変な額になるって聞いたことあんだけど?」
「さあ、どうだったかな? もう使っちゃったし、どうでもいいかな」
「どうでもよくない! 実際死ぬとこだったおばあちゃんが前より元気になってるんだから」
「元気になってるなら本当に良かった。やさしそうなおばあちゃんだったし、長生きしてほしいよね」
「うん、長生きはすると思う。『膝とか腰も痛くなくなったし、10歳ぐらい若返った感じがするわね』って、おばあちゃん言ってたから」
「それに、佐々木さんにはいつも笑顔でいてほしいから……」
佐々木さんの顔は僕の手の中でみるみる真っ赤になり、消え入りそうな声で、
「もうバカ! そんなヤリチンみたいな台詞じゃ、あーしは落ちないんだからね!」
そう言ったかと思うと、スースーかわいい寝息を立てて佐々木さんは眠ってしまった。
『いろいろと疲れてたんだろうなぁ』
寝ている佐々木さんを起こさないよう、僕はそっとベッドを抜け出しリビングの方へと戻った。
ピロートークしていたけど、服は着たままだし僕たちはまだキスより先には進んでいませんから。
部屋のドアを静かに閉めると、リビングの床で寝そべっていたお菊がむくっと立ち上がり尻尾を揺らしながら僕に近寄ってきた。
僕はお菊を一撫でしてからキッチンへと向かいコーヒーを淹れた。
ソファーに腰を下ろした僕はコーヒーを一口すすった。
「ふぅ、おいしい……。黒まろはもう帰ってしまったようだね」
『またくる、あそぶ、おいてく、たのしい、ゆびわ、おみやげ』
お菊は僕の膝の上にアゴを乗せたまま念話を飛ばしてくる。
「指輪? ああコレね」
リビングテーブルの上に置かれていた指輪を僕は手に取ってみた。
!!!
これってマジックリングだよな。おみやげで渡すような代物じゃないだろ。
でも、まあ、せっかくの好意だし、佐々木さんが起きたら渡しておいてあげよう。
その後はお菊にご飯を食べさせて佐々木さんが目覚めるのをゆっくりと待った。
あれから3時間ほどが経ち、僕の部屋のドアがようやく開いた。
僕がそちらに目を向けても、佐々木さんの姿はドアに隠れていてよく見えない。
「どうしたの?」
僕がそう尋ねると、しばらく間を置いてから佐々木さんは、
「林、あーしのバッグ取ってくれる?」
「え、はいはい」
僕が動こうとすると、それを制止するかのようにお菊が立ち上がり、
佐々木さんのバッグをくわえてドアの影に入っていった。
「キャー、お菊ちゃん気が利く! ありがとね!」
「あのー?」
「林はそこで待ってろし、こっちに来たらシバくからね!」
「へ~い」
………………
「林、ごめんねー。あーしすっかり寝こけちゃったわー」
「うん全然大丈夫だよ。カフェラテあるけど、飲む?」
「わあわあ、カフェラテあんの? のむのむ!」
「はーい、こちらがカフェラテになります。どうぞ~」
「ふあ、いい香り。いただきまーす!」
そして僕は黒まろが置いていった指輪を佐々木さんの前に出した。
「それでコレなんだけど。黒まろからの贈り物らしいよ」
「え、黒まろが? そういえば黒まろの姿が見えないし」
「あいつは気まぐれだから、いつもここに居るとは限らないよ」
「どゆこと?」
「ん~なんていうか、あいつって特別な存在なんだよね。まあ、そのうち分かってくるとは思うけど」
かなり困惑している佐々木さん。
「僕も以前同じものをもらったよ」
そう言って僕が持ってるマジックリングを見せてあげると、戸惑いながらも少しは納得してくれたようだ。
そして、これからが本題。
せっかくマジックリングを手に入れたのだ。
魔力を使いこなせなければ宝の持ち腐れになる。
「佐々木さん、時間の方ってまだ大丈夫?」
「ああ、うん、あと少しぐらいなら」
僕は佐々木さんに魔力操作を教えることにした。
と、そのまえに……、
先に腹ごしらえをしようかな。
時計を見れば夜の8時を回ったところ。
僕はさっきパンをかじっていたけど、なにも食べていない佐々木さんはかなり空腹のはずだ。
「佐々木さんお腹すいたでしょう。ちょっと待ってて、簡単なもの作るから」
僕は佐々木さんに断りを入れて台所に立った。
フライパンを火に掛け、豚バラと昨日切っておいた野菜(キャベツ、にんじん、玉ねぎ)を冷蔵庫から取り出し油で炒める。
そこにレンチンしたうどん玉を投入し粉末の焼きそばソースを絡めて少し炒めれば、
美味しい焼きうどんの出来上がり!
焼きうどんを皿に盛り、シングルパックの花かつおを添えて佐々木さんが待つテーブルの上に出した。
「はいお待たせ! お水もすぐ持ってくるから」
「…………」
「どうしたの?」
「林ってすごくね。まだ5分と経ってないじゃん!」
「べつに凄くないよ。ただ慣れてるだけだよ。さぁ冷めないうちに食べよ」
「うん。いっただっきまーす!」
「どう?」
「うまうま! マジ神なんですけど~!」
「焼きうどんの神はあまり嬉しくないかな……」
「なにそれキャハハハハハハ! うける~」
「佐々木さん、魔法使いになろうよ!」
「魔法使い?」
「そう。そして今から教えることを毎日寝る前にやってほしいんだ」
「うんうん、やるやる。魔法使いって楽しそう!」
「じゃあ、魔力感知からね。今の僕たちでも体内にほんの僅かだけど魔力を宿しているんだ。まずはそれを認識するところからだね」
「あーしはどうすればいい?」
「う~んと、じゃあこのソファーに仰向けになってくれる」
「OK!OK!」
「次は、お菊おいでー。佐々木さんはお菊と手を繋いでみて」
「これでいい?」
「佐々木さん、途中で気分が悪くなったり身体に変調が出たときは言ってね」
すこし緊張気味にうなずく佐々木さん。
「じゃあお菊、佐々木さんにゆっくりと魔力を流してみて」
――10秒後――
「どう、佐々木さん?」
「う~ん・・・微妙じゃね?」
「じゃあ、次はもう少し長くやってみよう」
――30秒後――
「どう?」
「う~んダメ。あーしには魔法の才能ないみたいな……。プチヘコむし」
悲しげにぼやく佐々木さん。
「そんなことない! 魔力感知は時間が掛かることもあるんだ。それこそ数ヶ月掛かることもザラだって僕のおじさんも言ってたから」
「…………」
だ――――っ! だからそんな悲しそうな顔をするんじゃないよ!
抱きしめてしまいたくなるだろう。
「……えっと、佐々木さん。今度はお菊が流した魔力を佐々木さんの身体を通して僕が回収してみるよ。『丹田』と言っておへその下の方に魔力が溜まる場所があるんだけど。その……、佐々木さんの身体を触っても大丈夫? もちろん服の上からだけど」
佐々木さんは顔を赤らめながらも頷いてくれた。
「じゃあ、お菊頼むよ」
えっと、丹田の位置はおへそより5センチほど下だったはず。
「あっ、あっ、きた! 来たみたい!」
「ここだよ。わかる?」
「うん、わかる! でもこれって……。あん、ああん、なにこれ、なにこれ、すごい! あ、ああ、ああああ、ああああああダメ!!」
佐々木さんは下腹部にのせた僕の手を突きあげるようにして痙攣していた。
なんでだろう? ヒミツノトビラが開いたのかも。(汗)
とにかく魔力感知はできた。
あとは地道な魔力操作の訓練だけである。
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