27. 綾香とダンジョン 3
「クゥ~ン?」
前を行っていたお菊が立ち止まり、振り返って僕を見てくる。
「お菊どうしたんだ?」
するとお菊は、
『きこえる、かりかり、こえ、あぶない、おいしい、ひと』
と、このように念話で伝えてくる。
「そうかわかった。すぐに向かってくれ!」
僕が指示を出すとお菊は前を向き走り出した。
「キャプテン、何かあったと?」
「うん、今はとにかくお菊を追おう。説明は走りながらする」
「オッケー!」
お菊を追って僕たち二人も走り出した。
「お菊がホイッスルの音を拾ったみたいなんだ。人がたくさんのモンスターに襲われているって」
「え、そげなことまで分かるったい? お菊ちゃんすごかー」
2~3分ほど走っただろうか? お菊はとあるホールの入口で僕たちが来るのを待っていた。
洞窟が続くダンジョンには大小さまざまなホール(部屋)が存在している。
通路の途中に存在するものや、分岐した通路をつなぐためのもの。
中にはホールの先が行き止まりになっている場合もある。
「お菊ご苦労さん。それで中はどうなっているんだ?」
お菊にねぎらいの言葉をかけ、僕はホールの入口から顔だけ出して中を覗き込んだ。
『あれ~、おかしいな誰もいないぞ?』
ホール全体を見渡すが何もない。
『う~ん、じゃあこっちか?』
入口の裏側に少し奥まった部分を発見した。
――いた!
居たことは居たんだけど、これは……。
「どげんしたとー。何かあったとね?」
裏側を見たまま固まっている僕を見て、綾香が後ろから声をかけてきた。
「うん、大したことはないみたい。中は僕とお菊で対処してくるから、綾香はモンスターが侵入しないようここで見張っててくれるかな?」
「――うん、まかせんしゃい。ばってん、なんかあったらすぐに呼ばなよ。ガンダで駆けつけるけん!」
無言でうなずく僕。
綾香の顔もすこし緊張気味だ。
『よし、お菊行くぞ!』
ルームに突入する僕とお菊。現場までの距離は15メートル程。
そこには槍を手にした女性が一人、
ケガを負った男性を後ろにかばうかたちで複数のモンスターと対峙していた。
モンスターはゴブリンが2、コラットが6の混成部隊だ。
女性の口には今もしっかりとホイッスルがくわえられている。
「ケガ人がいるみたいですが、助けは必要ですか?」
僕はモンスターと対峙している女性に声をかけた。
どんなに緊急な場合であっても、ダンジョン内ではトラブルを避けるため最低限の声かけは必要なのだ。
「えっ…………、ええ、お願い。助かるわ」
女性が若干の戸惑いを見せたのは僕が若かったせいだと思う。
だってさ……。
見た目大学生ぐらいのおねーさんなんだけど、なんと下半身が露わになっているのだ。
いわゆる、下半身がすっぽんぽんというやつですよ。
内股で槍を構えている姿がとっても刺激的!
『こんなにモンスターが集まってくるまで、あなた方はいったい何をやってたんですか?』
そうつっこみたくなる気持ちをグッと堪え、とりあえずモンスターを片付けることにした。
「お菊、コラットに向け挑発だ! こちらに引き付けるぞ」
「ワフッ!」
お菊は突撃態勢をとったままコラットたちに向け【挑発スキル】を使った。
後ろから挑発を受けた6匹のコラットは飛び跳ねるようにその場で反転、お菊に向け一斉に襲いかかってきた。
後方にいた2匹のゴブリンも何事かとこちらに向き直っている。
向かってきていたコラットはお菊によって瞬く間に駆逐された。
それに要した時間はおよそ3秒。
ホォ――――ッ、アタッ! アタッ! アタタタッ!
風を纏わせた前足でスパスパモンスターを葬ってましたわ。
よし終わったな。
女性が呆気にとられている間に退散しよう。
え、ゴブリン?
動きだす前に僕が行って首を刎ね飛ばしましたよ。はい。
「それじゃあ僕たちはこれで失礼しますね。表に人を待たせているので」
何か言われる前に僕らはさっさとその場を後にした。
「あっ、あの、ちょっ…… 」
おねーさんが下着をつけながら何か言っていたけど、僕はこれ以上何もする気はなかった。
あとはそちらで勝手にやってほしい。
いや、勝手にやった結果がこれなのか……。
だいたい後ろでひいひい唸っている男にしたって、ケガしているところは剥き出しのお尻だよ。
なにをやっていたかはバレバレだよね。
いくら高ぶっていたとしてもダンジョンでやることじゃない。
ねずみにお尻をかじられてザマァまである。
ねっ、なぜ綾香を残してきたのかがわかるでしょう。
ギャルといっても綾香は純情そうだし、こんな現場はなるべく見せないほうがいいと思ったんだ。
というわけで、ものの2分ほどで事態を片づけた僕とお菊はホールの外で待っていた綾香と合流。
すぐにその場を離れ移動を開始した。
「それで中には何がおったとー?」
「うん、ホールの中にはケツだけ星人とおしりかじり虫がいたよ」
うん、まあ嘘はついてない。(笑)
「えーっ、なんね? なんね? バリ楽しそうやん。あー、あたしも行けばよかった」
駆け足で移動すること数分。
次のホールの前で尻尾を揺らしながら待っているお菊の姿が目に入った。
「うん、その話は次の休憩のときにするから。今はモンスターに集中だよ!」
「はーい、キャプテン!」
………………
こんなゆる~い感じで、この日の探索は無事に終了。
3階層から一旦外に出てきた僕たちは、
ダンジョン前広場にある転移台座を使って江東ポータルまで戻ってきた。
ポータルを出ると、
目の前にはギルドの買取りカウンターがずらりと並んでおり僕らを出迎えてくれる。
ダンジョンから持ち帰った物に関しては、原則として表には出せないようになっている。
これに違反すると軽いもので罰金刑の他、探索者ライセンスの一時停止や取り消し。
ひどいものになると懲役刑まで科せられるのだ。
もちろん例外も認められているわけで、
その代表格が治癒ポーションであり、パワーアップアイテムなどである。
これらの物は一旦ギルドが預かるかたちとなるが、申請することで本人に限り所持が認められている。
まあ、これはギルドとしての建て前なんだけどね。
ポーションの劣化やアイテムの真偽など、
個人売買におけるトラブルに関しては、一切ギルドは関知しないと言外に示しているわけだ。
買取りカウンターで清算を終えた僕たちは、着替えを済ませた後に玄関ロビーで待ち合わせをしている。
綾香がどうしてもご飯をおごると、言いだして聞かなかったのだ。ハハハ。
玄関ロビーで待つこと40分。ようやく綾香が顔を見せた。
「あ、ゴメン、ゴメン、だいぶ待ったやろ?」
「うん、でも大丈夫だよ。お菊と遊んでいたから」
今日の綾香は白の3本ラインが入ったピンクのジャージ姿。
背中にはバックパックをしょっており、手には大きな衣装ケースを持っていた。
「そっか。じゃあ早速行くばい。10分ぐらい歩くばってん問題なかよね?」
「うん、こっちは全然大丈夫。ただ……、その手に持ってる衣装ケースは僕が持とうかな」
綾香もランクアップしているので、これぐらいの荷物はなんてことないんだろうけど、
見た目がちみっこだからね。
それにケースが大きいから変な持ち方をしてるのよ。
「えー、肉丸くんは優しかねぇ。そやったら煮卵もおまけするばい」
「煮卵? いったいどこに連れていくつもりなの?」
「なんばいいよっとー、ダンジョンあがりはとんこつラーメンに決まっとろーもん!」
「…………」
決まってないと思うけど……。
煮卵のせ、とんこつラーメン(バリかた)おいしゅうございました。
お菊の方も釜ゆで前のゲンコツをもらって大喜びだった。
ブックマーク(多数)ありがとうございます。
がんばって書きますので、
これからもよろしくお願いいたします。φ(ΦωΦ )
次回をお楽しみに!




