26. 綾香とダンジョン 2
ええっと……、紆余曲折いろいろとございましたけれど、
僕たちはパーティーを組んで東京ダンジョンの1階層に入った。
といっても、転送されたのは2階層へと続く階段の前。
転移台座によりアバウトではあるが転送場所の指定ができるのだ。(未到達領域は不可)
東京ダンジョンの1階層から10階層までは土と岩でできた洞窟タイプになっている。
洞窟内は薄暗く見通せる距離も20メートル前後と短い。
道幅の方は意外と広く、6m程あるのでパーティー同士がすれ違うことも楽にできる。
「あのね、いつも先導と前衛はお菊に任せているんだ。キミは中衛をお願い僕が殿をつとめるから」
「了解。キミじゃなく綾香って呼ばんねキャプテン!」
「そうだね綾香。そのキャプテンというのは……なに?」
「ダンジョン内では命令が通りやすかごと『言葉は簡素に』が基本たい。このパーティーのリーダーは吉十やけん、そげん呼んだとばい。リーダーと言うよりキャプテンと言った方が分かりやすかろう?」
「なるほど理解した」
ていうか、綾香のやつ僕の名前を知っていたんだ。
名前を知らないから僕のことを肉丸くん呼ばわりしているもんだと思ってたよ。
疑ってスマン。
2階層は地図があるので順調に進んでいき、
僕たちは駆け足すること40分、3階層へ続く階段前に到着した。
道中の成果としてはスライム×4、コラット×5を狩って、
小1魔石が6個にダンジョン鉄が3個とまずまずの滑り出しである。
これもお菊が近くにいるモンスターのところまで的確に導いてくれるお陰だ。
おまけに探索者の数や動向も鼻で嗅ぎ分けられるので、
獲物を盗った盗られたという、初心者にありがちな探索者同士のトラブルもまず起きない。
今はお菊が探してくれたモンスターを僕と綾香で代わりばんこに狩っている。
スライムは魔法を使うことで難なく倒すことができる。
しかしこれが物理攻撃になると、スライムの中にある小さな核を壊す必要があるので、
もたもたしていると酸液をかけられたり体に取りつかれたりと、
初心者にとっては割と厄介なモンスターだったりする。
また、コラットにおいては的が小さい上にとてもすばしっこい。
動きもジグザグでたまにフェイントなども使ってくる。
接近を許すとカミツキ攻撃をしてくるので注意が必要だ。
そんなスライムやコラットであるが、僕たちはほぼ一撃で倒している。
綾香にいたっては余裕すぎるのか、鼻歌まで出るしまつだ。
「ねぇキャプテン、小物狩りはもういいやろ。そろそろ3階層に上がってみん?」
「そうだね、今日は壁の鉱石もあまり出てないみたいだし……。うん、このまま3階層に進んでみよう」
「ここの3階層のモンスターは何が出てくると??」
「東京ダンジョンの3階層はいよいよゴブリンが出てくるよ。スライムとコラットも引き続き出てくるんだけど、コラットに関しては集団で来ることもあるから気をつけてね」
「うん、ばってんこのメンバーなら楽勝やないと?」
確かにそうだけど、もたもたしてたら結構な数が集まってきたりするんだよね。
まあ、よほど長くホールに留まらなければ問題ないとは思うんだけど。
「うっし、それじゃあ3階層に上がろう。お菊もいいよな?」
僕たちの前を行っていたお菊は、うしろを振り返ってコクコクと頷いている。
うん、お菊はいつも可愛いな。
3階層へ移動した僕たちはまず出現しているモンスターを確認。
モンスター狩りと、たまに見つかる鉱石の採取を並行しておこなっていく。
モンスター狩りの方は魔石がちょっとだけ大きいゴブリンを中心に狩っていき、
コラットに於いては5匹以上の団体だけを狙っていく。
鉱石採取の方は僕が作成した地図を元に効率よく回れるようお菊に指示を出す。
ここでいう鉱石採取とはダンジョンの壁に浮き出ている鉱石を掘り出す行為のことで、
比較的よく出ているのが魔銅と魔鉄である。
しかし低階層には探索者も多くいるので、この二つの鉱石すらなかなかお目にかかれないのが現状だったりする。
僕たちは階層間をつないでいるメインストリートはなるべく避け、
間道に入ってモンスターを狩りながら鉱石を探していく。
それでも手の届くところにある鉱石は先に採取されてしまうのか、なかなか見つからない。
そこでうちのお菊の出番というわけ。
お菊なら、5~6mはあろうかという壁でも助走をつけて平気で登っていくし、下りる際も鉱石を口にくわえ猫のようにふわりと着地するのだ。
それにお菊は『空間把握』のスキルを持っているので、
なんと、まだ表面に出てきていない鉱石の位置までわかってしまうのだ。
これって凄くない?
まさにチートここに極まれりだよ。
区切りのいいところで僕たちは昼食をとることにした。
今日は近くのスーパーに寄って買ってきた爆弾おむすびだ。
これは僕がいつも夜食用にと買うおむすびで、一般のおむすびと比べるとかなり大きい。
中の具材もシャケ、明太、昆布と3種類入っており食べ応えも十分なのだ。
お菊にはカリカリを少しとささみジャーキーを用意する。
おやつ程度のものだけど、夜も食べさせるのでお昼はこれでOK。
お水は犬用の水筒で休憩のたびに飲ませている。
僕がおむすびのラップを取ろうとしていると、
正面に座りペットボトルの水を飲んでいる綾香が目に入った。
ん、もしかして食べ物は持ってきていないのかな?
じっと見つめる僕の視線に気づいた綾香は、
「あたしのことは気にせんでよかよ。朝ちょっと食べ過ぎたけんお昼は抜こうと思っとったと」
「…………」
「ホントやもん。お腹なんかぜんぜん空いとらんもん!」
「…………」
その時、ぐぐ~~~ と小さな音が綾香のお腹から聞こえてきた。
「こ、これは違うと……」
耳まで真っ赤にしてごまかそうとしている綾香。
「今日は買い過ぎてしまったから一個あげる。食べとかないと後半もたないよ」
「うん、買い過ぎたんならしょーがなかね。家に持って帰っても硬くなるもんね」
大きな口をあけて爆弾おむすびをおいしそうに食べている綾香。
「あっこれ明太子も入っとーやん。あたし明太子すきっちゃんねぇ」
「それは良かった。はい、これチーカマ。いま食べてもいいし途中の休憩で口に入れてもいいと思うよ」
「やったー! さすがキャプテン。用意がよかねー!」
考えたら綾香は今日はひとりで来ていたし、
そんなに長くダンジョンに潜ろうと思っていなかったのかもしれない。
「綾香のそれ、タクティカル・スーツだよね?」
「そうたい。ようしっとーねー」
「オーダーメイドみたいだし高かったんじゃない? ていうか、そのタクティカル・スーツすごく格好いいよね。いったいどこで作ってもらったの?」
このタクティカル・スーツ。絶対エヴァのプラグスーツを意識して作ってあるだろ。
僕はシンジにはなりたくないから別にいらないけどー。
「う~んコレやろう。これ夏休みで家に帰っとーとき、おねーちゃんが勝手に作ってきたと。あとなんか三角形の髪飾りが二つと黒の眼帯が付いとったばってん、何に使うか分からんかったけん実家に置いてきたばい」
『式波アスカじゃん!』
「綾香のお姉さんて結構すごいのな」 いろんな意味で。
「うん! おねーちゃんはすごかよー。1級探索者やけん、大きなモンスターも一撃でやっつけるとばい!」
「へぇ、1級なのか…………って1級!?」
――マジかよ。
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