25. 綾香とダンジョン 1
文化祭も終わった11月中旬、朝晩は肌寒く感じられることも多くなった。
お菊も戻ってきたし、僕らは週末のダンジョン探索を再開することにした。
――江東ポータル改札前大ホール――
ダンジョン探索前の装備点検も終わり、僕は床に座って柔軟運動をやっていた。
最近ようやく股割りができるようになったんだよね。へへへっ。
探索者は無理な姿勢で戦うことも多いから、身体の柔軟性は大切なんだそうだ。
一二、一二、身体が温まってくるまで柔軟運動を繰り返していると、
「あれー、肉丸くんだぁ。こんなところでなんしよっと!」
声のした方を向き、目線を上げていくと、
そこにはタクティカル・スーツに身をつつんだひとりの少女がいて、
ニコニコと屈託のない笑顔をこちらに向けている。
「あれっ、もしかして可藤さん?」
「なんばいよっと、もしかせんでんあたしばい」
「いやいや、それはビックリするでしょう。まさか可藤さんがこんなところに居るなんて、ふつうは思わないよ」
「えへへ、そうやろーねー。ばってんここに肉丸くんがおるっちゃもん、あたしの方こそびっくり仰天ばい!」
びっくり仰天とか、きょうび聞かねー!
本人が言っていたように、やっぱりおばあちゃん子なんだろうな。
お菊はすこし警戒気味なのか、尻尾をゆっくり振って様子を窺っている。
可藤さんは近くまで寄ってくると、しゃがみこんでお菊の頭を撫ではじめた。
「このゴールデンちゃんあいらしかー。なまえは何て言うと?」
「えっ? ああ、お菊だよ」
「へ~、お菊ちゃんかー。あたしは綾香。よろしくね!」
おや、お菊の尻尾を振る速度があがってきたぞ。
可藤さんに対する警戒は解けたみたいだな。
僕は再度、可藤さんがやってきた方向に目を向けた。
しかし、そこにはパーティーメンバーなどの人影は見当たらない。
「ええっと可藤さん? 一緒に行かれる探索者の方は?」
「そげな人おらんよ。ここにはあたし一人で来たっちゃもん」
「はい――っ?」
「なんばそんな驚きよっとよ。肉丸くんだって一人やろーもん」
「まあ、そうだけど。僕にはお菊がいるし、完全に一人というわけではないよ」
「そげん言うんやったら、いっしょに行ったらよかろうもん。肉丸くんも連れがおったほうが楽しかろう」
「…………」
え、ええー、なんですとぉ?
というわけで、めっぽう押しに弱い肉丸くんこと林吉十と、
博多弁バリバリの、ちみっこ爆乳ギャル可藤綾香は、本日一緒にダンジョンへ潜ることとなった。
「そうそう肉丸くん。あのチョコバナナ、チョコのコーティングが分厚くてバリバリうまかったよね」
「ああ、文化祭のやつね? あれは一旦チョコが固まってから、もう一度チョコ鍋にくぐらせていたみたいだよ。贅沢だよねー」
「来年はあたしがテキヤ仕込みの東京カステラ、腹いっぱい食べさせちゃるけん!」
「ハハハッ、可藤さん気が早過ぎるよ」
頭をかきながら可藤さんも僕と一緒に笑っている。
「それと前の食事会で食べたエスカルゴのやつ、もういっぺん食べてみたかー」
「ああ、あれね。エスカルゴのオーブン焼き。シェアして頼んだものだから、一つしか食べられなかったよね。あれってサイゼリヤ通の間では、なかなかの人気商品らしいよ。僕も好きかな」
「寒くなってからでも、またみんなで行ってみたかね」
あれっ?
可藤さんが首からぶら下げているライセンス・カード、僕のと同じだよな。
すると可藤さんもすでに6級探索者ということ?
お菊がいる僕でもかなり大変だったのに……。彼女って凄すぎない?
「ええっと可藤さん、今日は何階層に行くつもりだったの?」
「今日はあたし一人やけん、2階層までやね。やばってん肉丸くんが居るなら……」
「僕は3階層までなら単独でクリアできるけど。可藤さんもそれでいい?」
「うん、それでよかよ。こっちのダンジョンは初めてやけん、今日は肉丸くんの後ろを付いていくばい」
「えっ? じゃあ、これまではどこに潜ってたの?」
「福岡にあるダンジョンたい。うちの家のすぐ側にダンジョンがあるとばい」
「ああ、なるほどね。それで夏休みに福岡でライセンスを取ったんだ」
「そうそう、本籍地も向こうのままやしね」
「ああ、それと……。いや、やっぱりいいや。忘れて」
「なぁんそれ。そげなことされたら気持ちわるかっちゃけど。男ならしゃんと言わんね!」
「あ、うん、そうだよね。ゴメン。聞きたかったことはレベルのことなんだ。相手のレベルを聞くことって、やっぱりマナー違反かなと思い直してさ」
「なぁーん、そげなことね。あたしのレベルは3。夏休み中はお姉ちゃんにバリバリしごかれたけんね。泣こうごとやったばい」
「……すごい。すごいよ可藤さん! 装備も凄いなあと思ってたけど、そのレベルなら納得だよ」
「にゃははは、褒められることは嬉しかばってん、ちょっとこそばゆかねー」
「じゃあこちらも正直に言うね。今の僕のレベルも3だよ。今日はパーティーを組んでくれてありがとう。それから、このまえの食事会で着ていた服、とっても似合ってたよ」
「…………」
しまった! 舞い上がって、つい余計なことを……。
なぜなのか可藤さんは顔を赤くして俯いてしまった。
「あの~可藤さん?」
「も――っ、いきなりなんばいよっとー。あたしも恥ずかしかけん、あんときのことは触れんようにしとったとに」
「あれって地雷系になるんだよね。ほっとけない感がしっかり出ていて、すごく良かったと思うよ。それにあの服ってセットアップの吊り物に見えるけど、完全にオーダーメイドだよね?」
「……なんでオーダーって思ったと?」
「なんでって、それは…………、あっ!」
ついつい、可藤さんの胸に目がいってしまった。
「セ ク ハ ラ !」
「えっ、そんなつもりじゃ……その、ごめんなさい」
「いーや、ゆるされへん。許してほしかったらあたしのこと、これから綾香って呼びんしゃい!」
ん、ゆるされへん??
そうか、『うさぽよ』に出てくる『ねこぴ』の台詞だ。
だけど、今はそれどころじゃない。
「えええ――っ、それは無理だよ。じゃあ可藤って呼び捨てにするとか」
「んーにゃ、綾香って呼ばなここで暴れるけんねぇ」
暴れるって、『だだをこねる』ってことなんだろうか? クスッ!
「じゃあ、綾香……さん?」
「だーめ、ア ヤ カ 男やろーもん!」
「あ、綾香、今日はよろしく」
「うん!」
「準備はよかね? 気合い入れていくばい」
短槍を左手に持ち、ポータル前の自動改札を抜けていく可藤さん。
続いて僕も、お菊をつれて改札を通過した。
ダンジョンに入るために用意されてるポータルは全部で15基。
各ポータルを囲んでいる小さなホールにはパーティー単位で6人までが入れるようになっている。
中には係員の代わりに監視カメラが設置されており、無人になると次のパーティーを誘導しているようだ。
なお、戻ってくる際は別のポータルに転送され、そちらの出口は買取りカウンターに直結されている。
「じゃあ、とりあえずパーティーを組もう」
「了解」
僕と可藤さんはポータル前の転移台座に触れ、まずはグループ化。
パーティー編成が終わったら、次に階層を指定するのだが、
3階層までしか進んでいない僕のウィンドウには、当然【1】としか表示されないので、
そのまま【1】を指定。
【シャッフル転移】を合わせて指定すると、なるべく混んでいないところに飛ばしてくれる親切設計だ。
指定がすべて終わると、ポータル侵入口の色がグレーからライトブルーへと変わる。
僕と綾香は目線を合わせ、お互い頷きあったのちポータルに足を踏み入れた。
ブックマーク×2ありがとうございます。
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最近落ちてきていたモチベーションがググっと上がりました。
これからもよろしくお願いいたします。φ(ΦωΦ )
次回をお楽しみに!




