23. 女の勘は・・・
――佐々木優里――
あれ?
最近、また林の雰囲気が変わった?
格闘技をやってる私にはそれが何となく分かるのだ。
強者が纏う空気というのかな?
でもどうして?
入学当初はあんなへなちょこだったのに、
今はうちのヘッドコーチぐらいはあるわね。
見た目的にはそんなに変わって……、
ん、ちょっと痩せたかな?
冬服のブレザーを着ているから、あまり目立たないけど。
毎日見ている私はごまかせないわよ。フフフッ。
じゃなくって、
やっぱりダンジョンに行ってるせいなのかしら?
もしかしたら、またレベルアップした?
謎は深まるばかりだわ。
あ~、私も早くダンジョンに行ってみたいな。
そういえば、黒まろは元気かしら?
お菊ちゃんの方はたまに林がWi-Fiカメラで見せてくれるんだけど、
黒まろの方は公園に戻されているのよね。
保健所に連れていかれてなければいいけど。
また、林を誘って公園に行ってみようかしら?
林の家にいるお菊ちゃんにも会いたいしね。
………………
それにしても、今日はやけに遅いわね。
私を待たせるなんて、『許されへん』なんだからー。
白ギャルのねこぴちゃん、目がハートでかわいいのよね。(うさぽよ)
『あ、来た! 遅いぞ林!』
あれ、今日は珍しく最上くんと一緒だ。
なに朝から二人でニヤニヤしてるのかな?
いいことでもあった?
んんん、いま挨拶して林が椅子に座ったとき、
いつもと違うソープの匂いがしたわね。
こんなことは初めて。
それに、本人は気づいていないみたいだけど、
襟足がまだ濡れてるわ。
なんで、なんで、なんで!?
まさかホカンスしてきたなんてこと、ありえるの? (ホテルでバカンスの意)
最上くんも一緒に?
確かに、漂う匂いが林と同じだわ!
…………まさか!?
ああ~、ぞろぞろとみんな来ちゃった。
そんなにあっちこっちから話しかけないでよ。
私はいま大事なことを考えているんだからー!
授業中も、
気になる、気になる、気になる!?
林を見ると、にっこり笑って余裕の表情。
あああああ、む か つ く !
こんなに私が悩んでいるのに、人の気も知らないで。
結局、放課後になるまで考えてみたけど、私の中では答えを見つけることができなかった。
まあ断定するには、まだ証拠不十分って感じよね。
放課後は居残りして、みんなで文化祭の準備。
うちのクラスは学園の校門の飾り付けを担当する。
学園の校門ね、校門、校門……、
あ~、お尻がムズムズしてきたじゃない!
これも林のせいだわ。ゆるされへん!
ほらほら、そこのギャル子たちも喋ってばかりいないで作業進めるわよ。
私はボードに下絵を描いてる林の隣に座り込む。
反対側にはミキポラがぴたりとくっついているんですけどー。
あれ、この二人っていつのまにこんな仲良くなったのかしら?
まあ、いいや。 今はBL調査の方が優先事項だから。
それにしても、林って絵を描くのが上手なのね。
私は全然ダメだから、まじ尊敬するわ~。
区切りのいいところまで終わったのか、林が手に持っていたペンを床に置いた。
そして、上着のポケットに手を突っ込んで、なにやらごそごそ。
え、飴ちゃんくれるの?
うんうん、みんなには内緒にする。
金のミルクじゃん、あがるー!
そうね、味がミルキーに似てるかも。
………………
その後しばらく様子を見ていたけど、
最上くんと接触はするものの、対応はいつもと変わりなかった。
そういう仲であれば、僅かなりにも空気が変わるものよね。
どうやら今回は私の取り越し苦労だったみたい。
そうなると気になるのは、ソープの匂いと濡れた襟足。
しばらく泳がせておくしかないわね。
次に匂いが変わったときには、
林の首根っこひっ捕まえてたっぷり尋問してあげるんだからー。
覚悟してなさい!
新宿駅で快速電車に飛び乗った僕たちは、途中乗り換えを挟んで錦糸町駅に到着した。
「吉十、あまり時間がないから急ぐぞ。俺がパンとコーヒーを買ってくるから、おまえは先に着替えてろ。集合は朝預けたコインロッカーのところな」
「了解!」
返事をするなり、僕は荷物を預けたコインロッカーを目指す。
コインロッカーの中から制服が入った紙袋二つを取り出し、近くのトイレに直行した。
『しめた! 個室に一つ空きがあるぞ。ついてるなー』
喜び勇んで個室に飛び込んだはいいんだけど、
~~~プーン~~~
「…………」
くそー、別の意味でついてたな。
誰だよ!
いくら時間がなくったって水洗ボタンぐらい押してけよ!
僕は水洗ボタンをプッシュ。急いで着替えを終わらせた。
トイレを出たところでもなかが待っていたので、
片方の紙袋をもなかに渡し、代わりにパンとコーヒーが入った袋を受け取った。
パンを食べながらコインロッカーのところでもなかを待っていると、
「おい吉十、こっちにも心構えっていうものが要るんだぞ。したならしたって最初から言っておいてくれよなぁ」
ジト目でにらんでくるもなか。
「まあ、それについては後でちゃんと説明するから、急いで登校しよう」
もなかから受け取った紙袋を、開けていたコインロッカーに押し込みカギを回して抜き取った。
「なんだそういうことだったのかよ。そいつは災難だったな」
「ホントだよ。せっかくの最高の気分が台無しだよ」
「それにしてもレナちゃんか……、吉十はついてたな。彼女は割と人気があるから予約なしでは難しいんだぞ」
「へえ、そうだったんだ。その予約っていうのはどうしたらいいの?」
「あー、こいつまた行くつもりだな?」
「い、いや、そんなつもりは…………」
「隠すな、隠すな、それで正解だと思うぞ。風俗嬢なんてあっという間にいなくなるから、ここぞという時は思いっきり楽しんどけ。人気嬢なら特にだな」
『こんど来たときは69しようね。やくそく♡』
レナさん僕は約束を守るよ! にへら~~~
「おい、その顔やめろ! もうすぐ教室だぞ」
――はっ!
僕はパンパンと両手で顔を叩いてから教室の引き戸を開けた。
「おはよう佐々木さん」
「うっす林。今日はゆっくりだったな」
「うん、朝ちょっと用事があって」
「そかそか、……んっ?」
「どうかした?」
「ん~ん、なんでもないし」
『よっしー! よっしー!』
!!!
直接頭に語りかけてくるこの感じは……。
――念話だ。
でも、いったい誰が? よっしーとは僕のことなんだろうか?
授業中なので教科書で顔を隠し、周囲をゆっくり見渡してみる。
すると、斜め後ろの席にいるクウディーさんとバッチリ目が合ってしまった。
わぁーお!!
僕は静かに正面へと向き直る。
『お、通じた! やはりフレンドリッチの絆は深いのだな』
『…………』
し、しまった―――っ!
この呼びかけに気づいてはいけなかったんだ。
家の片隅にいる浮遊霊のように、
気づかないふりして、そっとしておくべきだったんだー。
『よっしー。なぜ今日はいつもより遅かった?』
『…………』
『んん、このわずかに漂う精のにおいは……。わかったぞ! よっしーも若いということだな。たまには発散もしたかろう。だが私はだめだぞ。私にはマスターがいる。いくら友達だからと言っても身体は貸せないからな』
『…………』
いやいや、友達にそこまで求めていないから。
それに僕らの行動ってそんなに分かりやすかったの?
ド平日の朝というのはやはり無謀だったか?
すると、佐々木さんにもバレている可能性が……あるの?
――ゴクリ。
チラッと横を見ると、佐々木さんもこちらを見ていた。
う、ここで動揺してはいけない。
涼しい顔をして乗りきるんだ。スマイル、スマイル。
お読み頂きましてありがとうございます。
次回をお楽しみに!




