21. ホワイトデビル
――森林エリア――
いつもの洞窟エリアだとばかり思っていた僕は、あまりのことに度肝を抜かれた。
というのも当然で、森林エリアは11階層以降でしか出現しないフィールドだからだ。
「おいおい、ここって何階層になるんだよ?」
『かんたん、まかせて、あーし、いちげき、ぱぱかつ、ごほうび』
ふんふん、なるほど、わからん。
まあ、犬だからね。
若干、気になるワードもあったけど、今はスルーしておこう。
草木が生い茂った森の中を軽快に進んでいくお菊。
う~ん、どうする?
一旦部屋まで戻って、今の状況をお菊からいろいろと聞き出してもいいけど……。
ダンジョンは10階層を越えると難易度が鬼のように跳ね上がると言われている。
最初のボスが現れる5階層ですらクリアしていない僕が、おいそれと足を踏み入れていい場所ではないのだ。
しばらく進んだところでお菊の動きがピタリと止まった。
「お菊、どうした? おしっこか?」
『きた、えもの、あーし、みてて、よしと、ごほうび』
ん、何か来てるのか?
「…………」
おい、ちょっと待て!
まさか、こんなところで迎え撃つつもりか?
お菊は犬目線だからわからないだろうが、
こんな狭い獣道では回避行動すら制限されてしまうぞ。
「お菊、ここはまずい。すこし開けた戦いやすい場所に案内できるか?」
『りょ!』
僕とお菊は素早く移動し、木々の少ない足場の良い場所を確保した。
ドドドドドドドッ!!
ドドドドドドドッ!!
地を揺るがす様な振動が次第にこちらへと近づいてくる。それも複数体いるようだ。
おお、来てるよ来てるよ。
これってやっぱり奴なんだろうか?
僕はすくみそうになる足に拳でガツンと喝を入れ、お菊に指示を出した。
「お菊、落ち着いて行くぞ。全周囲警戒だ。前ばかりに気を取られるな」
「わふっ!」
「よしよし、いい子だ。開幕魔法はお菊に任せるから、派手なやつをひとつキメてくれ。次に僕が魔法を放つから、それを見てから敵に追い打ちをかける。後は念話で指示を出していくからそれに従ってくれ」
「わふっ!」
しばらくすると、木々の間から一体、また一体と現れる豚鼻のモンスター。
難易度が跳ね上がる要因となっているモンスター、『オーク』の登場である。
現れたオークは全部で三体。
接敵距離はおよそ50メートル。
あまり目が良くないのか、鼻でにおいを嗅ぎつつ、きょろきょろと周囲を見まわしている。
『あれがオークか。めちゃくちゃデカくね?』
うちは両国に近いから、お相撲さんはよく見かけるけど……。
そのお相撲さんをもはるかに凌ぐ筋骨隆々な体。
タッパも優に2メートルは超えているだろう。
そして、『オークならコレでしょう!』と言わんばかりに、
手にはぶっといこん棒が握られている。
あれを頭にくらえば、割れたザクロのようにされて即死だろうね。
「ブ、ブギ――――ッ!!!」
においを嗅いでいたオークの一体がこちらを指差し雄たけびを上げた。
やっと僕たちに気付いたみたいだ。
先頭のオークがこん棒を振り上げ、こちらに向かって走り出した。
それに続けとばかりに、後にいたオーク二体も追従を始める。
猛然と迫りくる三体のオーク。
「お菊、準備はいいか? ガツンと一発頼むぞ!」
「わふっ!」
お菊が返事をした次の瞬間、
シュッ! ドゥ―――――――ン!
お菊の魔法を喰らった三体のオークは、上空をくるくる回りながら後方へ飛ばされていく。
まるでオオカミに吹き飛ばされた子ぶたのようだ。
そして、地面に叩きつけられたオーク共はそのまま煙となって消えていく。
HPを削られたオークが魔石へと変わったのだ。
「…………」
ちょっとー、うちのお菊ちゃんって凄くない!
今の魔法は『エアハンマー』だったのかな?
いつのまに覚えたんだよ?
隣のお菊を見れば、尻尾をブンブン振ってドヤ顔だ。
『みた、あーし、ほめて、よしと、すごい、おやつ』
盛大に褒めてあげたいけど、ここはダンジョンの中。
気を緩めるわけにはいかない。
僕はお菊の頭を二度ほどなでて、オークが消えた場所に向かって歩き出した。
その後は散発するオークを僕のドリルで次々と撃破していった。
『僕のドリルもなかなかのもんじゃない』
そんなことを考え、油断もあったと思う。
突然、
横の茂みから僕めがけて一直線に白い閃光が走った。
ダメだ、躱しきれない!
僕は目をつぶって身構える。
――ドドーン!!
「……???」
あれ、どこも痛くないぞ?
僕が恐る恐る目を開けると、目の前にはなぜか黒まろがいて、
3メートルほど先に大きな白いうさぎが舌を出して転がっていた。
額には大小二本の角が生えている。
こ、これって『ホワイトデビル』!?
正式名称、ダブルホーンアサシンラビット。
このでっかい図体の割に俊敏で、おまけに気配を消すのが上手ときている。
ベテラン探索者でも感知するのが難しく、初見殺しなモンスターであることから、
探索者の間ではホワイトデビルと呼ばれ恐れられていた。
とは言え、攻撃力はそれほど高くないので盾があれば防げるし、
体が大きいので、隠れる茂みもおのずと限定することができるはずだ。
僕の場合はスキルもあるので、感知が早ければかわすこと自体そんなに難しいことではない。
「黒まろだよね? 助けてくれてありがとう。本当に命拾いしたよ」
『バカ?、ゆだん、しぬぞ、こぞう、アホ、なさけな』
「…………」
黒まろが居たことにもビックリだけど、
初めて交わした念話だというのに、ちょっと辛辣すぎない?
バカだのアホだの、人のことを好き勝手に言いやがって。くっそー。
でも、助けてもらってる手前なにも言い返せない。
『おきく、かりるぞ、ちょっと、こぞう、まってろ、いいな』
「は、はい! どうぞごゆっくり!」
ちょ、黒まろ!?
犬なので分かりづらいけど、すごい剣幕だ。
まじ怖えよ。(汗)
お菊は少し先に呼び出されて、どうやら説教されているみたいだ。
「クゥ~ン」とか、「キャイーン」とか、ここまで聞こえてくる。
相当しぼられているようだ。
あとでお菊に聞いてみたところ、
『こわい、こわい、ぱぱ、こわい、あーし、はんせい』
『こわい、こわい、ぱぱ、こわい、あーし、はんせい』
これをオウムみたいに繰り返すばかりだった。
パパカツの相手は黒まろなんだろうなぁと、察しはついていたけど。
もしかしたら、本当に親子なのかもしれない。
若干危うい場面もあったけど、当初の予定どおり40分程で我が家のリビングに戻ってきた。
そう、これはお菊の散歩であることを忘れてはならない。
これからは雨が降っても雪が降っても、はたまた台風が来ていても、
お菊を散歩に連れていってあげられるのだ。
こんなに嬉しいことはない。
窓の外を眺めながら、しょんぼりしているお菊を見るのは忍びないからね。
僕が学園に行っている間も、黒まろや五郎おじさんのところの犬たちが一緒ならダンジョンに潜っても良いということにした。
それから、僕の今のステータスがこちら、(前回の表示は14話です)
ヨシト・ハヤシ Lv.3
年齢 16
状態 通常
【従魔】 オキク(*****)
HP 21/21
MP 30/10 +20(魔力の指輪)
筋力 12
防御 10
魔防 9
敏捷 10
器用 11
知力 11
【特殊スキル】 時空間魔法(U)状態異常耐性
【スキル】 魔法適性(風・土)魔力操作(3)
アクセル 瞬間移動 念話
【魔法】 土魔法(2)
【称号】 チビデブ、契約者、
【加護】 聖獣
吉十のステータス成長費
→ Lv.3
HP 21 +4
MP 10 +3
筋力 12 +3
防御 10 +3
魔防 9 +3
敏捷 10 +3
器用 11 +2
知力 11 +3
比べる対象がないので分からないと思いますが、
吉十は『聖獣の加護』、そして『お菊』の存在で、とんでもない成長を続けております。
加護や祝福をもたない一般探索者の場合、
レベルアップによって上昇するステータスはHP+1、MP+1。
身体能力の方はどれか一つ、あるいは二つの項目の数値が+1上昇する程度です。
お読み頂きましてありがとうございます。
次回をお楽しみに!




