19. 最終奥義はやめて!
――レベルアップ――
なぜ、レベルアップをしたのか? 原因の方はおいおい調べていくとして。
予期せずに、僕の身体レベルは3に上がってしまった。
す、凄いぞ!
体の芯から湧き上がってくるような力と魔力。
そして、この震えるような高揚感は何なの?
まあ、これが噂に聞くレベルアップ酔いというものなんだろうけど、
これはちょっとやばいかも。
授業中だというのに感情が抑えられなくなりそうだ。
こんな時ってどうしたらいいんだ?
今にも震えだしそうな膝を両手で押さえつけながら、僕は必死で考えを巡らしていた。
そうだ! 心を落ちつけるために素数を頭の中で暗唱するんだ!
それじゃあ、いくぞ、
2 3 5 7 11 13 17 19 23 29 31 37 41…………
よしよし、だいぶ落ち着いてきたぞ。
あと少しだ。
じゃあ、今度はちょっとひねりを加えて、素数を読みながら「3」がつくところだけ変顔にしてみよう。
(吉十は精神が高揚するあまり、まともな思考ができなくなっていた)
よーし、
2 3 5 7 11 13 17 19 23 29 31 37 41…………
すると、教壇に立っていた現国を教えている佐藤先生が、(男性)
「おおーい林。そんな妙な顔をするほど、私の授業は分かり辛らかったか?」
「へっ、あ、違います。どうもすいませんでした!」
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン……
「お、時間だな。今日はここまで!」
ふう、助かった~。
帰りのホームルームが終わると、クラスのみんなは、
帰宅する者、部活に行く者、残って図書室で勉強する者などに別れそれぞれに散っていく。
そんな中、僕も帰ろうと廊下へ出たところが、
その行く手を阻み、一人の女子生徒が僕に声をかけてきた。
「林、ちょっといいかな?」
「え、ぼ……僕になにか用?」
声が上ずってしまったのも仕方がない。
僕が今対面している相手は、銀髪褐色肌のミキ・ポーラ・クウディーさんだったからだ。
「時間は取らせない。私について来てくれ」
クウディーさんからは何だか圧みたいなものを感じる。
たとえ断ったとしても、『はい、そうですか』と素直に帰してはくれないだろう。
今日は洗濯もあって早く帰りたかったが、しかたない。
彼女の目を見て僕がうなずくと、クウディーさんは先導するように前を歩き出した。
連れてこられたのは、階段を下りて2階にある特別教室。
特別教室というのは、大型プロジェクターや音響設備が整えられた、小学校でいうところの視聴覚教室のような部屋である。
文化祭の時には、バンドを組んだ生徒たちがここで演奏を披露したりするそうなんだけど、僕が入るのは今日が初めてだ。
「急に呼びとめてすまない。まあ、座ってくれ」
クウディーさんは教室奥に置いてある折り畳み椅子を2つ取り出すと、その片方を僕に渡してきた。
えっ、座ってするような話?
どうやら愛の告白ではなかったみたいだ。
まあ、そんな雰囲気でもなかったしね。
すると話って何だろう?
渡された椅子をクウディーさんから1.5メートル程あけて置き、僕は向かい合うように座った。
「では、単刀直入に尋ねるが、林は探索者だったよな?」
「…………」
「どうかしたか? 私の言葉はどこかおかしかったか?」
「あ、いや、ごめん。すごく流ちょうに日本語を話すから、その……驚いてしまって」
「そうか、コレのことはまだ聞いていないのだな」(小声)
クウディーさんは自分の耳を手でつまみながら何か呟いている。
「えっ?」
「いや、何でもない。それよりも先ほどの質問なんだが……」
「そうだよ。僕は夏休みに探索者になっているけど、それがどうかした?」
「では、一般探索者がダンジョン以外でのスキルの使用に制限があることも?」
「もちろん知ってるよ」
「ならば先ほどの授業のとき、林から大量の魔力が溢れ出ていたのは何故だ?」
「あ、あれは、その……。ちょっと今は言えないかな。でも、決してスキルの発動でないことは誓うよ」
まさか、『授業中にレベルアップして、素数を数えながら変顔してました』なんて言えるはずがない。
あれはレベルアップ酔いが完全にキマっていたからできた芸当なのだ。
「へえ、そうなのか。じゃあ、もし嘘だったら私からのお願いを一つ聞いてもらおうかな」
「ええー!? まあ、嘘はついていないからそれでもいいけど。こちらからもひとつ質問していいかな?」
「私に答えられることなら」
「キミって何者?」
今の話からすると、僕から漏れ出ていた魔力をクウディーさんは感知できたということになるよね。
これって普通の人間じゃできないでしょ。
「それは私も今は答えられない。留学生だと言い張ることもできるが、すぐにボロが出そうだしな」
「それで、あまりしゃべらないのか……。なんか大変そうだね」
クウディーさんは足を組み替えながら、小さくうなずいた。
おっふう。いまチラリと赤いものが見えたぞ。
それに、このすらっと伸びた長い脚。
ワザとか? ワザと見せつけているのか?(ゴクリ)
「それから私は林の敵ではない。もちろん対立しようとも思っていない」
「…………」
それってどういう意味よ? なんて解釈すればいいの?
「今日も万一に備え、事故等が起きないよう注意を促そうとあなたを呼び出したまで。おかげで私の存在に疑問をもたれてしまったけれど……。できることなら、この事は林の中だけに留めておいてほしい」
他の者には黙っていろということか……。
得体の知れないクウディーさんだけど、
佐々木さんの友だちでもあるし、実直そうな感じで、嘘をついてるようにも見えないんだよね。
「うん、わかった。クウディーさんもいろいろ大変そうだし、僕にできることがあったら何でも言ってね」
「それは本当か? こちらこそよろしく頼む!」
そう言ってクウディーさんが椅子から立ち上がったので、僕も続いて立ち上がろうとしていると、
「ああ、ちょっと待ってくれ。林はもう少しそのままでいてくれるとありがたい!」
――???――
ん、まだ何かあるの?
クウディーさんは座っている僕の目の前まで来ると、
「しばらくの間、目を閉じていてもらってもいいか?」
「あー、はいはい」
言われるがまま、座った状態で僕が目を閉じていると、
――パシッ!
「痛つ!」
額に軽く痛みが走った。
デコピンされた!?
僕が驚いて目を開けると、
クウディーさんは左手の人差し指を突き出したまま、満足そうに笑みを浮かべてこう言った。
「フレンドリーッチ!!」
「…………はあ?」
僕は呆けたまま、痛みが残るおでこを手でさすった。
すると、コロロンと床に転げていったのは1円玉だった。
1円玉!?
それに今、フレンドリッチって言わなかったか?
それってまさか、おぼっちゃまくんの?
『一円をあなどる者は一円に泣く、真の友達は1円でよろこぶ』
「フレンドリッチ。これこそが、この国一番の友達の証。マスターもそう言っていた」
クウディーさんは得意げにそうのたまう。
「…………」
そのマスターって誰だよ!?
外国人に適当なこと教えてんじゃないよ!
「まだ足りないと言うなら、とっておきの最終奥義もあるが……」
「…………!!!」
それって絶対『ともだ○んこ!』のことだよね?
でも、クウディーさんは女性だから無理があるでしょう。
なんで? なんで僕の股間をそんなに凝視しているの?
「…………!!!」
だから、手をにぎにぎするのはやめてー!
僕は脱兎の如く特別教室から逃げ出していた。
今回、ギャグ要素が多めになりました。
すみません。(#^^#)
次回をお楽しみに!




