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世界一嫌いな女が義妹になった〜ひとつ屋根の下での共依存関係〜  作者: 宮野ひの


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第6話 付き合っていない二人がキスをしてもいいんだ。





《中学2年生・秋》



 中学生って、小学生の延長線でできていると思っていた。だけど、全然違った。


 心も身体も知らない間に成長している。


 晩御飯の時間にアニメを見ているだけで子どもっぽいと言われたり、カラフルな服を着ているとダサいと言われたりする。


 小学生の時は、みんな似たような体型をしていたのに、女の子はふっくらと、男の子はがっちりって言うのかな。性別を意識するような見た目になった。


 会話の中でも、大人が使うような言葉を耳にする機会も増えていった。


「隣のクラスの野々(ののむら)柴田(しばた)ってDキスしたらしいよ」


「えー、マジ? ヤバっ。いつ?」


「わかんない! けど、部活の後だって。しかも場所は学校!」


「きゃー。変態じゃん! 後で、教室覗いてみるぅ?」


 クラスメートの女子二人が、机を囲んでこそこそ話しているのが目に入った。

 頬は赤く、目がギラギラしていた。


「——ねぇ。Dキスって何?」


「うわっ。関内さん! 聞いてたの?」


 二人が驚いたような顔をして、私を見た。だけど、完全に除外するような空気感はない。

 むしろ仲間を得たように瞳の輝きが増していた。


「そんなことも知らないんだー。おいで。教えてあげる」


「ありがとう」


 近くにあった椅子を引き寄せて、二人の仲間に加わった。


 えっと。確か、ポニーテールなのが井上(いのうえ)さん。ボブで眼鏡をかけているのが平澤(ひらさわ)さんだよね。

 二人の下の名前については、すぐに思い出すことができなかった。


 先ほどよりも声をひそめて、二人は私に丁寧にDキスの説明をしてくれた。


 えっ。そんなものが……この世にあったんだ。

 驚きの連続だった。


 想像してみるけど、上手く頭に浮かばなかった。


 だけど、井上さんと平澤さんは、野々村さんと柴田さんを非難しながらも、羨ましそうにしていたのが印象的だった。


 本当に興味がないなら、話題にも上がらないだろう。


「だけど、野々村と柴田って付き合ってないらしいんだよねー」


「えっ」


「驚きだよね。Dキスまでしてるのに。意味わからんー」


「美男美女でお似合いなのにね」


「それなー」


 二人はきゃあきゃあと楽しそうに話している。私も輪に加わりたいのに、乾いた相槌や、ぼんやりと眺めていることしかできなかった。


 最初は声をひそめて喋っていたけど、どんどんとボリュームが大きくなる。

 近くの席で読書をしていた男子に睨まれてしまった。


 ——でも、付き合っていない二人がキスをしてもいいんだ。私の中では大発見だった。


 学年でも目立つ野々村さんと柴田さんが、そういうことをしていると、流行の先をいっているように思えた。


 私は頬杖をつきながら、二人の話をぼーっと聞いていた。Dキスの話から、深夜アニメの話題に移ると、もうお手上げで、さらに置いてけぼりを食らう羽目になった。


「風香ー。おはようー!」


「まーちゃん!」


 後ろから声をかけられた。その相手がすぐにわかって、心が弾んだ。楠木麻樹(くすのきまじゅ)だ。


 クラスで一番仲が良くて、いつも一緒に行動している女の子。

 彼女は学校に来るのが結構遅くて、朝の20分間、私はいつも手持ち無沙汰になる。


「いのちゃんと、ゆずもおはようー!」


「おはおはー!」


「麻樹ちゃん、今日も元気だねー」


 まーちゃんは、井上さんと平澤さんにも笑顔で挨拶をした。彼女は明るくて、みんなに優しい。多くのクラスメートに好かれている……かも。


 私もまーちゃんに憧れて、できるだけ一人にならず、多くの人と関わるようにしている。だけど、なんとなくクラスメートとの間にズレみたいなものを感じる。


 まーちゃんに相談すると、考えすぎといつも言われる。彼女にアドバイスを受けて、優しくされると、安心できる自分がいた。


「ってか、風香。宿題のプリントやった? わたしも昨日、書いたんだけどさー。自信ないから……お願い! 見せてくれない?」


「いいよ!」


「やったー。さすが、風香様!」


 まーちゃんは親指を立てて笑った。

 その様子を、井上さんと平澤さんが、じっと見ていた。


 私たちはさっそく、自分たちの席に移動をして、数学のプリントの見せ合いっこをした。


「——って、まーちゃん。全然間違ってないよ! むしろ、私の方が、数式間違えているし! ここ直していい?」


「いいよ! ぜーんぜん、まぐれだよっ。風香の方が頭いいじゃん! これからもさ、ずっと頼りにしてるよん」


 まーちゃんは私の扱いが天才的だ。いつも気分よくさせてくれる。


 まーちゃんは謙遜しているけど、記憶力が高いことを私は知っていた。クラスメートの誕生日を全員分、覚えているんだもん。


 記憶喪失にでもならない限り、彼女が忘れっぽくなることはないだろう。


「——それでさ。勉強頑張ってさ、一緒に誉山(ほまれやま)高校に入ろうね!」


「……うん!」


 私たちは顔を見合わせて、一つになって笑い合った。


 そうなのだ。まーちゃんと私は、同じ高校に入学することを目指していた。


 誉山高校は県内においても偏差値が高い。制服もチェック柄のリボンが可愛いと評判が良かった。私たちにとって、憧れの高校になっていた。


 休日は、まーちゃんと二人で会って勉強をすることもある。彼女とは気が合うし、一緒にいてすごく楽しい。切磋琢磨できる友達がいるって、私は本当に恵まれていると思う。


「麻樹ちゃんと関内さんって本当に仲が良いよね」


 そんなコソコソ話が、また耳に届いてきた。井上さんと平澤さんだった。


 そうでしょと心の中で相槌を打つ。私とまーちゃんは相性抜群。ニコイチ。いや世界最強のペアなのだ!


「麻樹ー!」


 その時、群青(ぐんじょう)リリアが私たちの前に現れた。女子力高めのギャル。長い髪を緩く巻いていて、制服もオシャレに着崩している。


「あー。リリア!」


 まーちゃんが呑気そうに答えた。


「何してんの? あっ。もしかして宿題?」


「うん。そう! リリアはちゃんとしてきた?」


「てへっ。忘れてた! 海外ドラマを見るので忙しかったんだもーん」


「ダメダメじゃん。わたしの写させてあげようか?」


「わぁ。いいの? 麻樹、太っ腹ー。ありがとうー。大好き!」


 群青さんが、まーちゃんに抱きついた。ギュッと優しく愛おしそうに。まーちゃんは鬱陶しそうに、彼女を剥がそうとしていた。


 私はその光景を一人見つめて、ちくりと胸が痛んだ。

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