表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界一嫌いな女が義妹になった〜ひとつ屋根の下での共依存関係〜  作者: 宮野ひの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/18

第4話 結婚指輪

「薬指だ」


「えっ?」


「風香が噛んだところ」


「はぁ」


「なんか、歯型が指輪みたいになってるね」


 確かに。麻樹の言う通り、ギザギザの痕が指輪を付けているようにも見えなくなかった。


 いやいや。今そんなこと感心している場合じゃないから。


「——謝らないから。勝手に口の中に手、入れないでよ」


「別に良いよ。謝罪なんか求めてないもん。風香が噛みたいから噛んだんでしょ? 責めないって」


 なんか話が噛み合っていない。っていうか、私が悪いみたいになってない!?


 本当にムカつく。


「ねぇ。風香の指も噛んでいい?」


「どうして、そういう思考になったの?」


「なんか、わたしの指だけ、結婚指輪があるのって悲しいじゃん。風香の指にもあった方が、わたしとしても嬉しいし」


「馬鹿じゃないの? 気持ち悪いって」


「……」


 泣くかなと思った。さっきから私は麻樹に敵意がむき出しだ。


 気持ち悪いという言葉は強力だ。存在を否定する力を持っている。その言葉を私は自分の意思を持って、麻樹に使った。


「——もっと言ってよ。風香が思っていること、全部ここでぶちまけてよ」


「……」


 今度は私が黙る番だった。彼女はちっとも怯えていない。堂々とした態度で私と向き合っている。


 麻樹に言いたいことか。


 例えば、私の前から消えてよ。義妹になんかならないでよ。

 私の知らない場所で知らないままに生きていてよ。私の人生に踏み込んでこないでよ。


 なんて言ったら、悲しむだろうか。


 目の前にいる相手に罵倒できるほどの強い精神力は、私には持ち合わせていなかった。傷つけることは十分にわかっているから。


「何も言いたいことなんてないよ」


 軽くはぐらかしたけど、麻樹は何も突っ込んではこなかった。


 もう今度こそ、私が予備室にいる理由はない。立ち上がって、入り口に向かう。

 ドアを開けて、最後に一度だけ、彼女に視線を向けた。


 驚いた。麻樹が泣いていたからだった。透明な雫が、赤い頬の上を伝っていく。泣き真似とは到底思えなかった。


 先ほどの、私の目から流れ落ちたものとは、明らかに毛色が違っていた。


 純粋に綺麗だと思ってしまった。かける言葉が何もない。


 私は、そのまま予備室を出て、2階にある自分の部屋に向かった。

 ドアを閉めた時、安堵の声が漏れた。そのまま扉にもたれかかるように座ると、心臓がバクバクいっているのが体の振動でわかった。


 私と麻樹は中学の頃は友達——いや親友だった。いつも一緒にいた。しかし、あることをきっかけに、疎遠になってしまった。

私からすればもう二度と会いたくない人だった。


 それなのに、なんの因果か、麻樹と名字を重ねることになった。これから、一つ屋根の下、共に生活を送らなくてはならない。


 仲違いする前だったら、嬉しくて仕方なかったことだろう。だけど、今の私からすると、覚めない悪夢を見ているかのようだった。


 誰か私を救ってほしい。

 何の信仰もしていないのに、いるかわからない神にすがるほど、私は弱気になってしまっていた。





 部屋の中にある段ボールを、荷解きをしていると、少し気持ちが落ち着いた。服、勉強道具、画材などを定位置となる場所に置いていく。


 黙々と一つの作業に没頭していると、現実逃避できて、良いリフレッシュになる。何もしないでウジウジ落ち込んでいる方が、自分で自分をネガティブな感情に引きずり込んでしまう。長年の経験から私が知っていたことだった。


 でも疲れたな。ちょっと休憩しようかな。

 机の前にある椅子に腰を下ろした、その時だった。


 ——ピーンポーン。


 玄関のチャイムが鳴った。


 最初、お母さんと茂雄さんが帰ってきたのかなと思ったけど、待てど暮らせど、誰も家に入ってくる気配がない。あれー。


 宅配便かなぁ。


 不思議に思った私は、1階に行き、インターホンを覗いてみた。


『関内ー。いるー? やっほー。遊びに来たよー』


屋敷(やしき)!?」


 モニターに映っていたのは、高校の友達の屋敷姫萌(やしきひめも)だった。小麦色に焼けた肌に、八重歯がキラリと光っている。


 お母さんが再婚するにあたって引っ越すことを、あらかじめ彼女にだけは伝えていた。前のアパートよりも、家同士がグッと近くなったことを、二人で喜びあった。


「ちょっと待っててー」


 でも今日来るなんて聞いてない!

 屋敷は明るく元気で、猪突猛進なところがある。思い立ったら、すぐ行動に移す子だ。

 さっそく送った住所を頼りに来たのかな? もー、あまのじゃくで憎めないんだから。


 玄関のドアを開けると、白い袋を持った屋敷がニコニコ顔で立っていた。


「ハロー。関内おつかれー! これ、引っ越し蕎麦なんだ! 良かったら、みなさんで美味しく食べてー」


「わー。ありがとう!」


 彼女の好意をありがたく受け取った。


「その蕎麦さー、ネット界隈でも話題のブランドなんだ! 実際、ウチも食べたけど、ほっぺた落ちそうになったよー。てか、落ちた!」


「あはっ。本当? ほっぺたの再生早すぎるでしょ。楽しみだなー」


 屋敷は無邪気でかわいい。突然の訪問には驚いたけど、癒されたのも事実だ。


 ショートカットのてっぺんに寝癖が付いていたので、寝起きかなとも予想してみる。


「えっと、立ち話もなんだからさ。家に上がっていく?」


「わーい。実は中めちゃくちゃ見たかったんだー。お邪魔しまーす」


 屋敷はサンダルを脱ぎ捨てて、うちに上がった。粗品を貰った手前、そのまま返すのは気が引けたのだ。

 ……ここは、私の家でもあるから別に良いよね?


 屋敷をリビングに通して、先ほどまで私が座っていたテーブルの椅子に座らせた。

 引っ越し蕎麦は乾麺ということで、そのままキッチンカウンターの上に置いておいた。


「ごめん。今、水しかないや」


 冷蔵庫を開けてみたけど、空っぽだった。これじゃ、客人をもてなすことができない。


「大丈夫! ウチ水、大好きだから!」


 屋敷が手を挙げてアピールをする。何それ。おかしくて、少し笑ってしまった。

 そしたら彼女も、つられるように頬を緩ませた。


 二つのガラスのコップに水を注ぎ、テーブルに持って行こうとした。氷もないけど、大丈夫かな。


 そーっとこぼさないように、足を忍ばせる。顔を上げたら、なんと——目の前に麻樹がいた。

 音もなく、突然だったから、思わず「わっ」と声が出てしまった。


「……ねぇ。この子、誰?」


 麻樹が屋敷を指さした。眉をひそめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ