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世界一嫌いな女が義妹になった〜ひとつ屋根の下での共依存関係〜  作者: 宮野ひの


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第35話 美しい関係





 中学の同級生とは、まったく連絡を取っていなかった。そもそも麻樹以外に、親しい人なんていなかったから当然だ。


 SNSもかろうじてアカウントはあるけど、屋敷としか繋がっていなかった。


 麻樹に三石先生と群青さんのキス写真を送ってから数日。

 彼女は部屋にこもることが多くなった。


 心配になったけど、顔を合わせると、麻樹の肌ツヤはいつも良かった。私を前にしても、多くを語らない。


 そういえば中学の頃、私に必要以上に踏み込まない、どこか無関心そうなところに惹かれていたことを、今になって思い出した。





 高校でのお昼休み。いつものように屋敷と教室でお弁当を食べていた時のことだった。


 その日は冬にもかかわらず、とても天気が良かった。口の中に入れた、プチトマトがやけにぬるかったのを覚えている。


 屋敷は、早々にお弁当を食べ終えて、自作の枕を机の上に敷いて、スヤスヤと寝ていた。


 私もお弁当を食べながら、スマホを片手にネットサーフィンをしていた。

 手持ち無沙汰だったので、久しぶりにインステを開いてみた。

 インステとは、画像や動画を中心に投稿ができるSNSサービスのことだ。


「えっ。どうして……」


 目を丸くした。


 だって、おすすめの一番上に出てきたのが——三石先生と群青さんのキス写真だったからだ。


 いいね数は1,000を超えていた。


 コメント欄を急いで覗いてみる。


『うわー。ここ図書館? 生々しいー』


『これ春一中学校(はるいちちゅうがっこう)三石元太(みついしげんた)じゃね?』


『不倫野郎。制裁を受けろ』


 心無いコメントばかりだった。


 恐るおそる、いいねをしていたユーザーを見てみると、かつて中学校の時の同級生が何人も出てきた。


 私はいてもたってもいられなくて、すぐに麻樹に連絡を取った。


『今、インステ見たんだけど、キス写真を載せたのって麻樹?』


 返信はすぐに返ってきた。


『初ライムだね。嬉しい』


 まるで話が噛み合っていなかった。


 私はお昼寝をしている屋敷をよそに、教室を出た。

 人がいない階段脇まで来て、ライムを通じて麻樹に電話をかけると、すぐにつながった。


『——風香。どうしたの? 初通話だね。嬉しい』


 彼女の声は、弾んでいた。


「あのさ。インステのことなんだけど……』


『あっ。見た!? 大成功だよ』


 麻樹はスマホの向こうで、くすくすと笑った。


『今ね、リリアは高校でハブられてて、ミツセンは自宅療養中……で、処分を検討されているらしいよ』


 耳の奥で彼女の声が反響した。

 背筋が冷たくなる。


『これってさ、因果応報ってやつだよね。わたしと風香の間に入った罰だよ!』


「——えっ。それは違くない?」


 思わず止めてしまった。


『……ど、どうして?』


 麻樹の声が上擦った。


「……中学の時、私たちが仲違いしたのは、私が無理やり麻樹に迫ったからだよ。三石先生と群青さんは間になんて入ってない……」


 何故、そんなことを言ってしまったのだろう。


 まるで優等生っぽい、きれいすぎる答えだった。


『そ、そうだったかな』


 案の定、麻樹は動揺しているように見えた。


 多分、目の前で暴走している人がいると、必要以上に自分が冷静になれる現象が起こっているのだと思う。


「きれいなストーリーにしなくていいよ」


 私は麻樹をダシにして、一人、気持ちよくなっていた。


『……わかった』


 スマホから聞こえる彼女の声は、か細かった。


「そもそも私たちは、人様に言えるような、もうきれいな関係にはなれないよ」


 あぁ。まただ。

 私は麻樹にすがって甘えている。


 まるで、子どもが母親に反抗しているかのようだった。

 突き放さないのを期待して、酷い対応を取っている。


 でも、止められない。


『それでも良いと思えたら、どうする?』


「……」


『すべてを引っくるめて受け入れられたら、もうそれは美しい関係だと思えない?』


「麻樹……」


『今日は早く帰ってきてね。何も予定ないでしょ?』


「うん……」


 通話はそこで切れた。


 今さらながら息が乱れていることに気づいた。そっと胸に手を当てる。


 私は麻樹がとても愛おしかった。





「……ただいま。……あれ?」


 家に帰ると、鍵はすでに開いていた。だからもう麻樹が中にいるのかと思った。


 だけど、彼女の名前を呼んでも出てこない。

 リビングに入ったけど、誰もいなかった。


 思い切って、麻樹の部屋のドアをノックした。乾いた音だけが響き、中からは気配がなかった。


 誰もいないのに、家の鍵が開いていたというのはおかしい。


 ……。


 うーん。とりあえず、喉が渇いたから、何か飲みたい。


 私は洗面所で手を洗った後、リビングに戻り、コップに水を注いだ。


 勢いよく、飲み干して、喉を潤した。


 ——その時だった。


「んぐっ」


「風香、おかえり」


 背後から麻樹の声が聞こえて、気づいたら、抱きしめられていることに気づいた。 

 背が高い彼女の腕の中に、すっぽり収まってしまう。


「ゲホゲホ」


 あまりにも急だったから、むせてしまった。


 麻樹は気にせず、私の首元を触った。まるで猫をあやすかのような手触りに、鳥肌が立つ。


 どうやら水が気管に入ったようで、喉が焼けるように痛かった。ゲホゲホと乾いた咳が出続けた。


「離して……」


 麻樹の腕を押し除けようとした。——けど、ビクともしない。


 抗議のつもりで後ろを振り向いたら、麻樹の顔が近くにあった。


 咳は止まらなかった。飛沫が彼女の顔にかかってしまった。


 謝ろうとしたけど、麻樹のご満悦な表情を見て、言葉は喉の奥に引っ込んだ。

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