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世界一嫌いな女が義妹になった〜ひとつ屋根の下での共依存関係〜  作者: 宮野ひの


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第31話 首に手をかける

 ——力を入れることはできなかった。


 それは麻樹を痛めつけることがわかっているから。


 彼女に死んで欲しいわけじゃない。むしろ、誰よりも長生きして欲しかった。


 私が麻樹を大好きでいるためには、彼女も同じところまで堕ちて欲しかったのだ。


 麻樹は少しも怯んだ顔をしない。普通だったら、殺されるかもと思って、腰が引けることだってあるだろう。


 口の端が上がった。


「あっ……」


 麻樹も私の首に手をかけた。


 思わず肩が跳ねた。居心地が悪い気分になる。


 彼女は、女神のように美しかった。そして少しだけ微笑んだ。


 瞬きをした瞬間だった。

 ——麻樹の手には力が加えられた。


 お風呂場に残った湯気が口の中に入った。息苦しい。


「あっ……」


 だけど彼女に殺意はなかった。

 それは私を挑発するような力の強さだったから。


 先に手を出したならと、許された気になってしまった。


 私は麻樹の首を触る手に力を込めた。


 ギュッとするほど、彼女は口を開けた。まるで新鮮な空気を吸おうとする金魚のようだった。


 麻樹が私の手の中で歪んでいく様子が、たまらなく愛おしかった。


 だから、私は彼女にキスをした。


「んっ……はぁ……」


「あっ……ふぅ……」


 首を絞め合って口づけを交わす。

 そんな姉妹は気が狂っている他ない。


 だけど、私はこの行為で、生きている実感を強く持つことができた。


 麻樹を痛めつけるほど、自分の中に救われた気持ちを持つことができた。

 そして、彼女をもっと好きになることができた。


 苦しそうな麻樹から手を離すと、私は彼女の首元に噛みついた。


「んぎゃあ」


 そんな猫のような声が耳に届くと、背中がゾクゾクした。

 歯形がついたところを丁寧に舐めると、今度は艶めかしい声が漏れてきた。


 私は麻樹のきれいな肌を上から順に攻めてから、丁寧に舐めた。さっきのキスよりも気持ちは昂っていた。


 ずっとこうしていたい。


 麻樹は止めるでもなく、目を細めて、私をただただ黙って受け入れてくれていた。


 私は麻樹が大好きだ。超超超好きだ。

 だけど、憎い気持ちがどうしても消えない。


 二つの相反した気持ちが自分の中に確かに存在していた。


 義理の姉妹になったから、彼女を心から愛したかった。

 だけど、限りなく純な気持ちで麻樹を見ることができなかった。


 彼女の体を痛めつけながら、罪悪感を手放すかのように、丁寧に奉仕した。


 麻樹は私を突き放すことをしない。

 むしろ最初からそうなることがわかっていたかのように、目をつぶり私に身を委ねた。


 どれくらいそうしていただろう。


 シャワーの熱はとっくに冷めていた。だけど、お互いに肌を寄せ合っていると、汗をかいてしまうくらい熱かった。


「——麻樹?」


 気づいたら、私は彼女を押し倒していた。

はぁはぁと甘い吐息が聞こえる。


 麻樹の体は痙攣したように跳ねていた。彼女は恥ずかしそうに両手で顔を隠した。——どうやら良かったようだ。


 中学の時代の私が昇華される音がした。私は思わず麻樹の頭をそっと撫でた。


 可愛い。


 指の間を、彼女の濡れた髪がさらさらとすり抜けていった。





 お風呂から出た後、結局、添い寝は私の部屋ですることになった。


 麻樹の部屋は掃除をしたばかりで、まだホコリが舞っていそうというのが理由だった。


 大人しく二人ですやすや眠るのかと言えば、そうじゃない。


 私の目の前には、裸の麻樹がいた。覆いかぶさられて、思うままに動かれている。


「風香……風香……」


 指を丁寧に舐めた。


 片方の手はギュッと恋人繋ぎをしている。


 麻樹は、私の人差し指に、たどたどしく舌を這わせた。

 艶のある視線を向けられ、どこか主従欲が満たされる。


「いた……」


 すると、麻樹の犬歯が私の指の腹に当たった。


「ごめん……きゃっ」


 彼女が、少しでも私に痛めつけることをすると、攻めたくてたまらない気持ちになる。


 立場が入れ替わるように、私はベッドに麻樹を押し倒した。

 ギシッと卑猥な音が室内に響く。どうやら二人分を十分に支えるようにはできていないようだった。


 茂雄さんとお母さんが旅行から帰ってきたら、もうこういうことはできないなぁ。


 名残惜しい気持ちも相まって、その日は、寝る間もないほど、麻樹のすべてを堪能した。


 不思議だったのは、強く彼女に当たるほど「もっと」とか「好き」とか言ってきたことだ。イライラする。


 麻樹が眉を顰めるような表情を見せると、物理的にも精神的にも気持ち良くなることができた。


 麻樹に夢中になっていると、過去とか未来とかどうでも良くなる。すべての悩みが消えた。


 幸福とは、こういうことを言うのではないかと、錯覚してしまうほどだった。





「ただいま〜。はい。これお土産!」


「風香ちゃん、留守番しててくれてありがとうね」


 次の日の夕方に、茂雄さんとお母さんは帰ってきた。

 二人とも表情が柔らかく、旅行を満喫してきたように思えた。


 私はお母さんからお土産の袋を受け取った。どうやら、くるみ入りの最中のようだった。


「あれ。麻樹ちゃんは?」


 お母さんが辺りをキョロキョロした。


「あっ、眠いって言って今、部屋で休んでるよ……」


「仕方ないやつだな。昼夜逆転しても知らないぞ」


 茂雄さんが目を細めて言った。


 私は胸がちくりと痛んだ。


 麻樹が今ベッドにいるのは、夜通し、私が独り占めをしていたからだった。

 あのままずっと二人で一緒に戯れていた。


「あれ。風香ちゃん、クマできていないかい?」


「そ、そうですか? あれ、おかしいなー」


 茂雄さんに指摘されてしまい、反射的に目を逸らした。


 怪しまれてしまっただろうか。


 しかし、二人は旅行の片付けで忙しいようで、私からすぐに意識が逸れたようだった。


 ホッ。見えないところで、そっと息を吐く。


 実は私も眠かった。


 どうかこのままバレませんように——。


 私は、心の中で手を合わせて祈った。

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