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世界一嫌いな女が義妹になった〜ひとつ屋根の下での共依存関係〜  作者: 宮野ひの


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第26話 今日は抱きしめ合って寝ない?

「——でも、きっかけを作ったのは、わたしだけど、上手くいったのは二人の相性が良かったからだよ。さすがに人の気持ちまでは動かせないから……」


「……家族になってまでも、私に会いたかったってこと?」


「……うん。とっても」


 その声は、美しい響きを持っていた。


 先ほどまでの震えている様子とはまったく違う。


 麻樹の気持ちは——正直、重いと思った。


 中学時代は、こんな子じゃなかったのに。


 むしろ、あの頃は、私の気持ちの方がヒートアップしていたように思う。

 群青さんに麻樹を取られるのが嫌で嫌で仕方なかった。


 会えない日々が彼女を変えてしまったのだろうか。


「あ、ありがとう……」


 でも、私も求められるのは悪い気はしなかった。


 きっと麻樹で傷ついた気持ちは、他では埋められなかったから。


 ——彼女に、どうにかしてほしいのだ。


「あのさ、停電じゃん?」


「うん」


「いつ電気がつくかわからないよね? だからさ——」


 私は息を呑む。


「怖いから、今日は抱きしめ合って寝ない?」


 本当に、私らしくない言葉が口から出た。


 怖いのは事実。

 だけど、麻樹にくっつく大義名分が欲しかったのかもしれない。


「っ……」


 彼女は戸惑っているようだった。

 空気感でわかる。


「——い、いいの?」


 麻樹が次に口にした言葉は、念を押すものだった。

 恐る恐ると言ったように、受け入れの態勢を取ってくれている。


「——うん。麻樹、そこにいるよね?」


「いるよ。ほら」


 再び、私と麻樹はくっつくことになった。

 暗闇に二人ぼっち。


 怖いという感情は、霧のように去っていった。


「今、何時かな」


 彼女がカラカラの声で言った。

 なんだか緊張しているように思えた。


「さぁ。わからない」


「……とりあえず、寝ようか」


「うん」


 私と麻樹は横になって目を閉じた。

 顔が見えないからか、さほどドキドキはしなかった。


 むしろ起きているのに、夢を見ているような気分だった。


 だけど、すぐに睡魔は訪れた。家の外で、大人が喋っているような声が聞こえた。


 停電したからか、今からお風呂に入る人は何かと不便だろうな。可哀想。


 私は麻樹をきつく抱きしめた。


 ——夢は見なかった。

 もちろん、麻樹を叩いたり、首を絞めたりする夢も。


 朝は、いつもよりも早く起きた。

 隣を見ると、麻樹がスヤスヤと眠っていたから、私は自分のことのように嬉しくなってしまった。


 生まれ変わったような、真新しい朝だった。





 楠木の名字になってから早1ヶ月。最初は戸惑ったけど、じきに今の生活にも慣れた……ように思える。


 茂雄さんは優しいし、お母さんも前よりも穏やかな顔つきになったように見えた。


 麻樹のベッドは、引っ越してから一週間後にしてやっと届いた。だから、もう添い寝して寝るようなことはなかった。


 だけど、あの一週間が私たちを変えた。


 夜に、部屋に行き来する習慣がつき始めてしまった。決まって22時付近に、コンコンとドアがノックされるようになった。


 麻樹の用事は、勉強でわからないところがあるだとか、ゲームを一緒にしないかとかだった。


 私はその都度、そつなく対応していた。中には、5分で彼女を部屋から追い出したこともあった。


 うん。私たちは、健全で、もうベッドで寝るようなことはしていない。


 ——あの停電があった日。

 私と麻樹は顔を見合わせずに、心を通い合わせた……気がした。


 もしかしたら、このまま上手くいくとさえ思った。


 "普通"の義理の姉妹になれると思った。


 だけど、毎朝顔を合わせると、麻樹に対して憎しみの感情が生まれてしまうことがある。


 これは体調がすぐれない日や、寝つきが悪い日によく思うことがある。


 麻樹を見ると、中学の嫌な記憶が自然と頭をよぎってしまうのだ。


 だけど、彼女を嫌いになりきれないのも事実で——。


 高校生活は順調そのものだった。勉強にも問題なくついていけているし、部活も楽しい。

 廊下で田中先生と会った時に話をすることもある。内容は近況報告や、世間話など。


 それでも結婚生活に話題が向かった時、彼女は幸せそうに惚気た。いいなぁと、寂しくなることもある。


 悶々とした思いを抱えて、家に帰った時、玄関で麻樹と出くわした。「おかえり」なんて目を細めて笑って言ってくれた時に、ときめきを覚えてしまった。


 触れたいなんて頭をよぎることもある。私の心の中は、外的な何かによっていつも振り回されている。


 これは、みんなありふれて経験することなのかはわからない。屋敷に聞こうとしたら、寂しそうな顔をして、「難しいこと考えてんね。そういうのやめた方が精神的にもいいよっ」と言われてしまった。


 私と麻樹は、どこか壁がある。だけどお互いがお互いに関心を持っている。そんな気がした。


 もしかして、一度セックスまがいのことをしたから、意識しているだけなのかもしれない。私たちは思春期真っ只中だ。





「えっ。今週末、茂雄さんと旅行に行ってくるの?」


「うん。急な報告になってごめんね〜」


 夕ご飯。今日の献立はカレーだった。味は甘口で、お母さんの好みによるものだった。


 思わず私は食べる手が止まり、スプーンを皿の上に置いた。


 完全に、寝耳に水だった。


「実はね、まだ新婚旅行に行けてなかったんだ。今度の土日に一泊で行くことにしてさ。悪いけど、風香ちゃんと麻樹で留守番しててくれるかい?」


 茂雄さんは、お土産たくさん買ってくるからと続けた。


 ……別にいいけど。


 麻樹をチラッと見ると、彼女もこちらに視線を向けていた。バチっと視線が交差した。

 私は気まずくなって、先に目を逸らした。


 二人の話を聞くと、軽井沢に一泊するということだった。

 季節外れだけど、お母さんが自然好きだからってことで決まったらしい。


「一泊じゃなくて、2〜3泊くらいしてくればいいのに」


「二人を置いて遠出なんてできないわよ! 実はね、茂雄さんのお義母さんに、その時だけ、ウチに来てもらおうかと思っていたのよ」


 な、なんてことを。

 やめてほしい。


「——大丈夫です。もう高校生ですので、自分たちのことは自分でやれます」


 麻樹が口を挟んだ。彼女の意見には同感だった。


 見知らぬ大人——(と言っても麻樹のおばあちゃんだけど)が家に入るより、そのまま信用して私たちに任せてくれた方が気持ちの面でも良かった。


「うん。麻樹の言うとおりだよ。何かあったらスマホで連絡取れるし……。しかも、旅行って言ったって国内でしょ? 問題ないよ」


「そ、そう? うーん。じゃあ悪いわね。でも、困ったことがあったらいつでもすぐに連絡してね!」


「はい。わかりました」


 麻樹が礼儀正しく返事をしたことで、話は、ひと段落ついた。


 きっと家には私たちがいるから、二人はラブラブしにくいのだろう。……。


 こうやって暮らしてみても、二人が過度なスキンシップを取っているところは見たことがなかった。

 良い息抜きになるなら、二人で旅行に行って幸せな時間を過ごしてほしい。

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