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世界一嫌いな女が義妹になった〜ひとつ屋根の下での共依存関係〜  作者: 宮野ひの


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第23話 胸、触ってみてもいい?





 ——麻樹のベッドは、今日も家に届かなかった。


 えらい物流が遅れているなぁという感想しか浮かばなかった。


 晩ご飯の席で、麻樹には何も言われなかった。


 もしかして、布団かなんか買ったのかな。


 それだったら、今日から私一人で寝ることができる。


 ……。


 そう思っていたんだけど。


 夜10時のことだった。私は自分の部屋にいて、ベッドの中に入っていた。


 一人、じっとドアを凝視していた。


 ——麻樹は訪ねてこなかった。


 ほっとしたような、何故か残念なような気持ちになる。


 スマホでもいじるかなぁと、一つ伸びをした。


 ——トントン。


 ……そしたら、ドアがノックされた。


「……はい」


「わたしだけど。入っていい?」


「……どうぞ」


 今夜も麻樹は、私の部屋にやってきた。


 いつものように、ワニのパジャマを着て、マイ枕を右手に抱えていた。


 ——どうやら私は、今日も彼女と一緒に寝なければならないようだった。


「ねぇ。風香。今日のお風呂、熱くなかった?」


「あー……。お母さんが今日は冷えるからって。温度を2度上げていたせいかな」


「そっか。でもいい感じに、ポカポカするかもっ」


「……椅子に座っていいよ」


「ありがとう。——よいしょっと」


 麻樹は枕をベッドの上に置いて、机の前にある椅子に座った。


 ゆったりくつろいでいて、彼女の部屋にいるかのような錯覚さえ覚える。


「風香。今日もゲームする?」


「……眠いからいいかな」


 昨日は柄にもなく白熱してしまった。


 麻樹はゲームが強かった。

 負けず嫌いの私は、「あと一回!」と何度も挑んでしまっていた。


「そっか。じゃあお話ししよっか」


「……」


 この前から思っていたけど、麻樹って友好的すぎない?


 よくこんな、喧嘩別れしたような相手に、にこやかな態度を取れるなぁ。


 私が怒りすぎなのかな?


 いや、でも——。


 うーん……。


 想像の中の麻樹になら、酷いことだって言えた。


 だけど、いざ目の前にすると、気持ちが丸くなってしまう。

 これは情というやつだろうか。


 ——多分、麻樹に敵意がないことがわかるから、それ以上突っかかれないだけなんだとも思う。


「……あのさ、風香に言いたかったことがあるんだけど」


 彼女は外ハネの髪を、手にくるくる巻きつけながら言った。


「何?」


 一瞬の沈黙が流れる。


「風香が引っ越してきた初日にさ、"昔、セックスしたことは忘れてほしい"って言ったじゃん?」


「うん。確かに言った……」


 あらためて言葉にされると恥ずかしかった。


 あの時は、血の気が上っていたから口にすることができたんだ。


 今はベッドの中でリラックスしているからか、変に自分を客観視できた。


「——別にわたし達、してないからね。セックス」


「……へっ?」


「だから、セックスしてないから!」


「こ、言葉の意味はわかってるよ! ……し、したじゃん。保健室でさ!」


 この記憶だけは、昨日のことのように鮮明に思い出せた。


「あれはさ、大人の見様見真似の遊びみたいなものじゃないかな。本物のセックスとは言えないよ」


「……」


「第一、服だって着てたしさ」


 麻樹はブツブツと勝手に話を続けている。


 あの頃の私は女同士の……その、えっちを定義する行為がわからなくて、ネットで調べて、無理やり解釈していたことを思い出した。


 私は"あれ"が本物の行為だと思い込んでいた。


 だけど、彼女は"してない"と解釈していた。


 人それぞれ、ものの受け取り方が違うのはわかる。……でも、なんでかな。


 麻樹が私との触れ合いを、セックスの一つにカウントしていないことに無性に腹が立った。


 プライドが刺激されたということだろうか?


 それとも情けない気持ちから? 


 うぅぅ……。


「し、仕方ないじゃん! わ、わからなかったんだから……。でも、触れてみたいと思ったのは確かで……」


 あっ。


 失言だ。


「——何それ。風香、かわいい」


 麻樹は見逃さなかった。


 私がにぎり掴んでいた掛け布団に手をかける。


「……っ。なに?」


「隣、入れてよ」


 このタイミングで添い寝を希望するの?

 なんてやつ。


 でも、どっちみち一緒に寝ないといけないんだから、私に拒否権なんてない。


 麻樹が済ました顔をして、ベッドに入ってくる。


 体温がいつもよりも高かった。

 これはきっと、お風呂のお湯が熱かったせいだ。


「——ねぇ。今、わたしが風香に触れるのはどう?」


「……何言ってるの?」


「そういうと思った。言っておくけど、無理には触らないから」


 麻樹が自分の枕をちょうどいい高さに調節した。


「あー。横になって気づいた。わたし心臓いつもよりも速いかも。身体が動いている感覚がめっちゃするから」


「……そうなの?」


「うん。ねっ。見てみなよ」


 麻樹が掛け布団をぺろっとめくった。


 私とお揃いのパジャマが、小刻みに動いているのがわかった。


「……本当だ」


「風香にわかられちゃった。ちょっとだけ恥ずかしい」


 ……。


 てっきり、こういう時って、「胸触る?」なんて提案されるものだと思っていた。


 私たちは隣同士にいるのに、やけに距離が遠い。


 でも、こういうのって貧乏ゆすりをするみたいに、やろうと思えば、細工ができたりするように思う。

 現に、麻樹の足は掛け布団に隠れていた。


 ……。


 私に嘘ついていたら、許さないから——。


「やっぱりわからなかったから、胸、触ってみてもいい?」


 あ、あれ。


 自分が言葉を発し、気付く。


 私、結構取り返しのつかないこと言っちゃってない?


 ……最悪、痴女だと思われたかも。


 で、でも、しっかり確認したい気持ちがあったのは事実!


 麻樹が嘘をついていると知ったら、今度こそ、本当に立ち直れないと思うから。


「——いいよ。優しくね」


 彼女はそんな私を丸ごと受け止めるかのように、優しく肯定した。

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