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世界一嫌いな女が義妹になった〜ひとつ屋根の下での共依存関係〜  作者: 宮野ひの


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第20話 麻樹の過去





 ——そうだ。茂雄さんに聞けばいいんだ。


 そう思い立ったのが、13時を過ぎた頃だった。お昼ご飯は、冷凍のパスタを食べた。


 茂雄さんは、お母さんと共同の寝室にいた。話をしたいことを言ったら、リビングまで来てくれた。


「やぁ。風香ちゃん。どうしたのかな。そういえば、ゲームは楽しかったかな」


「あっ。いやぁ……」


 白いテーブルに二人で向かい合わせに座った途端、気を遣ってくれたのか、彼は世間話を始めた。


 まずい。結局、麻樹と予備室に行っても、ゲームをすることはなかったんだよね。


 どうしよう。えっと、ここは——。


「——実は、まだしてないんですよ。麻樹と話をするのに夢中になっちゃって。茂雄さんがプレゼントしてくれたゲームなので、また時間を見つけてプレイしたいです」


「そうか。急かしてしまったかな。落ち着いたら、麻樹と遊んでやってくれると嬉しい」


 茂雄さんは優しかった。

 素直に言って、良かった。


 ここで変に誤魔化したら、絶対こじれると思ったから。


「——それで、話ってなんだい?」


「実はですね……」


 話の道筋なんて考えていない。


 むしろ計画していなかったからこそ、勢いで声をかけることができた。


 見切り発車だけど、頑張って話を続けた。


「麻樹が言ってたんですけど、茂雄さんってお酒が苦手なんですよね?」


「あぁ。うん。下戸なんだよ。会社の飲み会で酒を一杯飲めと言われると困ってしまってね……」


「そうなんですね」


「うん。でも。どうしてそれを?」


「いやぁ……」


 ……気まずい。


 義理のお父さんだとしても、やっぱり一日そこらで、仲を深めることはできない。


 話しかけたのは、間違いだったかな——と思いかけた時だった。

 稲妻のように、一つの考えが頭をよぎった。


「——あれ。それじゃ、お酒が苦手だったら、なんで、お母さんの店に行ったんですか?」


 茂雄さんとお母さんの出会いはスナックだ。


 ああいう場所って、第一にお酒を楽しむ場所ではないだろうか。


 何がきっかけで、彼は通うようになったんだろう。


「ははは。風香ちゃんは鋭いね。実は、会社の同僚の付き合いなんだ」


「なるほど……」


「——いや、違うな。正確には、麻樹の勧めがあってからかな」


「えっ」


 茂雄さんは、思いもよらぬことを口にした。

 私は彼を食い入るように見つめた。


「——それは、どういうことなんですか?」


「いやね、麻樹に言われたんだ。次、お母さんになる人は、『スナック桜』にいる、真由美(まゆみ)さんみたいな人がいいって。それだと、学校にも通うって言うからさ。娘がそう言うなら、一度足を運んでみたいなと思ったんだ」


 耳を疑った。

 今日だけで、何度驚かされただろう。


「——えっと。その、麻樹って、不登校だったんですか?」


 まずはそこから聞いた。


「うん。高校に入ってから、五月雨登校でね。少し前までは、家にいるほうが多かったかな」


 ——知らなかった。


 てっきり、楽しく誉山高校に通っていて、キラキラなJK生活を送っているものだと思っていた。


「な、なんで、学校に行かなくなっちゃったんですか?」


 失礼だと思いつつ、気になったので、茂雄さんについ聞いてしまっていた。


「恥ずかしながら、はっきりとした原因はわからないんだ。あの子は、いじめとかではないとは言うんだけど」


「そうだったんですか……」


「——ウチは、麻樹が小さい頃に妻が亡くなってしまって、男親として、あの子の本当の気持ちを、わかってあげられなかったのかもしれないな」


「……」


 そういえば中学の頃、麻樹の家にはお母さんがいないと言っていたことを思い出した。


 ウチもお父さんがいないので、立場は違うかもしれないけど、何も言わずに寄り添え合えた部分があった。


「——麻樹に新しいお母さんができるなんて考えてもいなかったんだ。……だけど、あの子がそこまで勧めてくるならと、一度スナックに足を運んでみたんだ」


 茂雄さんがテーブルの上で指を組んだ。自分の手元をじーっと見ていた。


「風香ちゃんのお母さんと話していると楽しくて——気付いたら、結婚する縁までできていたよ。……麻樹も宣言通り、学校に通い始めた」


 私は彼の話を静かに聞いていた。


 私の知らない麻樹が、そこにはいた。


「……おっと、麻樹には内緒と言われていたんだ。でも、こんなにめでたい話だから、いいよね。風香ちゃん、話を聞いてくれてありがとう。もし失礼があったら、すまない」


「いえ、大丈夫です。話してくれてありがとうございます」


 私は軽く頭を下げた。


 それから茂雄さんと、少し世間話をしてから解散して、自分の部屋に戻った。


 ふーと、深いため息が出る。


 ——麻樹の過去について知ることができた。


 彼女は中学時代も目立つ方で、成績も悪くなかった。恵まれている人生に見えたけど、麻樹なりに、いろいろ悩むこともあったのかもしれない。


 ——だけど、どうして茂雄さんを、私のお母さんがいるスナックへと勧めたのだろうか。

 そうなると、麻樹が二人の恋のキューピッドということになる。


 ……。


 もしかして。


 ——私の義妹になるために、仕組んだことじゃないよね?


 まさか……ね。


 ……。


 麻樹は今、何を考えているのだろう。身震いがする思いがした。





「今日も、麻樹ちゃんのベッド届かなかったわね……」


 夕ご飯の時間。お母さんが、ちらし寿司を食べる手を止めた。


 昨日は忙しかったので、落ち着いた今日、引っ越し祝いパーティーをしているのだ。


 リビングには、星やハートなど折り紙で作った飾り付けがされていた。どれもお祭り好きのお母さんがしたことだった。

 みんなのコップの中には、ノンアルコールの弾けるシャンパンが入っていた。


「ですね……」


 麻樹が残念そうに——見える表情でそう言った。


「——ということで、風香! 今日もベッドを半分、麻樹ちゃんに貸してあげてねっ」


「……」


 突っ込む気力もなかった。


 諦めの意味も込めて、味噌汁をずずーっとすすった。


「もしかして、風香ちゃん。迷惑だったかな? 麻樹と一緒だと寝にくいよね。そしたらおじさんが、ソファーで寝るよ。麻樹は——」


「いやいや、迷惑じゃないですよ! そんな体張ったことしないでください!」


「——迷惑じゃないんだ」


 麻樹が小さな声でつぶやいた。


 ……完全なる失言だ。


 だけど、わざわざ訂正するのも格好悪い気がして、私は聞こえないフリをした。

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