表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界一嫌いな女が義妹になった〜ひとつ屋根の下での共依存関係〜  作者: 宮野ひの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/19

第18話 お揃いのパジャマ

 ふと視線を落とすと、彼女の着ている中学のジャージが目に入った。


「——引きつってるよ。顔」


 すると麻樹に鋭く指摘されてしまった。

 自覚があったから、何の言い訳もできなかった。


「わたしがさ、このジャージ着てるの嫌?」


「……」


「——聞くまでもないか」


 彼女は私の答えを聞く前に、一人勝手に納得してしまった。

 まぁ。図星なんだけど……。

 できれば中学のジャージなんて、視界にすら入れたくなかった。


 麻樹はムクっとその場に起き上がった。


 何をするのかと思ったら、急にジャージの上を脱ぎ出した。


 ちょ、ちょっと待って!


 えっ。何してるの!?


「——目を隠さなくても、中にタンクトップ着てるってば」


「……」


 彼女からそう言われて、そっと手を離した。


 黒色のタンクトップ姿の麻樹が、軽やかに笑う。

 しかし、胸元が見えていたので、目のやり場に困った。


「——よいしょっと。うーん……。あっ。風香、これ使っていい?」


 麻樹はカーテンを少しだけ開けた後、ベッドから降りて、机周りを物色した。

 ペン立てに立てておいた、赤いハサミを指差している。


「……いいけど」


「ありがとう」


 ハサミなんて何に使うんだろう。

 彼女の様子をただじっと見守ることしかできなかった。


 麻樹は手に持った上のジャージに、躊躇うことなく刃を入れた。右腕に大きく切り込みが入る。


「ちょ、ちょっと。何してんの!?」


 横になっていた体を起こす羽目になった。

 急な彼女の行動に、動揺する。


「だって、風香、嫌なんでしょ? だったら、わたしもいらないもん……」


 麻樹は構わずにジャージをハサミで切っていく。

 紙を切るタイプのやつだからか、途中で切り込みが悪くなった。彼女が歯を食いしばって、手を動かした。


 麻樹の肌は白くハリがあった。まるで竜のように勇ましく舞い、ジャージをボロボロにしていった。


 止めなかったのは、心のどこかでそうしてほしい気持ちがあったからだ。

 見ているだけなのに、胸のつかえが取れていくようだった。


 しばらくすると、ジャージは見るに耐えない姿となった。床の上には、青色の破片が散らばっている。


「——よし。上はこれでいいか」


 彼女は満足げな声を出した。


 そして、躊躇うことなく次はジャージの下を脱ぎ出した。


 水色のレースのショーツがあらわになる。真ん中にはリボンが付いていた。

 ……麻樹こういう下着履くんだ。


 先ほど同様、彼女はハサミを入れて、下のジャージを散切りにしていった。

 慣れたのか、チョキチョキとリズムが良い音も聞こえた。


 麻樹は形を失っていくジャージを、伏し目がちな目で見つめていた。


「——終わりかな」


 彼女はペン立てにハサミを置いた。

 切り取ったジャージは、すべて床の上に置いた。


 ……最後まできちんと片付けてよ!


 とは、さすがの私も言えなかった。


 麻樹は背中を向けて、うーんと一つ伸びをした。


 タンクトップとショーツ姿の彼女は、とても寒そうに見えた。


 私はベッドから下りて、クローゼットを開けた。ゴソゴソと中から、あるものを取り出した。


「——これ、あげる」


「何これ?」


「新品のパジャマ。……そのままでいると、風邪引くよ」


「……ありがとう」


 麻樹は素直に受け取った。


「部屋に置いてくる」


「いやいや。今着なよ!」


「……でも、もったいないし」


 そんなに高いものじゃないんだけど。


「いいから!」


 念を押したら、彼女は渋々だけど——袋を開けて、パジャマを着てくれた。


「どう?」


「ちょっと小さいかな」


「……自分用に買ったやつだから」


 ごめんと心の中で謝った。


「もしかして、風香の今着ているパジャマとお揃い?」


 麻樹に言われて、自分の服装を見下ろした。


 しまった。確かに、そうだ。

 ……うっかりしていた。


 お気に入りのブランドのもので、色違いにと買っておいたパジャマだった。


 私のポケットにはうさぎが描かれているけど、彼女のポケットにはワニのキャラクターが描かれていた。


「うん……」


「やったー。わたし達、お揃いのものとか持ってなかったもんね。初めてだ。嬉しい」


「……」


 麻樹はパジャマの袖に頬擦りをしている。


 目がキラキラしているから、本音で言っているように見えた。


 ……彼女には調子を狂わされる。


「よしっ。じゃあ、これ着て二度寝でもしますか」


「ちょっと、ジャージのゴミ、片付けてよ!」


 やっと言うことができた。


「いいじゃん。ボロボロなものは床で寝て、わたし達はベッドで優雅に寝るって、ちょっとした対比みたいでさ」


「ふっ。何言ってるの」


 意味がわからなさすぎて、笑ってしまった。

 麻樹はそんな私を見て、ニヤニヤしている。


「……じゃあ、おやすみ」


 彼女は照れ隠しをするように、すかさず、ベッドに潜り込んだ。

 私は数秒悩んだ後、同じように横になった。


 ぐっすり寝たからか、目は冴えていた。カーテンを開けているから、麻樹の顔は先ほどよりも鮮明に見えた。

 彼女は近すぎる距離で、またしても私をじっと見ていた。


「……ちょっと。気が散るんだけど」


「風香。傷、残ってない?」


「傷?」


「ほら、保健室でさ、爪でほっぺたを引っ掻いちゃったことあったじゃん?」


 遠い記憶が蘇った。


 確かにそんなこともあった。


 些細なことすぎて、今まで忘れてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ