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世界一嫌いな女が義妹になった〜ひとつ屋根の下での共依存関係〜  作者: 宮野ひの


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第15話 人生は本当に何が起こるかわからない。





 もう中学校には行く気にはならなかった。夜は眠れないし、朝を迎えても、制服を着る気力さえなかった。


 欠席日数もどんどん増えていった。勉強も手につかない。調子が良い時に、教科書をめくってみるけど、何を示しているのかまるで分からなかった。

 こんな私が誉山高校に入学するのなんて、夢のまた夢だった。


 お母さんは学校にも行かない一人娘の私を心配した。

 しかし、シングルマザーでお母さんが働かないと家計が回らないからか、必要以上に干渉することはなかった。それが良いことだったのか、悪いことだったのかはわからない。


 家から出たくない。三石先生の言葉も聞きたくない。


 私は完全に外側の世界と遮断していた。たまに調子が良い時に見る、犬や猫の動画が唯一の癒しだった。


 私の未来は真っ暗になってしまった。


 クラスメートに嫌われても、まーちゃんと一緒にいられたなら、平気で学校に行っていただろうか?


 私は彼女に依存していた。まーちゃんからの評価がないと何も動くことができなかった。


 だけど、人の脳とは不思議なもので、まーちゃんを世界一大嫌いと思い込むことで、本当にそう感じるようになってしまった。

 多分、そうしないと、心が壊れてしまっていた。憎しみの感情によって、私は生かされていた。


 夜中に一度、まーちゃんのSNSのアカウントを探したことがある。手持ち無沙汰だったのかな。彼女に興味があった——とは言いたくない。


 ——そしたら、本人らしきアカウントを見つけた。投稿している写真の中に、群青さんと笑い合っている一枚があった。血の気が引いた。


 私が一人引きこもっている間に、まーちゃん——いや麻樹はなんて楽しい学校生活を送っているのだろう。憎い。憎い。私の初めてを捧げた相手なのに。あんなに好きだったのに。


 私の気持ちは完全に憎悪に変わってしまっていた。


 それでも心の支えにしているものが私にはあった。それは絵を描くことだ。元々、美術部で、中学に行っていた時は、毎日でも筆を握って、一つの絵を完成させていた。


 将来が不安でも、一本ずつ線を引いていくことで、気持ちが凪のように落ち着く。モヤモヤした気持ちも、芸術と言ったら恥ずかしいけど、何か形にすることで、かろうじて自分という存在を保つことができていた。


 そんな私にも、高校の進路を決めないといけない時がやって来た。私が入れる学校なんてあるのだろうか。半分、諦めてもいた。


 しかし、世の中とは何とかなるのが常らしい。

 高校のパンフレットを見ていく中で、一つの学校に目が留まった。美術系に力を入れていて、自由な校風、パンフレットの隅に"不登校経験者の方でも大丈夫"と要約できるような学校を見つけた。


 直感で、この高校に行きたいと思った。家から片道1時間はかかる場所にあるけど、むしろ好都合だと思った。私は私の知らない人がいる場所に行きたかった。


 麻樹は風の噂で、誉山高校に入ったということだった。

 絶望と嫉妬と、もう二度と会わないからどうでもいいという複雑な気持ちになったことを覚えている。

 私たちは、完全に別々の道を歩んでいた。


 高校では、屋敷姫萌という友達もできた。彼女はあっけらかんとした性格で、とても明るい。陰険な雰囲気とは程遠い。


 屋敷と話していると自分の悩みが浄化されるように感じた。

 いつか読んだ本に、人に傷ついた心は人で癒されると書いてあった。

 本当かなと半信半疑だったけど、今ならその意味がわかる。


 あの頃の私は、自分のことで精一杯だった。お母さんが仕事のことや、金銭のやりくりに悩んでいることに気付かなかった。


 私が私立の高校に行ったからか、学費が払えないという状況だった。今なら、奨学金などの制度を使えば、どうにかできたのかもしれない。


 きっとお母さんは不登校から脱出した娘の成長を喜んでくれたのだ。掛け持ちの仕事を増やし、スナックでも働いてくれたみたいだった。


 ——本当に私は何も知らなかった。お母さんは愚痴ひとつすらこぼさなかった。


 その店に茂雄さんがお客さんとして遊びに来て、親密になって——まさか二人が結婚することになるとは思わなかった。


 ——人生は本当に何が起こるかわからない。


 私の部屋の荷解きは、まだ終わっていなかった。あと4分の1ってところかな。

 お母さんと茂雄さんが帰ってくるまで、なんとか片付けよう。


「よいしょ、と」


 その前に、ちょっと休憩したい。


 私は勉強机の前にある椅子に座って、息をついた。


 今日は引っ越しをして、麻樹と対峙して、屋敷が家に来て、いろいろあった日だったなぁ。


 あっ。そっか。夕ご飯も、麻樹と顔を合わせなければならないのか……。

 私は、わかりきっていた事実を前にして、再びため息をついた。


 椅子にめいいっぱい背を預けると、キィィと音がした。


 机に置いてあったノートを手に取って、無造作にめくってみる。花や自分の手、河川敷などを描いたデッサンが出てきた。


 全部、私が描いたものだった。自分で言うのもなんだけど、描き進めるほど、上達しているのがわかる。


 だけど、最近は集中して絵を描いていなかった。それは毎日が楽しいからだ。


 学校のイベントに打ち込み、屋敷と放課後に寄り道していると、心が満たされているせいか、絵を描こうという気力が湧かなかった。


 さすがに部活に顔を出した時には、絵を描くけど。


 私の何かを作り出す原動力って、負のエネルギーから来ているのかなと思ったら、複雑な気持ちになった。


 でも、大丈夫だろう。——今の生活環境の変化によるストレスで、私の絵を描く時間は絶対に増える。そう確信していた。


「ただいまー」


 1階からお母さんの声が聞こえた。袋をカサカサと鳴らす音もする。

 何を買ってきたのだろう。気になったので、私はノートを机の上に置いて、急いで階段を降りた。


 荷解きがすべて終わるまでには、まだ時間がかかりそうだ。





「えっ。麻樹と私が一緒に寝る!?」


「そうそう! まだベッドが届いていないみたいなの」


 リビングにある白いテーブルで、家族4人で夕ご飯を食べていた時のことだった。


 お母さんが突然とんでもない爆弾発言をした。

 私は唐揚げを床に落としそうになった。

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