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世界一嫌いな女が義妹になった〜ひとつ屋根の下での共依存関係〜  作者: 宮野ひの


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第13話 見つかる





 保健室から出た後の記憶がなかった。結局、最後まで先生がやってくることはなかった。


 きっと、まーちゃんはバレー部へ、私は美術部へと、お互い手を振り合って別れたとは思うけど——。


 私は家に帰った後、スマホを触って調べ物をした。「女同士 えっち やり方」とか。「女同士 えっち 最後まで」とか。親には見せられない単語ばかりを検索した。


 しかし、ネットサーフィンを続けるほど、頭がこんがらがってしまった。だって、明確な正解はないから……。まるで国語のようだと思った。


 しまいには、「男女 えっち やり方」とか「男女 えっち 最後まで」とも調べる羽目にもなった。


 前までの、Dキスすら知らない私とは違う。


 経験と座学を通して、性について詳しくなってしまった。


 女同士のえっちは、男女と比べると、定義が曖昧。それはわかったけど——。


「なら、まーちゃんと今日したことは……」


 私は頭をひねった。


 そういえば占いでは、良い結果だけを信じる人がいる。悪い結果は見なかったふり。


 言うなれば、都合の良い部分だけを受け入れるということになるのかな?


 ——私はそれが悪いことのようには思えなかった。


「じゃあ、まーちゃんと私はえっちしたことになる……よね」


 うん。きっと、そうだ!


 私は、自分の中では、"そう定義"することにした。


 正直、保健室のベッドで寝転がって、イチャイチャした時、まーちゃんの色っぽい表情にときめいてしまった。

 胸が高鳴り、ドキドキが止まらない。思わず顔を両手で覆った。


 私たちは身体の関係がある親友になってしまった——。





 それから学校では、まーちゃんと二人きりになると、どちらからともなくくっついてキスをした。

 誰も周りにいないと、深いキスをして、肌に触れ合った。


 まーちゃんはそういう時、決まって、とろんとした表情になるから可愛かった。

 誰にも見せたくない。私だけにしてほしい。


 群青さんはというと、相変わらずしつこくまーちゃんに絡んだ。私がいる前で、休日に一緒に遊ぼうと、彼女を誘うこともあった。正直言って、ムカついた。


 もしかして、群青さんが犬飼さんと上手くいかなかったのも、こういう周りの目を気にせず、自分勝手に行動するところがあったからかもしれない。

 独りよがりじゃ、いつかまーちゃんに嫌われちゃうよ。


 ——だけど彼女の存在が、まーちゃんとの触れ合いをいっそう熱くした。


 嫉妬が執着になる。どろどろに溶け合う理由になる。

 ……だから、完全には無下にはできなかった。


「——ねぇ。風香、なんかね、リリアがわたしのこと、レズなんじゃないかと疑っているんだけど」


「えっ?」


 保健室でまーちゃんとイチャイチャしたあの日から、数週間後のことだった。


 その日は、部活がなくて、まーちゃんと一緒に帰ろうとしていた。

 何気なく、彼女がぽつりと言った。


「なんかね、リリアから"一人の女子と四六時中いるのは、仲良いのを通り越して、レズに見えるよ"って言われたの」


「……何それ」


 私にはすぐにピンときた。

 群青さんは自分のことを棚に上げている。


 まーちゃんを独占したいから、変なことを吹き込んでいるんだ。


 現に自分だって、まーちゃんと四六時中一緒にいようとしているんじゃん。今日の休み時間だって、強引に腕を組んで、まーちゃんをどこかに連れていったし……。


 あぁ。考えただけでムカムカする。


 だけど、私に怖いものはなかった。


 だって、まーちゃんが全面的に、私の味方をしてくれると思ったから——。


 しかし、まーちゃんの顔を見ると、不安がっている表情が目に入った。

 えっ。もしかして、群青さんの話を真に受けているの?


「……まーちゃん?」


「——ねぇ。風香、わたし達さ、ちょっと距離を置こうか」


 えっ。なんで。どうして。


 身体が冷たくなる。口を開けたけど、声が出て来ない。


 まーちゃんの顔がぐにゃりと歪んだ。


「……最近、仲良くしすぎたよね。ほら。受験にも影響出るかもじゃん? 風香とわたし、一緒に誉山高校、入るんでしょ?」


 彼女の言葉は耳に入って来なかった。


 ——まーちゃんは親友の私より、群青さんのことを信用しているんだ。


 それは、とても辛いことだった。


 嫌だ。嫌だ……。

 これじゃ、どうにかなってしまいそう。


「ちょっ。風香!?」


 私は彼女の手を取って、廊下を走った。向かった先は図書室。


 貸切——な訳はなくて、生徒たちが数人いた。本を読む者、勉強をする者、小声で談笑する1年の女子たちもいた。


 奥にある本棚が死角になることは、既にわかっていた。

 私はまーちゃんを引っ張って、壁に押しやった。


「き、急に何? 痛いよ」


「まーちゃん。距離を置こうなんて言わないでよ……」


 私の頬には涙がつたっていた。

 自分が思った以上に、傷ついていることを知った。


「……風香? もう、しょうがないなぁ」


 まーちゃんは私の手を振り切ると、カバンのポケットから、ポケットティッシュを取り出した。

 そのまま、私に差し出してくれる。


 ありがたく受け取り、ティッシュで涙を拭った。


「……ごめん。でも絶交するとか、そういうことじゃないよ」


「……」


「風香だって嫌でしょ? こんなわたしとの仲を疑われて、悲惨な学校生活を送ることになったら……」


「私はそれでもいい。まーちゃんと一緒にいられるなら、後ろ指を指されても怖くないもん」


「風香……」


 まーちゃんの声は特別優しかった。


 もしかして、考え直してくれたのかなと淡い期待を持った。


 顔を上げたら、にっこり微笑むまーちゃんがそこにはいた。


 ……あっ。これ、ダメなやつだ。


「——ありがとう。風香の気持ちは嬉しいよ。だけど、わたし達、まだ中学生だよ? "そういうこと"をするのはさ、もっと大人になってからでいいんじゃないかな。黙っていたって、あのリリアにも察されちゃうくらいだし」


 まーちゃんは、まるで先生のようだった。

 諭すような口ぶりに、明確な線を引かれたことを知る。


「……」


「風香?」


「——じゃあさ、キスとかを抜きにして、私たちを繋ぐものってなんだろう?」


「えっ……」


 意地悪な質問をした自覚はあった。


「だって、まーちゃん、これから群青さんとも、私と仲良くするみたいに平等に接するってことでしょ? そういう行為をしなくなったらさ、私たち、もう特別な関係じゃなくなるよね」


「……」


 今度は彼女が黙る番だった。


 男女だったら付き合って、クラスメートにも周知の仲として、認めてもらえる未来もあったかもしれない。


 だけど、私たちは女同士だ。同性愛に寛容な世の中になったことはわかるけど、それでも周りで女同士で付き合っている人は聞いたことがない。


 野々村さんと柴田さんみたいな、校内でも目立つ人だったら、きっと何しても受け入れてもらえるだろう。だけど、私にはまったく影響力がない。


 まーちゃんの特別になりたい。だけど、キスやキス以上のことをしなくなったら、群青さんと同じ扱いを受けることになる。それだけは嫌だった。


 彼女はきっと世間体というものを気にしている。気持ちはわかる。わかるんだけど……。


 女同士が特別な関係になって、周りにも受け入れられる状況を作るのって、こんなにも難しいことだと思わなかった。


「——姉妹だったら良かったのに」


 私の口から、本音がこぼれた。


「それってどういうこと?」


「まーちゃんと私が姉妹だったらね。周りの目に怯えることなく、ずっと一緒に、特別な関係でいられるのにって思ったの」


 そんなことは無理だけど。

 私は完全に現実逃避をしていた。


 そもそも本当に姉妹だったら、キスなんてできるわけがない。もちろんそれ以上のことも。だからこれで良かったと思おう。


「まーちゃん」


 私は彼女が恋しかった。


 思わず両肩を触ると、まーちゃんはビクッと身体を強張らせた。

 だけど、私は気づかないフリをした。


「風香……んっ」


 強引に彼女の唇を奪った。

 本棚に背中を押し付けて、無理やりキスをした。


 まーちゃんは私を押し除けようとした。


 なんで。応えてくれないの! 


 癪に障った私は、舌を入れた。

 深いキスをするほど、まーちゃんの力が抜けていくのがわかった。立っていられなくて、ずるずると腰を下ろした。


「はぁ。あっ……」


 まーちゃんは苦しそうだった。

 だけど、それがとっても可愛くて、興奮した。

 もっと、困らせたい——。


「——ちょっと、何してんの!?」


 突然、金切り声を上げるような声が耳に入った。

 背筋が冷たくなるのを感じる。


 まーちゃんから唇を離し、声の主を見ると——なんと群青リリアだった。

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