第12話 私たちの秘密
「ちょっと。何してん……の」
まーちゃんの声は震えていた。足も折って、内股になっている。
彼女の血が口内に入ってくる。生暖かい感触が、夢ではないことを実感させてくれた。
「——血が床に落ちるといけないから」
私にも羞恥の感情はあった。
ボーっとした頭で、理性的なことを口にする。
「〜〜!」
まーちゃんは、私の顔を膝から引き離そうとした。
顔が赤く、恥ずかしそうだった。
「あっ」
痛い。
その時、彼女の爪が頬を引っ掻いた。
不可抗力だ。そんなことは私が一番わかっている。
「ご、ごめん」
だけど、まーちゃんはすごく申し訳なさそうだった。
頬を触ったら、ぬちょっとしたものに触れた。血だ。
これは罰だろうか。
だけど、お互い同じものを流している今の状況が愛おしく思えて仕方なかった。
「本当にごめん」
まーちゃんは泣きそうだった。
悪いことをしているのは私の方なのに。彼女はとても優しい。
「——消毒してよ」
喉から掠れるような声が出た。
「消毒?」
「私が今、したみたいにして」
一つの賭けに出た。静寂に包まれる。
「えっ。それは……」
まーちゃんは躊躇った。口元に手を当てている。
断られるかなと直感した。
「——わかった」
だけど、予想を反する答えが返ってきた。
脈が速くなる。まーちゃんは、私のことを受け入れてくれたのだ。
彼女が優しく頬に触れた。
床に座る私を、立たせるようなことはしなかった。
むしろ、彼女が合わせるように、私の正面に座り込んだ。膝から流れる血は、もう止まっていた。
頬の傷口を、まーちゃんが焦らすようになぞった。
少しの痛みとくすぐったさが混ざり合って、気持ちがよかった。
彼女の顔がゆっくり近づいてくる。触れそうなほどの距離にあった。
細やかな息遣いがした。
数秒間そうしていただろうか。躊躇いながらも、まーちゃんは舌を出して、私の頬を舐めた。
まるで猫みたいだ。2回もすれば、血なんてすべて舐めとってしまう。
だけど、彼女は執拗に頬を舌でなぞった。ぐいぐいと私を押している弾力が、柔らかくなっていく。
「……はぁ」
まーちゃんがアンニュイそうに、ため息を漏らす。
舐められたところが、ひやりと冷たかった。
「こんな風にさせたのも、全部風香のせいだからね。わたし、本来なら真面目で通っているのに……」
「そうなの?」
「そうなのって……」
呆れたような物言いだった。
彼女の性格は"真面目"なのかな。
もっと他にぴったり当てはまる言葉がある気がした。
——もう、どうでもいいけど。
「……ねぇ。まーちゃん、頭がクラクラする」
「えっ。だ、大丈夫?」
「無理かも。ベッドまで連れて行ってくれる?」
「……」
ここは保健室だ。目と鼻の先にベッドがある。
カーテンが開けられていて、今は誰も寝ている生徒がいないことが一目でわかった。
「……りょーかい。立てる?」
「うん」
私たちは手を繋いで、ベッドまで移動をした。
靴がキュッと鳴る音が、室内に妖しく響く。
ベッドの前につくと、私は靴を脱ぎ、早速、布団の中へと潜り込んだ。
まーちゃんは、その場に立ったまま、私を見下ろしていた。
「…………隣に来る?」
「えっ」
「冗談だよ! ……まーちゃんにそんな度胸ないもんね」
「……」
少し煽ったら、面白いくらいに、彼女はムッとした。
頬を膨らまして、私の隣に潜り込んできた。
シングルベッドに二人で寝ているからか、寝返りを打つ余裕もなかった。
だけど、自然にまーちゃんとくっつけるのが嬉しかった。
「風香、暑いよ」
「えー。もう秋なのに?」
横になっているからか、いつもよりも解放的になる。
なんだか理性も働きにくくなるような気がした。
体を反対側に向けると、まーちゃんが目を合わせてきた。鏡のように、彼女がゆっくりと同じ体勢になる。
私は左手を伸ばして、まーちゃんの身体に触れてみた。ジャージの上から、手探りで、ピトッと。
まーちゃんは身体を震わせた。だけど、何も抵抗しない。
それどころか、同じように私の制服に手をかけた。
まーちゃんが嫌がっていないか確かめるように、少しずつ手を下に持っていった。
ジャージと短パンの間に、手を入れて、彼女の肌に触れてみる。
冷たい手が、温かくなっていく。時間が経つごとに、私が意志を持ってまーちゃんに触れていることを、否応なく意識させられた。
彼女も、私のシャツをめくって同じことをした。おあいこというように、軽やかな手つきだった。
好奇心なのか。
それとも、場の雰囲気に飲まれているだけなのかはわからない。
そもそも二人っきりでベッドに寝そべっている状況が悪いのかもしれない。
でも、もう、何もかも遅かった。
布団を首元まで被って、その下では、好きなように動いている。
まーちゃんの肌をゆっくりと触ると、同じように、彼女の手が滑らかに動いた。
息遣いが段々と激しさを増してくる。
気づいた時には、私とまーちゃんの唇が触れていた。
どうしていいのかわからない。どんな風に接していいのかもわからない。
それでも本能が私たちを導くように、二人して溺れ合った。深く、もう、戻ってこれないようにと。
「風香、好き……」
「まーちゃん。私も好きだよ……」
まるで、この世に二人っきりになったみたいだった。
私たちの肌は重なり合い、互いの匂いは甘く混じり合った。
目を閉じて、ありったけの幸福感に酔いしれていった。




