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19/22

19:二度目の開花(本編終了)

最後なので六千文字あります

「おそらく今夜、咲くと思うので、夕食を早めて時間をとろうと思うのだが」


 朝食や昼食の時は、まだ仕事や作業があるので雑談の時間は少ない。

 たまに時間が合わなくて無理になることもあるし。

 誰かと食べることが楽しいから、全然かまわないんだけど。

 私もシルス様も外に出ていないので、話題もそこまであるわけじゃないしね。

 でも今日は昼食後にそう言われて、私のテンションは爆上がりだ。

 勿論、はい喜んで! ぐらいの返事を元気よくする。


 シルス様は楽しそうに笑って、午後のお喋りも夜に回そうと決めた。

 深夜に咲くラフレシアだけど、魔力を流せば多少早められそうだという。

 遅くなると翌日に響いてしまう、仕事に支障をきたすのはまずいものね。


 ……にしても、どうして朝食の時に言ってくれなかったのかしら。


「朝そんなこと言ったら、仕事が手につかなくなるからですよ」


 温室に行くべく服を着替えをすませ、オーゴさんに行ってきますと連絡。

 つい口に出ていたらしく、後ろにいたマヤにツッコミを入れられてしまった。

 たしかに、と納得してしまったのでどうしようもない。

 隣にいたオーゴさんも深くうなずいている。

 私の返答は予測ずみだったようで、調理場のほうも時間を早めて大丈夫。

 周囲にバレバレすぎてちょっと恥ずかしいが、誰も否定してこないのは嬉しい。

 でも、リッサ様は本当に魔花が好きなんですね、という声に、本当のことを伝えられないのは悔しい。

 あと、私が布教しても、温室を見たいってひとがいないのも悲しい。


 ともあれ、今夜を楽しみに、温室でみんなの世話をする。

 念のためあまり近づかないように、魔力も流さないように、と注意されていたから、今日は水やりだけだ。

 離れたところから見るシルス様のラフレシアは、再び太く育った茎と、頂点に花の蕾。

 この時点では前の時と大差ない。

 今度はどんな花が咲くのだろう、とても楽しみだ。


 そして、いつもより早い時間にはじまった夕食の時間。

 楽しみがあるからって、ごはんはないがしろにはしない。

 というか、できないくらい、お屋敷の食事はおいしい。

 毎日フルコースレベルな豪華なものではないが、手間暇かけているし、見た目も綺麗だ。

 実家の食事はみんなと同じ感じだったから、私はどうにも庶民感覚が抜けない。

 そんな私でも楽しく食べられるのだから、ここの料理人はすごいと思うわ。


「少ししたら部屋まで迎えに行くので、待っていてもらえるか?」


 食後、遠慮がちに問いかけられたので快諾する。

 流石に、一人で先に行くようなまねはしない。

 アレは得がたい経験だったが、危険だったのもわかっているもの。

 行き先は温室だし、夕食の服装でいいか、と思って部屋に入ったら、マヤたちがにじり寄ってきて。


 ……結果、よそいきの服を着ることになった。

 夕食の時も勿論着替えているが、それより明らかに気合いが入ってる。

 これはちょっとやりすぎじゃないかしら。


「行き先は温室なのよ?」

「でも土を触るわけじゃないんですよね? でしたらちゃんとしましょう」


 圧がすごくて負けた。

 素敵なドレスを見るのは好きでも、似合うと思えないので躊躇してしまう。

 でもマヤは自信満々に着せてくれたし、嬉しそうだ。

 侍女の仕事には、主人を飾りたてることもあるものね。

 そう考えると、全然仕事させられていないわけで。


 これも主のつとめかしらと考えていると、シルス様がやってきた。

 ……なんでこんな格好を? とか、思われないかしら、急に不安になったわ。


「──ああ、初日以来に久しぶりに見たが、よく似合っている」


 杞憂だったどころか褒められた。

 ちらっと見ると、嬉しそうなマヤの顔。親指立てそうな勢い。

 シルス様を見ないようにと、衝立のむこうにいるため、彼女の表情を確認できたのは私だけだ。


「仕立屋を呼んだ甲斐があった」


 そうか、考えてみたら、このドレスもシルス様がお会計してるわけで。

 邸における金銭の采配は女主人の仕事とはいえ、使いすぎはよろしくない。

 買ったものが無駄でないか、今ならシルス様も直に見て確認できる。

 ……うん、着ているのがいまいちな私ってことを除けば、大事なことだわ。


 では、とさしだされたシルス様の腕を借りる。

 すぐに腕の触手が絡みついてくるのだが、いつもより動きがせわしない。

 ラフレシアがまた暴走しないか気をつけるつもりか、左右に揺れている。

 守っている気なのかしら、ときめいちゃうわね。


 道中で見かけたのはオーゴさんだけ。

 行ってらっしゃいませ、と送られて、夜の庭を歩く。

 前回は夢中だったが、等間隔に灯りのついた庭もとても綺麗だ。

 今度、一緒に散歩できないか聞いてみようかしら。


 ──そういえば外を歩く時って足の触手は、と見ると、普通に引きずっている。

 暗いから床が汚れているかはわからないが、触手は土とかつくわよね。

 一本ずつ洗うとなると、結構大変そう。

 なんてことを考えていると、あっというまに温室に到着し、中へ入る。

 ラフレシアはまだ咲いていない、私が前回行った時より時間がはやいからかしら。


「自然にも咲くが、魔力を感知すると促進されるようだ」

「ああ、だからあの時……」


 急に隣に魔力反応が出たから、自分の栄養として摂取しようと花を咲かせたわけだ。

 本来、そうして捕食されるのは小さな虫系の魔物たちなんだろう。

 シルス様が魔力を注いでいたから、普通より大きくなって、人間サイズも捕まえられたわけだ。

 ……そういえば、考えがあって魔力を多く流していると言っていたけど、理由を聞きそびれてた。


「あの、……」


 声をかけようとして、止まる。

 いつのまにかシルス様は、自分のラフレシアに手を掲げていた。

 同時に触手が伸びて、ラフレシアの茎を囲うように取り巻いている。

 長さの調節もできるなんて……! と新たな発見に声をあげそうになる。

 でも、魔力を流しているなら、集中しているはずだ。

 嬉しい悲鳴をあげて、なにかあってはいけない。

 ぐっとこらえて、代わりに一挙手一投足……触手だと違うかしら? をガン見する。

 特等席で拝見できるのよ、逃してなるものですか。


 しばらくすると、あの時と同じように茎が震えだして、弾けた。

 現れたのはおそらく同じような触手たち。今回も、シルス様の触手っぽい色をしている。

 頭上に咲く花も青、……シルス様の瞳の色と近い。

 じゃあ私が咲かせても、触手はついてこないし、花も緑になるのかしら、植物としては正しいけど、普通すぎて微妙だわ。


 前回と違い、咲いたラフレシアは落ちついている。

 いや、触手はうごめいているんだけど、襲いかかったりはしてこない。

 シルス様がその後もしばらく魔力を注ぐと、ざわついていた茎部分の触手も静かになった。

 ……栄養を十分に吸いとったのかしら。


「テンタリッサ嬢、今なら近くで見ても大丈夫だろう」

「ありがとうございます!」


 やった! と叫ぶのは我慢して、いそいそと近づいた。

 ぱっと見るとかなりシルス様のと似ている。

 でも、よく観察すれば、こっちはやはり植物だなとわかる。

 どの触手も下半身から生えているものに似ていて、上半身からの細くてかわいいのはなさそうだ。

 対象を捕まえるためだから、大きめになるびかもしれない。


 その手の話で出てくる、ザ・触手! という感じは二度目でもやっぱり最高。

 対象を粘液で絡めとり、花からの香りで感覚を鈍らせ、魔力を吸うのも理に適ってる。

 普通のラフレシアとは違う成長だけど、植物らしさは失わないのか、シルス様の調整が巧みなのか。


 私の斜め前にはシルス様がいて、シルス様の触手たちは、開花後は私の前で待機している。

 万一の警戒をしてくれているのかと思うと、めちゃくちゃ嬉しい。

 触手たちは命令に従わないこともあるっていうけど、今はラフレシアという懸念材料があるから、共同戦線なのかしら。


 ……ちょっとだけラフレシアに絡んでほしいけど、駄目かな。

 私一人だと脱出不可能でも、シルス様がいるし……

 安全な状態で恐い思いをしないなら、経験したいじゃない。

 シルス様自身の触手との違いも感じたいし。


「襲ってくる可能性は捨てきれないから、前には出ないように」


 半歩前に出た途端、制止された。

 小さい触手が止めるように指に絡んで、後ろへひっぱろうとする。


 やっぱり駄目か……

 残念だけど、これでまた倒れたら、お世話自体できなくなるかもしれない。

 私が育てているラフレシアまでとりあげられたら……嫌すぎる。

 間近で見られるし、シルス様の触手はさわってもいいのだから、これ以上要求したらバチが当たるわね。

 ラフレシアから生まれた触手たちは、しばらくざわめいたあとで、茎のほうにもどっていった。

 みるみるくっついていったら、再び、茎の形になり、長さも縮んでいってしまった。

 てっぺんの花も気づいたらしおれていて、全然見てあげなくてごめん。

 どういう仕組みなんだろう、不思議すぎる。

 これは今後も調べたいなと思っていると、もう安全だと判断したらしい、シルス様がこちらをむいた。

 くっついていた触手たちも、シルス様のそばへもどっていく。


「前に襲われたから、実際に見たらと心配だったが……安心した」

「怖がるかもですか? ありえませんね」


 いや、直後は少しだけ恐かったけど。

 でもあれは、あくまで私のミスなのだ、ラフレシアは自分の生態に従っただけのこと。

 普通のひとならトラウマだけの案件も、元気になった私にとってはご褒美でしかない。


「安全面が確保できるようになったら、もう一回くらい絡まれたいです」


 ──あ、しまった。うっかり口走っちゃった。

 シルス様はぎょっとした顔になっている。


「被虐趣味ではないですよ、ただその……触手に絡まれるって憧れというか……」


 言い換えても残念さは変わらないどころか悪化した気がするわ……

 だってよく読んでいた本やゲームはほぼ年齢制限つきのもので、捕まる描写がお約束だった。

 無理矢理描写は苦手だったけど、そうじゃないものは少なかったし、絡まれているシーンは画面映えするからだろう、山ほど見てきた。

 結果、遭遇したいシチュエーションになってしまうのは、しょうがないと思う。


「──それは、私の触手でも?」


 しばらく無言だったシルス様は、思い詰めたような顔で問いかけてきた。

 あれだけ小さい触手に絡まれてはしゃいでいるのを見たのに聞いてくるの? と思ったが、そういえば下半身から生えているほうはふれてきたことがない。

 私が頼めばさわらせてくれても、むこうから絡んでいないことに気がついた。

 もしかしなくても、ラフレシアの件があったから、控えていたってことかしら。

 思いだして怖がるかも、って?


「むしろシルス様の触手のほうが嬉しいです」


 植物の触手しか知らなかったら、思わなかっただろう。

 でも今の私は、シルス様の触手を知っている。

 触手はすべて素敵だと強く言いたいが、中でも一番はと問われたら、速攻で答えるわ。


 シルス様の触手がこの世で一番だって。


「危険の無い触手が好きだというなら、たとえば私以外が生やしていてもいいと思うが」


 ……どうだろう?

 考えたことなかったけど、他にも存在している可能性はあるわよね。

 シルス様の働いている場所にもいるのかしら、だったら見てみたいわ。


 でも、絡んでほしいかという問いかけは──


 シルス様じゃない誰かの触手が、指や腕に絡んでくる。

 ぬるい温度、質感……それが、全身に。


 想像してみると、なんだか……嫌、だわ。

 見たら萌えるだろうけど、でも、絡まれるのはお断りしたい。……どうして?


「──ああ、こんな姑息な真似はよくないな」


 触手ならなんでも好きなはずなのにとショックを受けていると、シルス様が突然、私の前に膝をついた。

 ちゃんと足の触手も同じように低くなっているのに感動してしまう、って、そうじゃなくて。


「リッサ、私はあなたを愛している」


 はじめて愛称で呼ぶのが告白の時というのは、あまりにダメージが大きすぎる。

 しかも、吐息に混ぜては艶やかすぎて、なおさら攻撃力が高い。


 じゃなくて。

 これ、告白よね、今、私、シルス様に告白されたわよね?


 ややパニックになっている私の手を、シルス様がそっととる。……小さな触手も一緒に。

 どちらも微かに震えている。

 触手のそれも、今までの楽しそうな震動じゃない、多分、緊張なんだ。


「受け入れてくれただけで嬉しくて、はじめはそれだけで十分だった。だが今は駄目だ」


 きゅ、と小さな触手が絡んだのは、偶然かわざとか、左の薬指。


「契約上の夫婦では我慢できない。他の触手を好きだと言うのも、理解できるが妬いてしまう。自分でも疎んでいたことがある存在なのに」


 ここで、他の男性に、とならないあたりが私とシルス様の関係よね。

 ……実際、シルス様との会話の中で、人間の男のひとの話は、……オーゴさんとコックと庭師くらいだわ。


「……とはいえ、急に言われても困るだろうから、まずは私があなたに恋愛感情を持っていることを、知ってほしい」

「ここまで告白してそれで引くんですか!?」


 我慢できずに叫んでしまった。

 そんな返しがくると考えていなかったのか、シルス様も触手もきょとんとなる。

 いや触手はぴょんと跳ねただけで、心境は私の想像だ。

 この流れって、本当の夫婦になりましょうって持っていくところよね?

 え? 私が間違っているの?


「だがあなたが好きなのは、私の触手だろう?」


 原因は私(の触手萌え)だった──!


 いやでもたしかに、最初は触手しか見ていなかったし、話も触手が絡むものばかり聞いていたし。

 ……どう考えても私が悪いわ……

 これはちょっと、あとで猛省しないと。


「そうですけど、さっきシルス様に言われて気づきました。他のひとが触手を持っていたとしても、それに絡まれるのは嬉しくないです」


 植物だったら意思がないので、シルス様作以外でもイケる気がするが、黙っておく。

 人間のことに関して話してるから、今はノーカンよ。


「シルス様の触手だから最高なんです」

「……触手が先なのかな」

「……えーっと……」


 シルス様ですと言い切れない己がいる。

 ばつが悪くて目を泳がせたら、我慢できないとシルス様が大爆笑した。

 触手たちも楽しそうにわさわさしている、笑うところなの?

 笑いながら立ちあがったシルス様は、私の手を両手で包みなおす。


「まあ、今後、私が先になるよう努力する目標ができたからいい」


 すごいポジティブ思考だわ。

 というか、告白ってこういうものでいいのかしら。

 前は年齢=恋人なしだったから、実際の告白シーンの正解がまったくわからない。

 でも、私たちらしいのかもしれない。


「……では改めて、リッサ、私の本当の妻になってほしい」

「──はい、よろしくお願いします、シルス様」


 嫌だと断る理由はひとつもない。

 触手が最高なのは当然だけど、シルス様の優しいところとかも、大好きなのだから。

 ただ、いきなり恋人……妻に格上げだと、どう接していいのかわからないから、ちょっとずつお願いしたい。

 シルス様もいわゆる「おつきあい」経験は少なそうだし、お互い様ということで。

 ゆっくり歩み寄らせてもらいたい。


「その……抱きしめても?」


 おずおずと問いかけてくるシルス様の声と、触手の動きが心境をよく伝えてくれる。

 うん、この調子なら、段階を踏んでくれそう。

 うなずいて自分から近寄ると、はやる触手を制して、まずシルス様の腕が伸びてきた。

 共生相手にヤキモチって変な感じと思っているうちに、そっと抱きしめられる。

 力加減がわからないのか、抱擁というより接触って感じ。

 むしろ、まわりの触手の感触のほうが強いくらい。

 だから思い切って自分から腕を回して力をこめると、びくりと身じろいだあと、同じくらいの調子が返ってきた。


 おそらく触手のためだろうハーブの匂いが強くなって、シルス様に抱きしめられている実感がわく。

 ……と同時に、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。


「な……慣れませんね」

「……そう、だな」


 カタコトの会話の応酬、こどもよりひどいんじゃないかしら。

 恋愛初心者ふたりって、先行き不安な気もする。

 ……でも、恥ずかしいのと同じくらい、嬉しくもある。

 少なくとも、シルス様の触手がいつのまにか絡んでいたのにも気づかないくらい、夢中だった。




 そんなこんなで名実ともに夫婦として歩きはじめた私たちは、色々あって社交の場にも出るようになったり、もっと先はこどもにも恵まれたりして、めでたしめでたしを迎えるのだった。

本編はここまでです。

あとは番外編が三話ほど。

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