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18/22

18:変化の予感?

 素顔のシルス様と会う機会がいっぺんに増えてから数日。

 私は、食事や喋る時に、シルス様の顔を見て、なんとなくそわそわするようになってしまった。

 触手を見るとはしゃいでいるおかげで、まだ本人には怪しまれていない。

 シルス様自身はエスコートの時しか接触しないけど、触手に対しては寛容で、私のやりたい放題を許してくれる。

 大好きな実物に触れて喜んでいると、ふと視線を感じ、上を見れば美形が優しく微笑んでいる。

 二重の萌え攻撃を受けている状況だ。

 これに私が耐えられるわけないじゃない。

 前世、イケメンと言われる芸能人にときめいた記憶はないんだけど、実はミーハーだったのかしら。

 でもシルス様に会うとまず確認するのは今日の触手の様子だから、萌えの一番はブレてないと断言できる。


「……あら?」


 いつもどおり温室に行き、まずはみんなの様子を確認。

 すると、シルス様のラフレシアが大きくなっていた。

 あの日以来、制限しているようで大きな変化はなかったが、上のほうには蕾もつきだしている。

 ということは、またあの開花が、触手が見られるのかしら……!

 考えるだけでわくわくしてしまう。

 あとでシルス様に確認しようと決めて、自分のほうのラフレシアも確認。

 こちらは、相変わらずゆっくりした成長だ。

 やはり私の魔力では、たいした変化は期待できないらしい。

 残念だが、普通に花が咲く姿も見たいので、気を抜くことなくお世話をする。

 他の植物の手入れもしっかりすませると、大満足で温室を出た。


 まだシルス様の書斎へ行くにははやいので、お茶をもらったあとは、小さな机に置いてある籠から毛糸と編み針をとりだす。

 不器用なので練習あるのみと、簡単なものから編んでいるところだ。

 なんではじめたかって、それは勿論、シルス様の触手のため。

 冷たい床などを歩く……這う? 時は、動きやすいように潤滑剤を出すことがあるらしい。

 触手は歩きやすくなるが、邸の廊下はベタベタになってしまう。

 それもあって歩く場所は最低限にしているんだそうだ。

 試しに、シルス様の通る場所にはカーペットを敷いて摩擦を減らしてみたが、材質によってはやはり潤滑剤を出す。

 カーペットの上に粘液を出すと、そちらのほうが洗濯が大変になってしまう。

 だからこの邸の廊下や共有部分は、床がそのままだったのね。

 シルス様の書斎も床そのままで、邸の主なのにと不思議だったが、謎が解けたわ。


「でも、私がさわっている時は出しませんね」


 触手もののお約束だから、どんな感じかかけてほしいのに。

 足の触手を指でなでながら正直に呟くと、シルス様が空咳をひとつ。


「汚してしまうと、掃除の手間をかけるのが申しわけないからな」


 それはそうだわ。

 私の手が汚れるだけなら、洗えばいい。

 できれば洗う前にこっそり確認してみたいけど。

 でも、ドレスに飛んで、落ちないシミがついたら。

 マヤたちのお説教も恐いし、触手が悪く言われるのも嫌だし、諸費用を出してくれたシルス様にも申しわけない。


 自分の浅慮を恥じているところで、移動には気を遣うとこぼしたシルス様。


「なら、被いをつければいいんじゃないですか?」


 つい口に出した。

 手や足と同じ扱いなら、手袋や靴下をつけたっていいだろう。

 ただ、犬や猫も、洋服を嫌がる子がいるから、触手も大丈夫かはわからない。

 シルス様はそんなこと考えたこともなかったようだ。

 暑さ寒さが触手から伝わっていたら、もう少し違ったかもしれないと呟いていた。

 共生しているといっても、わからないことも多いようだ。


「手芸の得意なひとに頼んでみたらいいと思います」


 服装に合わせて色々と変えたら素敵じゃないかしら。

 触手だけになら、かわいい色とかも使えるし、巻きつけるアクセサリーつけるのもアリかもしれない。

 リボンは流石にシルス様が困りそうだけど、なにせ長さがあるから色々と飾りがいがある。

 季節ごとの飾りをつけたら、流石にオブジェ扱いで怒られるかもだけど。

 この世界にはクリスマスはないが、もこもこの綿とかつけてみたいわよね。


「……あなたは用意してくれないのか?」

「ええと、できるならしたいですが、私は得意ではなくて……」


 シルス様、なんとなくしょんぼりした声をしている。

 端のほうの触手も出てきて、自己主張するみたいにうねりだした。

 服が嫌なのかしら、逆? 言いたいことまではまだ悟れないわ。

 推しの身につけるものを自分がつくるって、夢見たシチュエーションだけど、実力が伴えばの話。

 淑女の嗜みでひととおり基礎は学んだものの、素人が頑張ってますね、程度。

 絶対、専門家に頼んだほうがいいと思う。


 でもシルス様は、注文するとどうしてこの形状なのかなどを聞かれてしまうから、困ると返した。

 たしかに、筒状の長いものって……他に浮かばない。

 アームカバーだと言えばなんとか? でも、長さが桁違いなのよね。

 何個も発注して、つなげてもらうとか。ああでも、何個も同じものを注文するのも変よね……

 使用人用なら不思議じゃなくても、主用のいい素材だったら、すごく怪しい。


「それに、今まで袖のゆったりしたものばかり仕立てていたから、不思議がられるだろう」


 めちゃくちゃ納得してしまった。

 シルス様の説明にうなずいているうちに、私が試作品をつくることになってしまった。


 ……あれ? もしかして、丸めこまれた?


「邸の者に本当の姿を見せたら、頼もうとは思う」


 このお屋敷の使用人の一人は手仕事が上手で、社交用のドレス以外なら概ねつくれてしまう。

 裾上げボタンつけは言うに及ばず、ちょっとしたものならもう? って速度。

 触手用のカバーだって、寸法さえ決まれば簡単だろう。

 でも、まだシルス様の姿を知らない状態で命じるのも、と言われたら……断れない。


 してやられた感もしつつ、嬉しいのも本当で、デキに文句を言わないことを条件に承諾した。

 私と対面するようになって、心境の変化があったらしく、いずれは使用人の全員に姿を見せる計画を打ち明けられている。

 勝手な主観ではあるが、きっとみんな、びっくりはしても、気持ち悪いから嫌だとはならないだろう。

 慣れるまではちょっと……かもしれないが、シルス様に受けた恩義が勝ると思う。

 シルス様の勇気が出るまでは、そばで応援させてもらう所存だ。

 対面時、不格好でもカバーがついていれば、見た目のショックは和らぎそう。

 いつかの時に役立つなら、頑張るしかないだろう。おめかしした触手も見たいし!


 ……と、決意したものの、最初からつくるなんて無謀ができる腕はない。

 ということで今は、まっすぐ編むだけのマフラーに挑戦中だ。

 理由を隠してくだんのひとに教わりに行ったら、大喜びで教えてくれた。

「愛ですね!」ときらきらした顔で叫ばれて、触手相手なことは伏せて「そうです」と返した。間違ってない。


 完成したら見たいとシルス様にお願いされているので、編み目が飛ばないよう、めちゃくちゃ注意している。

 おかげで、少し編むと目やら肩やらあちこち痛くなるのよね……

 しんどくなったところでやめて、まとまってきた資料を読んでいれば、シルス様の書斎へ行く時間になる。


「今日もお仕事お疲れ様でした、シルス様」

「ありがとう、テンタリッサ嬢」


 そういえば、オーゴさんすら私をリッサ様と呼ぶのに、シルス様はフルネームだ。

 実家で呼ぶのは父だけだったから、苦手だったフルネームも、イケボに呼ばれたおかげで上書きされた。

 今では特別っぽくて嬉しいなんて、やっぱり私ってミーハーだったのかしら。

 新たな発見をしつつ椅子に腰かけると、いつもはすぐ出てくる上半身の触手が見当たらない。

 どうやら、袖の奥のほうでざわついているようだ。


「シルス様、体調が悪いんですか?」


 触手の元気がないということは、宿主であるシルス様に問題があるということ。

 オーゴさんからなにも聞いてないけど、無理して仕事をした可能性もある。

 いつもなら私が席につくかどうかで挨拶にきて、気が早いとシルス様に窘められるくらいなのに。


「……いや? 体調に問題はないが」


 怪訝そうな顔のシルス様、自覚がないのかしら?

 顔色は普通なんだけど、触手は相変わらず、出てこようとして少し引いて、を繰り返している。

 やっぱりおかしい。


「でも、みんなの様子が変ですよ」


 私の視線を追いかけて下のほうを見たシルス様は、そこで気づいたらしい。

 すると、思いだしたかのように背中から触手が出てきた。

 こんにちは代わりのいつもの指に絡むのをやってくれる。

 さわり心地や温度は同じくらいね。

 ……あ、でも、いつも先にくる触手とは違う気がする。

 でもシルス様は今日も変わらず美形っぷりだし、うーん?


「……その、ラフレシアの様子は、見ただろうか?」

「はい! その話をしようと思ってました」


 躊躇いがちに切りだされたが、是非とも聞いておきたいことだ。

 魔力の与えすぎで私を襲ってしまったからと、シルス様はあれ以来、過剰な魔力を注がなくなった。

 他の植物は夜間に変化するものはないので、私も行っていない。

 もし夕食後外に出る時は、侍女以上に声をかけるようにと言われてる。

 警備は持ち場を動けないから、報告が遅れてなにかあったら困るから、と。

 逆を言えば、ちゃんとすれば見に行っていいってことよね。


「調節しているので、おそらく近日中に咲くと思う。それで……一緒に見ないか?」


 シルス様いわく、今回は一度に流さず加減していて、成長を把握できている。

 もし前回のようになっても、暴走の対処法はわかっているから安全だ、とのこと。

 あの時のシルス様は、動じることなく格好よくラフレシアをいなしていた。

 万一があっても、一緒なら安心だ。

 魅力的すぎるお誘いに、私は一も二もなくうなずいた。

 断るわけがないのに、シルス様はやっぱり、触手を見られるのに抵抗があるのね。

 疑問系にするあたりがその証拠だろう、だから私は威勢よく答えるまでだ。


「二度と見られないと思っていたので、今度こそしっかりこの目に焼きつけますね!」

「いや、次で問題がなければまた咲かせるつもりだが……」

「その時はその時でまたしっかり拝見します」


 だってほら、魔力の注ぎかたが違えば、咲きかたとかも違うかもじゃない。

 調査のためにも、大事なことよね、うん、と、あとづけ満載な理由を考える。

 シルス様は私が熱弁をふるっているのを、楽しそうに笑って見守ってくれた。

 今日はじめて見る笑顔に、やっぱりこの顔のがいいと思う。


「では、咲きそうな日は声をかけるから、一緒に行こう」


 近日中の楽しみすぎる約束に浮かれる私が、実はシルス様が緊張していたと知るのは先の話。

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