14.またまたその頃のダメおやじ
いつもの、騎士団の執務室。いつものように椅子に座り、本日のスケジュールを確認する。
するとノックと同時に団長が「おう!」と、どかどかと入室してきた。
「団長、いつも返事を聞いてからお入りくださいと……」
「細かいことはいいだろ。それより休暇はもういいのか?」
「…………」
「まあ、家も休まらないのは想像がつくが……。お前ばかりに苦労をかけているのも理解しているしな。娘もまだ小さいのだろう?こう言ってもあれだが、宰相どのの手前もあるしだな、もう少し……」
わたしの長い沈黙に、言い訳のような言葉を重ねてくる。団長だって悪い人ではないのだ。騎士団だって政治に巻き込まれるのは仕方がない。
が。
今はその言葉が滑稽なものにしか聞こえない。
「……わたしはいなくてもいいようなんですよ」
「は?」
団長がまじまじとわたしを見てくる。そして一瞬の沈黙。
「いやすまん、聞き間違いか?お前がいなくていいと言われたように聞こえたが」
「聞き間違えではないです。言葉は濁していましたが。……なぜか、娘を可愛がり、娘だけがいればいいようで」
「はあっ?!あり得るか?あのリーゼロッテ・ドロスだぞ?!!」
「あり得るもあり得ないも、事実ですので」
わたしは不機嫌そうに返す。
……なぜ、わたしがイライラしているんだ?今朝の見送りにも彼女は現れなかった。……いや、わたしがいいと言ったのだが。
『旦那様、明日の朝はお早いのですか?』
『……早い。見送りなら、いらん』
わたしの言葉に彼女は執事を見ると、執事はとてもいい笑顔で頷き。
『奥様はまだまだ夜に何度か目を覚まされるお嬢様に付き添っていらっしゃいますからね。お言葉に甘えてよろしいかと』と宣った。
『侍女に任せれば』と言うと、『わたくしが傍にいたいのです』と返され、『わたくしが見送るのもお手を煩わせますわよね。お言葉とおりに致しますわね』と、またこちらもいい笑顔で終わりにされた。
自分で言い出した。わかっている。いるのだが、このモヤモヤとした思考はなんだ。
「……お前のそんな難しい顔も珍しいな」
「……娘にはいつも仏頂面と言われましたが」
「ぶはっ!!よく言葉を知っているな?!いやすまん、いつもの冷たく見える仏頂面より、人間らしい仏頂面だと思ってな」
……仏頂面に人間味も何もないと思うが。そしてわたしはそんなに常に仏頂面なのか。そういえば、エレーナにも『意識しないと怖い人に見られちゃうからね!ちゃんと笑って』と、日常的に言われていたな。
エレーナはいつも笑顔だった。初めは苦手意識があったほどだ。誰にでも優しく美しく、公明正大と言えば聞こえがいいが、ただの頭の足りない令嬢なのではとさえ正直思っていた。日々を重ねていくうちに、それだけではないしたたかな強さにいつの間にか惹かれていたのだが……。
「ああ、仕事の事もよく聞かれたな」
そう、だからだ。昨夜の晩餐時にエレーナとの思い出が蘇って、気づいたら口に出していた。あのリーゼロッテ嬢がそんなことを聞いてくることなど考えていなかったせいもあり、驚きもあったのだ。エレーナの話を出した後の空気の重さには、さすがのわたしも気づいたが、まさかのリーゼロッテ嬢が一番食い付いてきていたような……。
「……なんだ、また難しい顔をして1人でブツブツと。俺はそろそろ戻るぞ。お前ももうすぐ訓練だろう」
「は、失礼しました」
団長がいることを完全に失念していた。失態だ。
少し慌てて立ち上がり見送る。
ドアの前まで進んだ団長が一瞬足を止め、
「今のお前、エレーナさんに初めて会った頃と似ているよ」
と、ニヤっと笑い、ヒラヒラと手を振って出て行く。
「……は?それは、どういう」
残された部屋で、わたしは一人呟いた。




