白に統べられたリボルブランタン 其の一
⭐︎⭐︎⭐︎ 【絶命刀】 オール・フォルタム
甘かった。この世界でも、日本でも、うまくいくことなんてあるはずがなかったのに。私は、いつからこの世界が優しい世界だと錯覚していたのだろうか?
知っていたはずだった。この世界は、どれだけ準備しても、不測の事態というものが、あるはずだった。なぜ?なぜ私は、自分の計画が成功すると考えていたのか?
見くびっていた。この世界のえげつなさを。どこまで行っても、最悪というのは襲ってくるもので。できうる限りの準備をしたからこそ、この結果に繋がったのだろうか?
「……本当に、腹が立つ」
それは、この状態を引き起こした存在というよりは、己への自戒と、自責の念が多分に含まれていて。
「立ち止まるわけには、いかない。例え緊急事態であったとしても、それでも、進むと、決めたんだよ」
煌々と燃える森林を視界に収め、痛ましさを感じさせる足を使い、それでも私は立ち向かう。私が、私たちが作り上げた戦場をぶち壊し、降臨した白虎を睨む。例えこの身が無惨に散る可能性が高いとしても、私は生き残るために今の私を死地に運ぶ。
「来なさい、白虎。青龍の二の舞にしてあげるわ」
空気をさいて、光を纏う虎が吠えた。
⬜︎ 数時間前
「うーんいつにない曇天模様」
今日が準備できる日で最後になる。明日にはもうこちらから戦いを仕掛けなければ、先手を許すことになるだろう。実際、今も周りでは少しづつ円を描くように屹立する光の柱が、その円の中心へと迫ってきている。昨日の時点でそれはもう確認済みだ。
「……レベルは、もう少しなんだけど。上がりきるかなぁ」
口ではそんなことを呟くけれど、私は知っている。恐らく、今回の白虎戦までに私が進化をする可能性は低いだろうと。ベフェマはあんなんでもレベリングには適性があるステータスとスキルを持っていたから急成長をして、そのまま進化……なんてことができたけど、私はそれほど適性はない。
「ヴェイガーも進化できそうな気もするし……困っちゃうなぁ」
私がたちと出会った時点でヴェイガーはそこそこのレベルを有していた。それこそ、数日間なぜか同等のランク帯の魔物が蔓延るこの地で、レベリングに集中したのならばあるいはと思えるほどに。
そう言うわけで、私は他の2人とは違い、今のままの力で、あの白虎に対抗しなければいけない。まぁ称号は進化できたから少しはマシなんだけどね。それでもやっぱり進化ほどの大きな戦力増強にはならなくて。
こんな状態であいつに挑む。そう思うと、動かないはずの心臓が、鼓動をしたような気がして……そういえば、青龍の時もなんか胸が熱かったりしたような。でもあれ、どっちかって言うと、心臓っていうよりはもっと概念的な……。
「おっと、今は現状取り得る策を練らなければ」
今日は最終日ということもあってちょっと急ぎ目にレベリング中である。まぁできる限りはやっておきたいしね。
「今更無機物系統の魔物さんには負ける可能性はないんだよねぇ」
今もまた、『気配感知』で見つけておいた岩の魔物をハンマーで粉砕する。
べしっ。
『------』
「……」
粉砕されなかったので刀で両断した。
『条件を満たしました。レベル75へ上昇しました。』
「……ふっ、余裕だぜ(キリッ)」
締まらないしイタいので記憶から消すことにした。というわけで新しい魔物へ向かって『気配感知』オン!
「見つからないなぁ」
なんでですか?キレますよ?こういう時に限って何も起こらないのはなんなんですかねぇ?やっぱりガチャの女神関与してるのでは?(ガチャ無関係)まぁでもガチャって運要素あるしなぁ。物欲センサーと密接に関わってるガチャの神様はやはり物欲に敏感なのかもしれない。
「……いや、こんな余裕ある思考する暇ないんだけどなぁ?」
だって明日決戦ですし。仕方あるまい。ここは私の最高パフォーマンスを引き出すために瞑想(迷走じゃない)を……!
そんな風に若干迷いながらも魔物を切り倒すこと数時間。レベルを上げて、後もう少しでレベルがMAXになりそうで、案外なんとかなるかもしれないと少しホッとした時に。
「……ん?」
まるで、安心した心の隙間につけ込むように。安心してレベリングの疲労を癒そうとした私達を嘲笑うように。火が傾いて、斜陽が赤い輝きを虹色の森に放つ頃、私は、ベフェマは、ヴェイガーは。離れた場所にいるにも関わらず、心境が一致した気がした。いや、確信した。
「こ、れは……!」
ふと、空気が揺れた気がした。ざわりと、風もないのに木が枝を揺らしたような……
「……ッッッッッッ!??」
背筋が粟だった。悪寒が全身を巡る。ちょっとちょっとちょっと……!?それは、ないんじゃないのかなぁ!?仮にも私達よりめっちゃ強くて、ボスキャラの位置についてる君がそんなことしちゃさぁ……!
「ダメでしょう、それはぁ……!」
見上げた先。少しづつ迫ってきていたはずの光の柱達は消えていて。
代わりに光の柱が描いていた円の中心からは、一つの巨大な柱が立っていた。どこまでも白くて、汚れを感じない神聖そうに見える柱。なのに、その柱からは悍ましいほどの殺気が、間違いなく私たちを滅してやるという強い意志を持った全力攻撃が来ることを表していて。
「っ、まずいまずいまずいっ!?」
今あの戦場を滅ぼされたら不利になる。致命的ではないが、軽いとは決して言えない、ただでさえ対抗手段が少ない私たちの策を終わらせられたのならば。きっと、勝てる確率はとんでもなく低くなるのではないか?いや、きっとなるだろう。
だから私は念話を使う。SPは削れるけれど、これで少しでも戦闘中の体力消費を免れるならば値千金の価値がある。
「あー、テステス!聞こえてるね!?状況を把握している前提で話すよ!戦場がぶっ飛ぶ可能性が高い!私たちであれは止められないのだから、森林内部での戦闘を想定してね!ベフェマは合図があるまで絶対に白虎に近づかないで!当初の予定よりもずっと遠くでね!?ヴェイガー、デコイ、任せたよ!!」
『り』 『御了解!なーのぉ!!』
そう言うが否や、先ほどから天に昇って行った光の柱が上空で弾けた。
それは、流星群のようで。それは、天罰のようで。滅びを予感させる最悪の攻撃が、初手に森林全体に叩き込まれた。
◆
きっと、いつかこうなることはわかっていて。予想外というのは、考えていなかった可能性が現れるから、時に面白く、時に苛立たしく私たちの心を揺さぶるのだ。ただ、今回の場合は、その予想外が起こる時期が悪かったのだ。白虎という、圧倒的強者に立ち向かうには、その予想外は、あまりにも都合が悪すぎた。
「あぁもう、最悪だよ……」
いつもの気味悪い光沢をした虹の林は見る影もない。いや、正確には遠くの方はまだ大丈夫そうだ。それに、意外と燃え残っている木が多いことから、この虹色の木は耐熱性に優れていると察せられる。だからと言って、この熱量相手では流石に分が悪かったようだけどね。
「これで、アドリブだらけの森林戦闘開始、か……」
天上から降り注ぐ光の星達を避け、逃げて、それでも辿り着いて見たのは、私が作った戦場だった場所。戦場、だったんだけどなぁ……。
どうしようという不安がある。このまま、まともに白虎と正面から戦えるのだろうかとも。そう、思って、とあることに気がついた。
「……あぁ、そっか。これは、燃えにくいからね」
拾い上げたそれは、私が戦場に施した追加工作で。それでも、これがあるならば、これがまだ使えるというのならば。
「……アドリブだらけよりは、きっとマシ、か」
そう呟いて念話を起動。短く戦場集合の意を告げて。念話の後にそのまま私は『隠密』を起動する。なぜかって?最初の一撃は派手にやらないとだからね。
木に身を預け、何分たったかわからないまま隠れ忍んでいたその時。
『ーー『エンジェルラダー』』
『っ、このっ!?』
ーー来た。
言葉にはならない感情が溢れ出る。一言に表せば来た、だろうけれど。それでもわかった。一目で、あれが、あの白虎だと。私の、ここをまだゲーム感覚で生きていた時の私を地獄へ叩き落としたあの白虎だと。
あぁ、怖い。きっと、いつになってもこの恐怖というのは消えないもので。それでも進むしかないからこそ、この震える心を持って、私は刀を振り上げる。
「……『致命穿』ッ!!」
『グルァ?』
戦闘が開始した。
⭐︎⭐︎⭐︎ 【無認遂行者】 ベフェマ
わたしは、オールさんの隣に立つことを望みながら、いつも大事な時には待機させられる。大切にされている、という風に捉える人もいるだろう。実際、きっとそう捉えた方がいいとも思う。けど、わたしはそんなポジティブに物事を捉えることができないから。
「こんの、うぅっ、旋風旗!」
『点、針濫満』、っ!?』
『ーー『エンジェルラダー』』
わたしは、オールさんに指示されたから、こうして遥か遠くから戦場を俯瞰するに留まっている。『強制同調』で近くの動物魔物から情報を受け取っているけど、それ越しで見えるオールさんとヴェイガーさんは当然というべきか劣勢で。
「鎌鼬ッ!」
『『光明転身』』
「くっ、ヴェイガー!」
『シィッ』
『『粉塵圏』』
一瞬にして白虎が光となったかと思えば、オールさんの攻撃を避けた白虎にヴェイガーが迫る。
限りなく最高のパフォーマンスを維持している2人は、同格相手であれば時間をかけずに撃破することも可能でしょうね。それでも、相手は格上だから。
『これ、は……』
「煙幕だよ!気合いで避けて!!」
『無、茶をォッ??!』
『『斬塵圏』』
「退いて!!弄風!」
また一つ。強力な攻撃を受けて、一筆書きの様に刀を振るったオールさんが無数の斬撃を全力で凌いだ。でも、それは2人の態勢が崩れることにつながって。客観的に見れば明らかにわかるけれど、突撃してくる白虎相手に、2人だけでは明らかに力量不足だった。
『わた、しは……』
必死に戦っている2人に対してわたしはどうか?青龍の時も、普通のレベリングの時も。一度としてわたしは死力を尽くして抗ったことがない。オールさんと最初に出会ったあの時だけが、あるいはと思えるもので……。
『でも、どうすれば……?わたしは、でも、ダメだって、オールさんが……』
ぐるぐると回る相反する考え。わたしは、未だ答えに手をかけてすらいない。
⭐︎
白虎は、自我を持たない。それは、この計画のために、その全てを捧げられることが決められたが故のものである、そのことについての記憶も、感情すらもない白虎にとっては、ただ言われた命令をこなしていればいいだけだった。
そんな変わり映えのしない生活に変化が訪れたのは最近だ。箱庭が作られ、白虎含む四体が特定の場所に転送され、そして白虎らを中心としたフィールド生成のシミュレーションが幾度も行われる中で、白虎の中に微かに残ったナニカすらも消えそうだった生活に、光が、差し込んだ。
「……!!…………!!」
最初は、森を魔物の間引きついでに散歩していた時だった。少し変な気配を感じて、そこに向かったそこは、何もなかった。いや、正確には、あった。
白虎は、どちらかと言えば頭脳や魔法などよりも純粋な戦闘能力にリソースが割り振られていた。端的に言えば脳筋であった。そんな彼は、その脳筋であった頭に僅かに残った思考能力を持ってして、そこには見えないけど、何かがあるという風に判断した。
だが、結論から言えば白虎はそれを無視して寝床へと帰った。
なぜか?
それは、なんとなくだ。そう、なんとなく。なんとなく、白虎が、懐かしさを感じたから。白虎に微かに残っていた自我の様な、思考能力の様な、そんな小さな何かが、懐かしくて、何か胸に込み上げるものを感じたから。それは、小さな変化だった。だが、白虎にとっては、不思議で、でも、壊したくないものだった。
だから、見逃した。彼にとっては些細なこと。しかし、相手にとっては、とある死霊にとっては大きな傷跡を傷跡を心に刻んだ出来事だった。
⭐︎
「ずっと思っていた。なんであんたはあの時、私を見逃したのか。わかっていたはずじゃないの?あんたの能力は、あの時私が想像したよりも遥かに上で、そして何より鋭かった。ねぇ、教えてよ。なんで?答えてみせてよっ!」
死霊が吠える。それは、あるいは対峙するトラウマが、怖くて怖くてたまらないから。隣で共に戦うヴェイガーにも、遠くで悩み動き出せないベフェマも、真の意味では理解できない。一度、いや、逃走を含めればすでに2度白虎と先頭を経験しているベフェマもオールの心境は理解できない。
それは、オールという人間性によるものだから。オールはベフェマが考える様な苦境で選択を迷いなく取れる人間などではない。オールは、ヴェイガーが考える様な地獄にすら適応し、前を向いて歩み続ける英雄的な人間ではない。
「オ、ォル!!奴が、答、えをぉ!?提示、する、とでも!!?彼、は!既にっ、ただの、機械だぁ!!返答など、あるわ、けない!集中力を、削ぐんじゃない!!」
オールは無言を貫き、そのまま攻撃を交わし続ける。オールは、待っている。恐怖を紛らわすために。そして、白虎が、否。人が、「見逃す」選択をするのは、なぜかと。
『……『秒割・六十』』
そして、白虎はそれまでとは一線を画す速度の攻撃で、回答した。
オールの頬をかすめ、その奥の巨木を薙ぎ倒すことで。
「『ッ!!』」
白虎は返答を行わない。それは、白虎にはもはや明確な自我が存在しないから。けれど、戦闘に必要な最低限な演算能力が残存している、せざるを得なかった結果として、白虎にはそこに付随した微かな人格が残っていた。それが、かつてオールを見逃し、今、明確にオールに警戒を促すという形の返答をした理由であった。
「……そう。わざわざ初見殺しを使ってまでそれをしたということは……自我がありそうだね。OK、ボコって真面目に回答させてやる」
「オール!来るぞ!!」
『『秒割・六十』』
「読めてる、ねっ!!」
続いた高速の一閃、今度は明確にオールの首を狙ったそれは、しかし見事にオールの刀が弾き飛ばす。たった一度、それだけの経験しかないはずのオールは、それでも明確にその攻撃の対処法を編み出していた。
「ヴェイガー、あれは単調な攻撃しか出せない。特に、高速攻撃ほどそれは顕著になってる。大体の予想をつけて、勘で避けて。考える暇は、ないからね」
『あ、ああ……』
オールの雰囲気が少し、だが明確に変化する。警戒しつつも他のことについて考察していたその顔は、遂に完全な戦闘態勢へと変化した。
『……』
白虎は答えない。しかし、少しだけ、緊張が緩んだような。気のせいかと思うほどの一瞬のその変化は、しかしオールからすれば明確な隙であって。
「神刺ぃ!!」
『『明鏡止水』!』
白虎との戦闘開始からおよそ数分。戦闘は小競り合いを終え、本格的な戦闘へと移行する。
◆
『……迷っている、暇はないーの』
同時に、状況の変化を同じく悟ったベフェマは、迷う思考に決断を下す。
小さな蛇は、自分の迷いが戦況を悪化するのだと知っていた。作戦通りならば、今ベフェマがいる場所よりももっと戦場に近い場所で合図があるまで……奇襲の、要求が出されるまで待機するはずだ。
しかし、ベフェマは今それよりも遥かに遠く。とあるスライムの、特になんの取り柄もない、強いて言えば経験値が強さに対して多いくらいの魔物の住処、その近くで決断をしていた。
ベフェマは、自分がそこまで上手い作戦を思いつくことはできるはずがないと思っている。実際、ベフェマに策謀の才があるかといえば、否、という答えが出るだろう。しかし、この日、この時、ベフェマが選んだ選択は、ある意味では最悪で、ある意味では最高のものだった。
『『強制同調』を一つのみに集中。これで、戦闘状況は把握しつつ……うん。オールさん、ヴェイガーさん。作戦を壊しちゃってごめんなさい。でも、わたしはこうすることを、選ぶの』
小さな歯車はカチカチと回り出す。彼女が与えられる影響は戦場ではないに等しく。しかし、歯車が回る場所が、戦う場所ではないのならば。それが、【無認遂行者】という、隠れ忍び、密かに使命を遂行することにおいて、右に出る者がいない領域でならば。
歯車は回る。その音は、最早誰もが無視する様な、微かな響きではない。
( ):はい、一章二節、白虎戦開始です。
(裏):例の如くネーミングセンスがない。
( ):ぐぬぬ。でもかっこいいんだもん!
Tips:白虎
( ):彼に明確な自我はありません。この場にいる時点で、彼は救われず、彼の大切なものは全て消え去りました。
( ):それでも、残さなければ白虎が動けなくなる様な最低限の部分は残されました。そこに付随する微かな彼の残滓と共に。
( ):彼がこの戦いで自我を取り戻すことはありません。彼が彼の親代わりの最期を知ることもありません。
( ):もし、彼に救いがあるのならば。それはオールたちが白虎を上回った時だけでしょう。




