収集と補強
⭐︎⭐︎⭐︎ 【絶命刀】 オール・フォルタム
「……ん」
朝。少しばかり眩しいそれは、やはり日光によるものではなく、それを反射する虹色の光。昨日の夜とは打って変わってギラギラしてる。
「……嫌な色だけど、目覚ましには丁度いいんだよねぇ……」
横になっていた上体を起こして周りを見れば、少し高い視点から周りの光景が映っている。まぁ、今いる場所は木の上だし当然だね。といっても、木の一番上じゃなくて、普通の大きな木の半ばほどにあるうろにいるんだけど。うん、大きいとは言え木に私くらいの大きさの物体が入れるとは思わなかったよ。
「さて、今日はやることが決まっているからね。早めに行動しないと」
食事は不要。本来なら睡眠もいらないけど、寝ていないとパフォーマンスに支障をきたすだろうから仕方なく。
「よっと」
うろから飛び出て、少し下の地面に無事着地。えぇ、別に地面についた右手が痛いとかそういうことはありません。捻挫?私には無縁ですね。ははははは、ははは、はは……。
「肉体変成」
これでよし。誰も見ていなければ、それは無かったことになる。歴史というものは往々にして晒されてはいけない闇を葬ってきた上でのものなのさ……。
「なんか朝からイタイって言われた気がする」
私はもう二十歳超えてるのよ?厨二病なんてとっくの昔に過ぎてるわ。
「あぁそうだ、確認しておかないといけないことがあったんだった」
歩きながらも少し確認することがあったので、『解析』を使って自分のスキルを調べておく。今日向かうところはそんな時間はかからないけど、短いわけでもないからね。警戒は怠らないにせよ、暇は潰さなければ。撲滅撲滅!
「んー、特に効果は増えていない……」
私が見ていたのは『死霊』のスキル。そろそろカンストだし、昨日9にもなったから効果が増えてるのでは?と思ったのだけど、どうやら特に追加はないらしい。おいおい、効果が対価にあってないですよ。コスパ悪いわよー。
「むぅ。少しばかり時間つぶしにはなるかもと思ったのに……対策はもう完成してるし、構想もしっかりしてるから今は考えることないのよねぇ。……仕方ない、走って向かいますか」
徒歩から走っての移動へ。地球での身体能力なんて比ではないその速度で、木々を置き去りにして目的地へと一直線ね。
「そう言えば、走るのではSP減らないのよね」
むむむ。スタミナポイントなどと銘打っている割には判定がわからないわね。まぁおそらくスキルとかでの消費によるものでしか減らないのでしょうけれど……走りで減らないのは、死霊だからかしら?
「だとすると結構いいわねー」
今まで死霊の恩恵といえば、肉体変成が主だったからねぇ……霊体変換とかも、使いようはあるのでしょうけれど、何分効果時間が長くない上に、知性ある存在との戦いでは大体がスキル終了直後に攻撃をもらって、ただ損傷を増やすだけになるから、難しいのよねー。
「対価変換は……」
『死霊』スキルレベル……7だったっけ?得たのは、消費する値を変化するもの。あれは使えると思ったのだけど……やっぱり限界ギリギリでの戦いだと一HPが勝敗を分けたりするわけで。
「あぁでも、SPが出た今なら有用かもしれないね」
うーん……そう考えてみると、案外『死霊』スキルって扱いが難しい?肉体変成の貢献が大きすぎるのよね……。
「まぁ、それでも白虎戦では、使うことを惜しむつもりはないけどね」
たとえ扱いづらいスキルであろうと、使える状況では頼りになるスキルばかり。ならば、その状況に相手を引きづり込めばいい。幸い、攻めるのはこちら側だからね。誘導なりなんなりして、私が仕上げた戦場へと招待すれば、それでいい。
「戦いは如何にこちらの力を引き出し敵の力を封じるか……っと。ふふふ、見つけたよー」
少々考え事をしているうちに、無事に目的地には到着。うん、やっぱりいたね。
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種族:ハッピー・シープ Lv:71/72
状態:通常 ランク:B +
称号:【糸術士:Lv8】 副:【守護者:Lv1】
HP:219. MP:347. SP:289
STR:427. VIT:230. AGI:67. INT:121. MND:193. DEX:365
技能:『操糸:Lv9』『斬糸:Lv7』『遠隔操作:Lv3』『ガーディアン・ハート:Lv1』『硬化:Lv1』『物理耐性:Lv1』『斬撃耐性:Lv4』『天糸領域:Lv6』『気配感知:Lv2』
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「めー」
……なんかこの前の猿を思わせるやる気のない声ね。まぁ、いいわ。
「今日の獲物は君だよ、羊さん。『解析』……いや、羊さんではなく、ハッピー・シープ。……んぇ?んん??え、何その名前。トリガーハッピー?」
「はっぴー」
「嘘でしょその鳴き声わざとらしすぎるでしょ、おぉおお!?!」
危険を察知!ヒ⚪︎ノニトン!咄嗟に出たけど聞かなかったことにして!というかそれどころじゃない、くっ、お目当てのものとはいえ、いや、だからこそ性能がいい!そして性格が悪い!!
「はっぴー」
また『気配感知』に従い、全力で跳躍する。同時に元々私がいた場所に刀を残せば……あら不思議、何もないはずの場所でプツリと音が。
「これだね、今日のお目当て……!」
そう、見えないわけではない。単純に見えづらいだけのそれは、糸だ。糸田じゃないよ、糸だよ。というかそんな名字の人いるかなぁ?いや、世界は広いしいるでしょう。
「めーぷる」
「いやっそれ、関係、あるっ!?」
今度は同時に何本もの糸が同時に襲ってくる。避けると同時にやはり刀を置いて、糸を切断。今回の目的はこの糸だ。まぁ収集したとして何に使うかは実際わかっているかもだけど、今はそれは言わないでおく。サプライズだからね。驚いてそのまま心臓止まったらいいんだけど。
「なにはっ、ともあれっ!糸をぉ、ください!」
「めろんぱん」
なんだこいつは!?さっきから動いてないのに糸の動きだけは超精密に羊の羊毛から放ってくる。そして何よりも、めから始まる単語の連発。なんだ?一体どういう意味なんだ……!?
「いや、なんの意味もないでしょ。というかただの煽り、ンゴ……!?」
なんだ、私たちはしりとりでもしてるのか!?嫌なんだっていいわ!糸よこせ糸ぉ!
「めいどいんちゃいな」
「いやおっかしいだろぉ!!」
何故だ!?うわっ、絶対意味ないのに超気になる!!前見た時はこんなやばい奴じゃなかったのに!?なんだ、こいつもしかして突然変異個体なの!?
「め い じ」
「もう煽りだとしてもすごいよ!?」
はいっ、これで大体30メートル分の糸!!思ったよりも一度に放たれる糸の長さが長い。これなら案外……。
「main weapon」
っ!?英語だとぉ!?いや、それどころじゃない!いやそれどころだけどそうじゃなくて!
「な、なにそれぇ……」
「mode change」
糸による斬撃が終わり、代わりに羊の周りに丸い何かが浮遊する。無数のそれは、しかし羊のネイティブ発音イングリッシュにより射出され、私の方へ向かってきて……その正体を理解した。
「いやっ、斬撃の次は銃撃ぃ?!とことん地球を想起させますねぇっ!」
それは、弾丸のように飛翔する銃撃だ。しかし、私が普段使ってるようなただ打ち出すものではない。それは、触れれば明らかに変形し、私を拘束するだろうと一目見てわかるほどの、エネルギーが込められていた。具体的にどんなエネルギーかはわからないけど、実際私はそう判断して、そして避けた。
「……へ?」
気づけば、私の体はズタズタに切られていて。そこで、初めて気づいた。私の指をいくつか切り落とし、片足すら半ばから切り落としたそれは、なんてことはない、最初からあったのだと。
「……っ」
見れば、羊は笑っていた。まさしく末期患者のように、やべーやつのように、ハッピーな顔で、笑っていた。
「本当にそういう意味でのハッピーなの……?!」
っ、自分がするのはいいけど、されるのは嫌なことって、あるよねぇ!!
「罠とかさぁ!こっちの十八番なんだよねっ!」
はぁもう許せんなー!?ちょっと練習も兼ねて純粋なスキルなしでの技術を上げることも目的だったけど、ここからはスキル全開だよ……!
「『傷の祝福』は……強化倍率はまだそこそこ。それなら『自己再生』で回復しよう。『妖刀』は、まぁ、使おうか。狙うは一撃必殺……」
素早く思考を組み立てどこにどう動いてどんな攻撃を当てるかを考える。幸い、考えるだけなら早めに終わる。
「シミュレーションはーおk。それじゃぁ、さっさと終わらせましょう!」
周りにはもう十分に糸がある。さっきの銃撃(笑)で一気に必要量まで溜まったね。『己掌転決』でAGIとSTRにVITとMNDの値を叩き込む。この前一気に魂関連で技術を上げられたから、変えられる量も増えてるの、さ……!!
「……ここだね」
羊の斜め上に飛び込む。当然のようにそこにも糸が飛んでくる。空中だから避けられないと思った?残念、避けてもらうからいいんだよ。
「めっ!?っこめこー」
サプレッサー付きハンドガン。音は抑えめで、でもバレるだろうから少しでも近くから。おっけー、やっぱり動きは遅いね。判断が遅いっ!!
銃弾が羊の顔にめり込む。でもまぁ、牽制一発程度、耐えられるくらいの耐久力はあるようで、さらっと無視され斬撃をそのまま私に打ち込もうとする、が……?
「ふふっ、一瞬でも気が逸れたでしょ?」
「!!」
羊の視界の裏へ、死角へと移動。一度でも羊の認識から私が外れれば、その瞬間に『迷彩』は起動できる。声だけ聞こえてるような感覚だろう。恐ろしかろう。
「だから、私が終わらせてやろう」
咄嗟に糸を全天周囲に展開する羊。明らかに練度が違うそれは……恐らくは『天糸領域』かな?うんうん、明らかに切り札っぽいそれを使うとは、焦ってるね?実際、先程までののんびりした面はもうどこにもない。でもね。それはちょっと、遅かったよ?
「鎌鼬」
スパンと首が飛んだ羊さん。ハッピーに逝ってらっしゃい。
⬜︎
「……さて、と」
周りにあった糸は全部回収した、羊さんが持っていた羊毛……やけに切れ味が良すぎる羊毛っていうか凶器も回収して、今からもう帰宅のところ。
「まぁ、今日寝泊まりした木に行く前に、先にこの糸使ってからだね」
そうして走ること十数分。体感では結構長かったけど、案外実際には数分とかそこらかも?まぁ、今はそれはいいか。それよりも。
「うんうん。本当ならこのままでも完成と言ってもいいはずなんだけどなぁ」
目の前にあるのは障壁や足場など、立体的に動けるよういろんなものが置かれた、一見すればアスレックに見えなくもない広場。でも、その実態は白虎戦で使う、私たちの戦闘フィールド。あいつに対して、防御なんて無駄だから、回避もしくは隠れることを補助できるようの作ったここなんだけど……。
「……まぁ、あの羊さん見つけちゃったからには、やるしかないよねぇ。攻性防御システム」
実際にはそんなに複雑でもないただのカッコつけの言い方だ。でも、実際に上手くやればダメージを与えることができるかもしれない。少しでもダメージ量を稼げるようにしておきたい私たちからすれば、組み込まないなどあり得ない。
そうして作業を続けて、どれくらいかはわからないけど、、あだ日が高く登っていた頃から一変、辺りはもう真っ暗になっていた。
「……ふぅ。妥協はできないとはいえ、結構時間かかったなぁ」
出来上がったものを見て私はそんな言葉をこぼす。これがどう影響するかは分からない。でも、少しでも私たちの目的達成を成就するために。
「手段は、選ばないよね」
まぁ、そんなに外道でもないけどね……。そう思ったけど、特にその装置について感慨を抱くわけでもない私は、さっさと木のうろに戻ってとこに着くのであった。
⭐︎⭐︎⭐︎ 【無認遂行者】ベフェマ
『くぁぁああ……』
ね、眠い……。全然眠れなかった……。
白虎とのデスレースを逃げ切り、夜にオールさんに情報を共有した後になんとか寝れる場所を見つけてようやく就寝した昨日のわたし。いや、ぶっちゃけ一睡もできなかった。物音がするたびにびくりとして起きて、それからうとうとしてまた起きて。もはや浅い眠りですらなかったから実質徹夜だと思うーの。
『……うぅ。寝たいけど……レベル、上げないと……。意外と、レベルはもうすぐだから……』
昨日は確かに白虎と恐怖のデスマーチ?いや鬼ごっこか。まぁそれをやったけど、それの前は結構魔物の奇襲アンド一撃必殺を繰り返していたからか、レベルはガツガツ上がっていたのである、なーの。多分三人の中でも一番レベル上がってるんじゃないのかしら?
『今日中にレベル上げ……終わるかなぁ、なーの』
昨日、オールさんから密命……密命?まぁ普通に依頼をされたから、そのためにもまずは今日中に進化をしておかないといけないのだ。依頼をされたおかげで、今はステータスにも補正が恒常的に上がってるから、早く終わるといいなぁ。
『ご飯は……まぁ、これ貰ったし今日は大丈夫かな、なーの』
もっさもっさとオールさんに別れる前に貰った植物を食べておく。『解析』してもらって栄養価高いらしい野菜を完食して、そそくさと行動を開始する。
『今日のキルスコア……どれくらいになるかなぁ、なーの』
⬜︎
「グゥガァアアアアア!?」
『条件を満たしました。レベルがMAXへと上昇しました。』
『条件を満たしました。進化が可能です。進化候補が複数存在します。洗濯したくてださい。』
『……おっ、来たなーの。できれば望んでる能力がくればいいんだけど……なーの』
進化候補は……。
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種族:ペネロペ・ジェノ
隠れながらも、ひっそりと敵を殺すだけだった蛇は、遂にその牙をより苛烈に振り撒くことを決意した。隠れることはやめずとも、確実にその牙は隠蔽よりも殺戮をこそ望んでいる。ペネロペの牙の前にあらゆる防御は意味をなさない。
種族:ハーミット
隠れ忍び、尚もまだ他者へと存在を晒すことを恐れる蛇は、さらにその存在を薄めることを決意した。より薄く、その存在を世界と同化するほどの隠密能力を発揮する。
--
あ、あった……!
『よ、よし……それじゃぁ早速……!』
寝泊まりしている穴にダイブ!そのまま進化確定!
『ペネロペ・ジェノへの進化をお願いします!』
『進化が確定されました。進化を開始します。』
それでは数時間しか活動してないけど、おやすみなさぁい……。なーの。
⭐︎⭐︎⭐︎ 【絶命刀】 オール・フォルタム
『オールさん、進化終わりましたーの。進化で得た能力も、多分使える能力なーの』
「おぉ!それはいいなぁ!どんな感じ?正直進化で出る種族って、何参照してるか分からないからそこまで行けるとは思ってなかったんだけど……うん、できたならよかったよ!さすがだね!」
『はいはい!えーと、それなら……わたしの得た能力は『守護否定』というもので--』
『--という感じなーの!』
「良かったねぇ。それなら多分いけそうだ。問題は解決だね。うん、自力だとどうやって白虎に攻撃通すか対策立てられる気しなかったからほんとよかった。まぁ十中八九タイミングは訪れるだろうから、その時に奇襲お願いね。きっと一番ダメージ倍率高くなるよ」
『はいなーの!物理攻撃無効状態は、速攻でわたしがかき消してやりますーの!!』
いいね。これで、懸念も消えた。やっぱり完璧に作戦を立てることなんてできっこないわけで。昨日、ベフェマから齎された情報は、薄々勘付いていた白虎の性質を補強する証拠として私の考えを肯定し、結果として新しい懸念が芽生えることとなった。
それでもその懸念も今対策が立てられ、ひとまずは私たちが白虎との闘いの土俵に立つことは可能となった。まだ情報は足りない。それでも、ここまでやったのなら多少の効果はあると思う。きっと、そうだと信じたい。
「よし、それじゃぁこのまま定期連絡も済ませちゃおうか。意外と夜が来るのは早いものだからねー」
『わかったーの!それじゃあヴェイガーさんにも念話を繋いで……』
『……あー』
「お、やぁやぁヴェイガー君、なんか進展あった?こっちはベフェマが進化できたよ。私の方はぼちぼちだけど。ヴェイガーの方はなんかあったかな?」
『……えー、と。さっき、まで、強い魔、物と、戦ってて……倒した、ら、なん、か、重要?そうなの、出てきた』
「む?何それ。どんなやつ?」
『えーと……なんか、石?みたいな、のが、袋、入ってる。小さい、袋。掌、サイズ』
「んー?石が入ってる小さな袋……あ、お守り?」
『あー!それならありそうなーの!なんか書いてあったーの?』
『お守り……あぁ、えっと、不滅の命、と。書いて、ある。……あ、三つ、ある』
「三つかぁ……なんだかドンピシャすぎるね?きなくさいなぁ……でもこの箱庭自体もうただの神にとっての遊戯場とは思えないしなぁ。うん、わかった。それなら一回合流しよう。場所は、私が作った例の場所で」
『り』
『了解なーの!』
「それじゃぁ、あとでね」
念話を切って、空を見上げる。もうすっかり夜である。今日は特には何もなかったなぁ。まぁ、ベフェマとヴェイガーの方はあったらしいけど。
「……さて、明日にはレベル上げ、終わるかな?」
青龍戦でだいぶ上がっていたレベルのおかげで、私はもうすぐまた進化まで漕ぎ着けそうだ。準備もきっと、明日で最後のはず。だって、こうしてる今も、隠れられる場所は減ってるんだから。
視線を横へ逸らせば、そこには今日だけで二桁には登るだろう程の数のクレーターができていた。見晴らしがいい場所だからこそ、その規模と数には戦慄する。
「今日だけであんなにバカスカ打つとか、燃費はいいのかなぁ……」
少し、怖気づけそうになる心はさっさと奮い立たせる。どうせ早いか遅いかの違いしかないんだからねー。
「さて、それじゃあもう少しだけ待つとしよう」




