二百色の黒影
( ):黒ってな、二百色あんねん。(嘘)
「あっぐ……!?」
剣閃が煌めく。いつも通りに振るわれてくれる私特性の刀だけれど、今はちょっと、いや結構頼りない。
今私がいる場所はメリーくんを安置した凍結箱。似てるから冷蔵庫というけれど、ネーミングセンスに関しては触れないでほしい。
ここは周りと違って光がある。影が相手となれば普通明るい場所にいるでしょう?私がラノベとかで得た情報によると、影を用いて攻撃をしてくる敵ってのは大体私の背後にできる影から攻撃を仕掛けてきたりするらしい。
だから、背後の気配もしっかり『気配感知』で探っていたりと結構精密で頭を使う戦闘をしているわけなのだけど、残念ながら今の所予想していた攻撃パターンはなし。だからカウンターも無理。
ぞもそも……。
「こ、いつっ!!実体ないのかよ!!」
今もまた私の体は這い寄る影を真っ二つに裂いた。けど、その攻撃はすり抜けたみたいに通じていない。そもそも攻撃が通っていないのだ。
未だ敵の姿は全くの未知数。こちらの光によってくるのは不定形の触手っぽい手だけなのだ。まず打開策を見つけないといけないし、見つけても恐らく末端だろうこいつを撃退するだけではキリがない。だから本体も見つけないとでめんどくさいことこの上ない。
「ウザさで言えばあのゆるキャラ詐欺師をも上回る、か……?」
ないな。自分で言ってて断言する。あの全身の血流が噴火したみたいな腹立たしさはない。え?例えがおかしい?私的にはこれが一番しっくりくるんですー。
「兎にも角にも、まずはファンタジーらしく属性攻撃、だね……!」
⭐︎
黒影、シュバルツ。その名を持つ影は創造されてから初めてとなる戦闘を行う。その実態は機械のようなもので、収集したデータを基に常にその状況にとっての最適解を指すだけのもの。
そう、いかなる状況で、いかなる状態であっても最善手を打つだけの、機械。
「ちぃ!!」
だから初めてであってもシュバルツは揺らがない。淡々と、職務を全うするだけ。
スポットライトに照らされているのは、保管対象と、排除対象。
オールにとっては意図していたわけではないが、この状況は実はシュバルツにとっては苦しい状況である。オールは疲労を知らないが故に思考のキャパオーバーが起きるまでずっと、それこそ七日七晩でも戦うことができる。そういう体だけでなく、人間性をしている。
そしてもう一つ、シュバルツにとってやりづらいのは、保管対象がオールのすぐ近くにいる状況。スポットライトを動かせればやりやすくもなるのかもしれないが、生憎とシュバルツに舞台を整える権限はない。
シュバルツはガードナーだ。保管庫を守る番人と言ってもいい。だから保管庫の中身を傷つけることは絶対にないし、だからと言って侵入者、盗賊を見逃すのも職務に反する。
だから、自身の限界を正確に理解しているシュバルツは、この状況でも最善手を打つ。
「っ!?これはーー」
排除対象は驚きつつも、予想がついた未来にうめく。
シュバルツは影だ。その性質の一つに、『ドッペルゲンガー』というものがある。
⭐︎
「洒落臭、い!!?」
『肉体変成』を使うための気を伺っていたら、先手を打たれてしまった。それも結構致命的な手数を増やされる、行動を。
いや、手数を増やされるだけならまだいい。元々触手がいくつか同時に襲ってきたのを対処していたんだ、今更一対多という状況が変わるわけではない。
では何が問題か?それはだね。
「量に質を複合するのは違うじゃん!?!」
質のいい量を増やすことだ!!!あー、性格悪いなー、ちゃんと最善手打って来てるの腹立つなーー!!
「私はっ、どっちかっていうと一対一のがやりやすいのっ!!騎士道って知ってる!?!メリーくん守ってるんでしょ!?じゃそれもう騎士じゃん!!堂々と戦えや!!」
やばい、自分で言ったことだけど超理論すぎてウケる。でも笑える状況じゃねーんですわこれが。どういう状況か教えてあげましょうか?
シャチに鷲に白ヒョウ、そして私が最も忌み嫌うクッキー詐欺師、似非ゆるキャラの四体が追加。はい、この状況はなーんだ?
「四面楚歌だオラァ!!!」
ひーん、泣いちゃうでござる。しかも追加でタコっぽい触手も一緒に私を殴ってくるし、これがほんとの「タコ」殴り!ってね!!
「あーやっべ、冷蔵庫近いからかな、寒っ」
この状況で親父ギャグはちょっと、きちーっす。そしてこの状況も、マジでキツいです。もう一分も持たないです。ですのでカードを切ります。
「私のターン!唸れ私のガチャ運!今日の私はいける!勝負所の私はついてる!!いけるいける!できるできるッッッ!!」
思考という言葉を取り去った今の私にできること、それはーー根性論!!
はっ!?目の前が虹色に光っている気がする!!これはあれだ!確定演出だ!!いい奴が来る!なんかこの状況を覆せそうな奴!!
あれ?なんかマジで光ってね?ていうかあの光、前にも見たような気がーーあ゛
「/(^o^)\」
蘇る、辛い歴史。メリーくんと意気揚々と塔を全部破壊した時、あいつは現れた。そう、あの後いい奴っぽい感じ出してたし、実際いい人なのは間違いないんだろうけど、私の寝床をぶち壊した犯罪者。あれ?私の寝床ってあれ勝手に使ってるだけだし、むしろ私が犯罪者?不法侵入してる??
「違う違うそんなこと考えてる場合じゃない!!密室版裁きの礫はダメ!!大体それアル⚪︎ウスの技でしょ!!ポ⚪︎モン以外が使うなよ!!ダメ!!死ぬ!!終わっちゃう!!」
影のシャチが光を溜める。今から発射しますよというアピールをこれでもかというほどしてくるあいつをぶん殴りたい私は間違っていないはずだ。
「ん?ぶん殴る?いやでも、あ、待てよ?」
先ほどシャチさんの裁きの礫騒動で全部ぶっ飛んでいたが、『魂の技術』で一時的に得たスキルは確かーー
「……!よし!よし!いける、間に合え間に合えーー!!」
⭐︎
シュバルツは想定外の状況に、一瞬揺らがないはずの体が揺れた気がした。ラグが生じた気がした。
死霊には魔力的適性はゼロであることは最初からわかっていた。本来、正当な手段でこの世に誕生したならば、生まれた瞬間から一定の魔力は持っているべきなのだが、それすらも持っていない彼女には魔力を操ることなど不可能だと判断していた。
世の中には自前の魔力をほとんど使わずに魔法などの技能を使う者もいるが、それだって自前の魔力を使わなければ使用はできず、更にその技能自体が非常に高難易度なもので、体内での魔力操作ができない、したことがないものではどれだけ才覚があったとしてもまず不可能のはずだった。
だが、この状況はその絶対を覆した。そう観測した以上そのケースを想定しなければいけない。そのように一瞬で判断できるところがシュバルツという機械のメリットでありーーそういうものとして受け止めてしまうデメリットでもある。
シュバルツが観測したのは端的に言って、大逆転というものだった。
黒い渦が、いや、黒い水が渦を成している。その渦は先ほどシャチが『対生組織用崩壊光線』を放とうとした際に死霊の手の内から生成され、一瞬にしてその絶対量を増幅させたのち、その全質量をエラディケイトと相殺。完全にエラディケイトを消し去った。
『対生組織用崩壊光線』、通称エラディケイトは前にシャチが都市内で放った『対都市用破壊光線』とは違い、生物だけに効力を発揮するものだ。広範囲に及ぶ攻撃なのにも関わらず、シュバルツが攻撃許可をしたのにはちゃんと理由がある。
メモリーも一応は生物の枠に入っている。エラディケイトに触れればその体組織を崩壊させられることになるだろう。けれど、エラディケイトは無機物に触れられればその効力を削がれる。生物に触れれば効果覿面だが、無機物、例えば建造物などに直撃すれば無意味なただの光と化すのだ。
だから、その攻撃が放たれれば、同じく生物でないシュバルツを除き、生物の枠に入るであろう少女だけを消し去ることができる……はずだった。
実際には放たれもせず、先ほどまで通じていなかった攻撃とは違い、明確に影に干渉する攻撃で持ってエラディケイトの発動を阻止した。
シュバルツは淡々と思考する。これは危険度を上げる必要があると。シュバルツはその危険度に応じて更に四体の影の能力を解禁していく。こうすることで必要最低限のエネルギーで敵を滅殺することができるのだ。
その危険度が……間違っていなければ、だが。
⭐︎
『縛濘滂沱』の調子はいい感じだ。正直そんな期待していなかったが、本当に強いスキルがきて私はご満悦である。
今、私はちょっと調子に乗っている。そしてそれが許されるほどに状況は好転している。
『ーー!?』
黒影はなんだか驚いた様子だ。あのやべー裁きの礫が相殺されたことには驚いていなかったのに、どうして自分達影が消されたらそんなに驚くのだろうか。
「はい、一体やりー」
思ったよりも私は上手く『縛濘滂沱』を扱えている。初めてとは思えない動かし方だ。相手が触手で私を潰そうとして来たので、こちらも触手(黒水)で叩き潰す。
シャチさんの偽物は、光線を相殺した勢いで、そのまま握り潰した。あ、勿論黒水でね?通常攻撃じゃ暖簾に腕押しの影たちだけれど、やはりというべきか、反面魔法とかそういうファンタジー攻撃には弱いようだ。
「……おっとー?」
どうやらあちらは戦術を立てて来たようだ。わかりやすく統率された動きで私を三体で囲みに来ている。やはり全体を俯瞰している本体がいるな。
「でーもー。その俯瞰が追いつかない程度の速さで、ぜーんぶ薙ぎ払えばモーマンタイィ!!」
力こそパワー!つまり私は最凶!!ここで最強とかは言わない。だって世の中絶対こいつらよりやばい奴らとかいるもん。三人がかりでも殺しきれなかった白虎とかね。そして私はそいつと同格の青龍は殺した。
「つ、ま、り!私一人すら殺せねーテメーらじゃあ、青龍殺した私より下ってことなんよぉお!」
『縛濘滂沱』出力全開。頭がズキズキ痛むくらいの情報が流れてくるけど、やるしかねーんですわ!!ほぉら渦巻け渦巻けぇい!!室内丸ごと深海にしてやんよっ!!
圧倒的な出力で鷲も豹も象も全部圧殺していく。このスキルは本来相手の運動エネルギーを全部ゼロにしてその上で摩擦で相手をぶっ飛ばすものだ。だからそれで敵の全周を覆ってそのまま隙間をゼロにすると。
「はい3キル達成!このまま本体見つけ出してやらーっ!」
周りの中ボス処理完了、となるわけだ。さーて、このまま室内を全部黒水捜索して本体、をーー?
『条件を満たしました。『魂の技術』レベル4へ上昇しました。』
「っ、は、れ?」
ぐらりと頭が揺れる。情報の処理が追いつかなくなったのかもしれない。少し黒水の勢いを弱めてみるが、平衡感覚が戻ってこない。どういうこと?何が、どうなってるの?
「っぅ、く」
膝をつく。戦場では致死行為だ。今が中ボスを一度一掃した直後だからまだマシだけど、このままでは好機と見た黒影が攻撃してかねない。それは対処できないからまずい、なんとかしないと。早く、早く!!
「〜〜!生命、力、を、う、しなった、のかな?」
思えば、このスキルを持っていたスライムも、自身が最初から持っている黒水を操作していただけだった。あれも生命力を使っている判定なんだろうし、無からその黒水を生み出した私が使えばその消費量も跳ね上がるってわけね。
出力が高かった理由もわかった。あれは、消費するものが貴重だからあぁまで効力が高かったんだね。それにそもそも使ってるのがボスのスキル、こうなってもおかしくはない、か……。
「………っふぅー。『魂の技術』、解除。経験値失ったのは痛いけど、それで生きられるなら文句はない。そう、これのおかげで今私は生きている。だから、これも受け入れて、そして、その上で、勝利をっ、掴む!!」
腰を上げて構えを取る。もう大丈夫だ。生命力の過剰喪失による一時的衰弱はまだ残っているだろうけど、それでもここまで来ればもうなんとかなるはずだ。
刀は離していないね。黒水で索敵した範囲も覚えている。この広間全域には至らなかったけど、それでもだいぶ絞り込めた。
この状態で影の本体が隠れている場所としてあるとするならば、それはそもそもこの広間にいないか……それとも。
敢えて索敵していなかった領域。黒影は果たして気づいているかな?私は確かに派手に黒水を展開した。それは急激に私の生命力を消耗させる結果になったし、その様子を見ていた黒影はきっと私が適当に水を撒き散らしたようにしか見えなかったかもしれない。
「ふふん。練度は低くても、大雑把な場所指定とかはできるんだよなぁ……?」
私は敢えてその場所に黒水を届かせなかった。それは、黒影が思っているような理由ではない。一番黒影が潜んでいる可能性が高い場所を知っておきながら、なるべく他の場所を索敵するようにした。……ふふ、ねぇ知ってる?人質を使う奴は嫌われるよ?
私は確かに鉄砲玉気質なところはあるけれど、大事なことは慎重にやっているつもりだ。例えば、黒水の制御が効かなくなった時のために、先に時間がかかる場所を調べておいたりする。
まぁ、今回で言えば、その時間がかかる場所というのはスポットライトに照らされていない暗闇の空間全域のことなのだけど。広間の形は把握した。円形のホールのような場所だ。そして、私がそれを把握しているということは、この広間の端はすでに確認しているということ。
「暗い部分は大体調べた。十中八九本体はそこにいない。良かった、私の考えは間違っていなさそうだ」
暗闇を見据えていた視線を反転させる。向けるのは、スポットライトの中心。この広間の最重要物。
「この冷蔵庫にメリー君が入っていることに異論はない。これでもそこそこ一緒に旅したからね。ある程度の見分けはつくとも。そして、影の本体って、私は実体あると思うんだよね」
というか、正確には実体がない場合は勝てない、と言った方が正しいかな。本体がないなら、黒影は本当に影そのもの。この暗い空間そのものとなっていることになる。私はいつだって物理攻撃が効かない相手には相性が悪い。
今までは実体がなくても規模自体はそこまで大きくない相手が多かった。要は、私の決して高くはない属性攻撃でもなんとかなった。今回は違う。それだけの話。単純に手が届かないんだね、その場合は。
「まぁ、確率は結構あると思ってる。これでダメだったら黒影を倒す手段は思いつかない。つまり、メリー君は助けられるかもだけど、この場を脱出できる可能性は低くなる。それに、黒影を倒さずにメリーくんを助けられるなんてそもそも無理でしょう?」
こんなあからさまに手が届く状態になっているのはなんでなのやら。多分それは、手が届いても問題がないということ。そう、たとえば条件が揃わなかったらそもそも開けられなかったり……
「或いは、君自身が本体として守っているからなのか」
自然な流れで、まるで当然のように滑らかに差し出された刀は、けれどやっぱり弾かれた。あぁ、硬いな。これは、どう考えても当たりだ。
「そもそも、明らかに番人として当てがわれている君が、メリー君を守っていないはずがない」
最初にメリー君が手の届く場所にいた時点でおかしいと思っていた。これをすることで利があるとすれば、手が届くはずなのに助けられない状況に、私の心が疲弊すること。
でも、それは私がメリー君を助けられないという前提があって成り立つ。でも、ポツンと冷蔵庫の中にメリー君がいるだけで、その周りには何もなかった。すぐそばまで何の苦もなく近づけた。
この時点で前提が狂っている。でも、事実は変わらない。あるとするならば、私の予想の外の方法でメリー君を守っているということ。たとえば、黒影自身が殻となってメリー君を守るとか。
「でも、そうだとすれば裁きの礫を撃とうとしたのも理解はできる。この硬さで、自分が手ずから守っているとなれば、無差別攻撃をできても問題ない、のかな?もしかして、あれは使用者には通じなかったりするのかも」
とにかく、冷蔵庫自体が黒影本体なのではないかと疑いを持ったのはシャチさんが裁きの礫を撃とうとした時だ。その直後に黒水を使えるようになって、それで念の為他の可能性を潰しておいた。
「手詰まりか。でも、見つけた。君という個体を、はっきりと私は認識した。それで、十分」
変わらない様子の冷蔵庫を、その奥のメリーくんを見つめる。冷蔵庫が微かに動いた気がするのは錯覚か。




